47話 終止符へのカウントダウン

「お前、C級『速度の魔人』だな?」

「…………」


 ひと気のない夜道、街灯がちらついている電信柱の下で、四人の男が前後に立ち塞がった。


 黒ずくめのマスク、服の上からでもわかる漲る魔力。


 自己紹介をしなくともわかる。盗賊バンディートだ。


「その様子だと既に俺たちが誰だかわかってるみたいだな。BOSSの元に連れて行く。なあに、すぐ終わるさ。お前の早さをもらうだけだ」

「黙ってろ」


 そして阿鳥は、もの凄い速度で動いた。


「はっ! てめえの能力はわかってんだよ! この速さだけの野郎が、食らえ『捕縛の糸』!」


 男の手から、魔力の糸が飛び出てくる。それは身体に付着すると粘着性の高いガムのようなものとなり、身動きが取れなくなる。


「いっちょあがり。しっかし楽だな! 能力は相性! 流石ボスの言う通りだぜ」

「そうだな。――同感だ」


 相手が油断した瞬間、炎の充填・・・・を身体中に漲らせて、糸を全て燃やし尽くした。

 同時に手に隠し持っていた刃のない柄から炎の剣がメラメラと燃え上がり、目の前の敵を切り伏せる。


 間髪入れずに左手で充水を解放させ、グミの得意技を模倣した水弾を敵の顔面にお見舞い。

 三人をほとんど同時に倒したが、一人だけ能力を使ったのが姿を消していく。


「話がちげえじゃねえか! クソッ!」


 そして次の瞬間、男が完全にその場から消えた。


 すると、少し離れた場所から魔力を感じる。


 ――瞬間移動か!?


 だがそこは――予め塞いである。


「どういうことだよ。あいつは足が速いだけの能力じゃなかったの――」

「ピイイイイイイイイイ」

「赤い……炎!? ひぎゃあああああああああああああ」


 遠くから男の悲鳴が聞こえた。

 おもちの炎にやられたのだろう。今ごろグミに消火されてるだろうが、当分は火傷で動けないはずだ。


 大人しく俺にやられておけばよかったものの。

 

 その時、通信テレパシーが入る。


『山城さん、聞こえますか?』

『ああ、ばっちりだ。四人捕まえたぜ。真弓さん、ミリアは?』

『大丈夫です。こちらも制圧しました』

『よし、真弓さんのおかげで楽に倒せたよ』

『組織といっても、相手は烏合の衆ですからね。情報を流せば踊ってくれました』


 今話しているのは、スマホでも、インカムでもない。脳内で会話している。

 これは探索者協会の真弓さんの能力だ。

 能力名は『特定電話グループテレパシー』。

 距離無制限で最大五人と同時に話すことができる。俺たちの大事な中継役で、縁の下で支えてくれている。


 御崎が襲われたあの日から、俺は探索協会の元で動いていた。ミリアや真弓さん、その他の探索者の情報を元に囮となり、逆に相手を待ち構える。

 しかし成功ばかりではなかった。一般人が襲われるケースも多く、またA級の能力を奪われたことあった。


 今だスパイが誰なのかわからない上に、『BOSS』に辿り着く有力な情報はない。


 だが少しだけ心当たりと言うか、気になることがある。


 フリマにもいた、あの元社長バカだ。

 あいつの台詞が、どうも頭に残っている。――「てめえらの能力、強くて羨ましいなあ」。


 偶然とは思えないタイミング。御崎を狙っていた事も関係している気がしてならない。


「さて、お前たちを連れて行くか」


 気絶して倒れている男たちを睨みつけながら、憎しみと怒りの炎を再び灯した。

 

 ◇


 それから数週間が経過したが、盗賊バンディートとはいたちごっこだった。

 

