48話 黒幕の正体、そして最終決戦へ。

 圧倒的だった。


 先頭で駆けた佐藤さんが手に光を宿したかと思えば、アジト内にいた敵がバタバタとやられていく。


 表情は一切変えず、曇らず、ただ淡々と処理をしていく。


 もちろん俺たちも戦った。おもちも、御崎も、他の仲間たちも。


 そんな俺たちがつい見惚れてしまうほどに、佐藤さんは――強い。


「な、なんだこいつはよおおおおおおお!? 話がちげええぞおおおおおおお」

「ほう、バリアですか。いい能力スキルですね。けれども、隙間がありますよ」


 右手に持った真っ白な光を浴びた剣をバリアの間にミリ単位で差し込むと、相手の腕に突き刺さって倒れ込む。

 次に後ろから振りかぶられた斧を回避すると、距離を取って剣を投げつけるかのように構えた。


「ふむ、近距離は分が悪そうですね」


 次の瞬間、光輝いていた剣が、弓に形状変化していく。

 間髪入れず魔法の矢が放たれ、敵は悲鳴をあげて倒れた。


 レイピア、剣、盾、弓、敵に合わせて武器が瞬時に変化していく。


 これが、佐藤さんの能力だ。『七色の武器レインボーウェポン』と聞いていたが、このことだったのか。


 ミリアも雨流が最強というのも頷ける。


「ピイイイイイイイイ!」

「火、火がああああああああ」

「がううう!」

「な――ぐがはああああああああ」


 次第に敵は減っていく。


 だが――。


「佐藤さん、なんか変じゃないか?」

「気づきましたか。――ええ、明らかに弱いです」


 そう、敵が明らかに弱い。それも能力者が少ないように思えた。

 予想していたよりもかなりだ。


 それに「話がちげえぞ」と叫ぶやつがいた。

明らかにおかしいと、俺は一人を捕まえて、すぐに聞き出した。


 そしてすぐにその理由がわかった。


「な、話しただろ!? 解放してくれよ!?」

「クソっ! 最悪だ」


 これは罠だった。俺たちが来ることは知っていたらしい。

 弱い連中で、簡単な仕事だと言われていたとのこと。


「何が狙いだ!」

「し、しらねえよ! 俺が知ってるのは、雨流のスキルに1億円の懸賞金が――」


 次の瞬間、何かを言いかけて気絶した。

 死んではいないようだが、誰かのスキル――BOSSか!?


「佐藤さん!」

「……ここから雨流様たちの場所までは30分はかかります。通信テレパシーも繋がらないようです」

「クソ!」


 不安と焦りが冷静な思考を妨げる。

 グミに乗って急いだとしても15分はかかるだろう。

 

「ぷいにゅ!」

「田所……そうか、頼む。限界まで俺を”運んでくれ”」

「阿鳥、何するつもり?」

「羽に擬態してもらって空を飛ぶ。危険だが、川を渡ればすぐだ」


 雨流たちのところへ行くには、大きな海がある。だが、空を飛んでショートカットすれば10分、いやもっと早いかもしれない。


「おもちも手伝ってくれれば何とか持つはずだ。本当は佐藤さんがいいと思うが、炎耐性がある俺じゃないと何か問題があったら困る。グミは……佐藤さんを運んでくれ」

「がう!」

「御崎様、阿鳥様の指示に従いましょう。今は一分一秒が惜しいです」

「……わかりました。阿鳥、頼んだわよ」

「阿鳥、無理すんじゃねえぞ! 俺たちも急ぐぜ!」「ピピ!」


 リグレットや、残りのメンバーは確保組と移動組に分かれた。


 田所は俺の背中にくっつくと、赤い炎の翼に変化する。

 次の瞬間、空高く舞い上がった。おもちも補助要員と道案内をしてくれるらしい。


「ぷいにゅうう!!」

「頼んだぜ、田所! おもち! グミは佐藤さんを頼んだ!」


 下を見ると、トイプードルみたいな小さいグミにちょこんと座る佐藤さん。

 まるで遊園地の屋上にあ……いや、今はそんなこと考えてる暇なんてない。急ぐぞ!


 ◇


「ぷ、ぷいにゅう……」

「あともう少しだ、頑張ってくれ!」

「キュウ!」


 予想よりも遠かったが、なんとか工場が見えてきた。

 魔力はなぜか感じられないが、絶対にいるはずだ。


 田所の力が、弱まっていく。飛行は凄まじい魔力を消費するらしい。


「田所、上から落としてくれ。後は何とかする」

「ぷ、ぷにゅ!?」

「大丈夫だ。そのほうがはやい――今だ!」

「ぷいいいい!」


 翼が解除されると共に、工場の天井付近が近づいていく。

 身体が浮遊感で満たされていくが、視線はそらさない。

 おもちも隣で下降しながら様子をみてくれている。


 俺は両手を翳して、グミの模倣水弾を打ち込んだ。


 まるで機関銃で穴をあけたかのように円形に小さな穴が開く。

 やがて衝突すると、勢いよく天井に穴が開いた。


 そして地面が見える。着地の瞬間に炎を思い切り漲らせ、ブレーキのように威力を殺した。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオン!


 衝撃音が響き渡り、煙が充満する。衝撃は抑えられたものの、くっそいてええじゃねえか!


 だが――やっぱりいたぞ。


「な、なんだあ!?」

「何が起こったああ!?」

「だ、誰か上か――ぎゃああああああああ」


 すぐ近くの黒ずくに切りかかる。

 敵は大勢だが、雨流たちの姿が見えない。いや、他の探索者たちもだ。


「ど、どこから現れやがった!?」

「雨流はどこだ? すぐに答えろ。でないと殺す」


 流石にそこまでしないが、脅し目的だった。

 だが漲る魔力は、俺たちが元々いた工場の奴らよりも遥かに高い。

 間違いなくこっちが本命なのだろう。


 だが――俺にはおもちがいる。


「おもち! 炎のブレスだ!」


 高速で移動しながら叫ぶと、上空からおもちが広範囲に炎のブレスを吐いた。

 手加減はほとんどない。こいつらの魔法防御力を感じて、死なないことがわかったらしい。


 叫び声が向上に響き渡ると同時に、俺は炎耐性(極)を最高レベルまで上げた。

 こんなに気持ちがいいのに、こいつらにとっては地獄なんだな。


 バタバタと敵を切り伏せたあと、一人の首を締め上げた。


「雨流はどこだ! 答えろ!」

「ひ、ひいい」

「すぐに言え。――今の俺は手加減できない」


 炎の剣を耳に当てると、ジュっと音が響いて肉の焼ける匂いがした。

 身体中にも火傷を負っているが、これにはさすがに怯えたのだろう。


 必死に奥の扉を指差す。


「は、はやく病院――」


 俺は思い切りそいつをぶん投げて、扉をぶち破った。


 中に入るとそこにいたはの――。気絶して倒れている雨流、そしてミリアだった。


「ミリア!」

「阿鳥、どうやってここに!?」

「そんなことより、雨流は大丈夫か!? 通信テレパシーがどうして使えない!?」

「気絶しているだけだわ。それは――」


 ミリアの視線の先には、俺の見知った人がいた。

 それも――二人だ。


「よおよお、元気か?」

「はっ、やっぱり元社長バカが絡んでたか」


 御崎の調べによると、先代から譲り受けた土地が数か月前に売却されていた。

 会社は倒産、それから悪い連中と付き合ってるとのことだった。


 そのことから、大体の目星はついていたが、見つけることができなかった。

 いや、それよりも――。


「お前に復讐したくてよお。それに能力スキルってのは金になるからさあ」

「そうか、だがこれでお前は完全に終わりだ。死ぬまで牢屋にぶち込んでやる。それに――真弓・・・さん、あなたがスパイ、いや――違うか」


 元社長バカの隣には、真弓さんが立っていた。それも並々ならぬ魔力を漲らせている。

 人の魔力にはそれぞれ個性がある。感覚でしかないが、白っぽく感じたり、黒っぽく感じたり。


 だが真弓さんから漂う種類は、以前とは違って無数にあった。

 

 通信テレパシーが使えなくなったんじゃない、使わなかったんだ。

 

 記憶を読み取る能力で調べたと教えてくれたのも、このアジトへの突入、グループ編成も真弓さんが行っていた。

 

 彼女こそが――黒幕だ。


「あら山城さん、あなたが来るのは十分後だったはずなのに。――ま、いっか」


 両手に性質の違う魔法を漲らせた。後ろには、テイムしたであろう凶悪な魔物が大勢叫び声を上げた。



 

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