 手下はどんどんと捕まっていくが、一般人が襲われると俺たちにはどうしようもない。


 だが良いこともある。

 それは心から信頼できる友達が増えたことだ。


「よお阿鳥、協会で見かけるのは久しぶりだな。最近のお前の活躍、すげえじゃねえか」

「はは、リグレットほどじゃねえよ」

「ピュウ?」


 C級、カリカリの魔術師、リグレット・田中。ブラジルと日本のハーフらしい。

 肩にいつも魔物のリスを乗せているが、見た目は強面の筋肉質ハゲだ。


「ピュウ?」

「どうしたピッピ、飯が食いてえのか?」


 リスとのコンビネーションと身体中に漲らせた魔力で身体能力を強化、二人のコンビネーションはすさまじく、C級とは思えない戦闘能力を誇る。ちなみにピッピはリスの名前。


 魔物をテイムした仲間たちは、みんな同じような不安を抱えていたり、中には配信をしていたりする人もいる。

 話も合うし、本当にいい奴らばかりだ。


「山城くん、調子はどうだい」

「ぼちぼちですよ、荒野さん」


 A級、荒野のオアシス。隣には、トカゲのような大きな魔物がのそのそと着いて来ている。

 頭に毛が一本生えているのがオアシスですか? とは、まだ聞けていない。


 あの日以来、共に戦っている大切な仲間だ。

 だがみんな同じ気持ちを抱いていた。


「しかしいつまで立ってもBOSSは尻尾を掴ませませんね」

「ああ、早く見つかってほしいです」

「それにスパイも」

「ああ……」


 ミリアは警察との情報交換や色々な法的な処理に追われているので、連絡は取っているが会えてはいない。

 雨流も戦闘に参加しているものの、御崎を守る為に傍にいたり、ミリアに呼ばれることが多くて忙しい。

 佐藤さんも同じくだ。


 だが今日、俺たちは久しぶりにミリアに呼び出された。


「お待たせしました。会議室に来てもらえますか?」


 もちろん、それがただ事ではないことも分かっていた。


 ◇


「それ、マジかよ」


 リグレットが叫ぶ。


「ピッピピ……」


 リスのピッピも驚く。


「ええ、それが……今日の夜なんです」


 今はごく少数の信用できるメンバーだけが集められている。

 ということは――。


「このメンバーで行くってことか」

「はい、山城の言う通りです」


 探索者の一人が記憶を読み取る能力を使って、ついにアジトを突き止めたとのことだった。それもちょうど今日の21時、ピッタリの時間に能力を奪うらしい。

 明日になれば情報が出回ってしまって、場所アジトが変わる恐れがある。


 そしてBOSSの正体もついに判明した。


 名前はわからないが、男でなおかつタバコを吸っていて、ヤクザのような風貌、そして――ふくよかな身体。


 ……あの元社長バカが真っ先に思い浮かんだ。


 そして驚いたことに、スパイの身元がようやく判明した。

 現役探索者のB級で、俺も何度か見たことあるやつだったが、既に拘束されているとのことだ。

 その男の証言からも、アジトとBOSSの風貌が完全に一致したという。


 だが他にいないとも限らない。それで信用できるメンバーで突入しようとのことだった。


 問題は、アジトが二つあるということ。


「もしかしたら罠かもしれません。ですが、やる価値はあると思います」


 俺たちは顔を見合わせる。ここにはいないが、能力を奪われた仲間もいる。

 一般人を守るにも限界があった。

 この戦いを早く終わらせたい気持ちはみんな同じなのだ。


 当然答えは、満場一致だった。



 突入はミリアの指示を待って同時にすることになった。

 時間差にしてしまうと、情報が洩れて逃げられる可能性がある。


 主力メンバーを筆頭にして、二手に分かれ、盗賊バンディードのアジトを襲撃することに。


「山城、気を付けてくださいね」

「ああ、そっち・・・もな」


 S級二人、A級二人、そして数人のB級を含めた。ミリア、雨流、真弓、オアシスがAの倉庫。

 S級一人、A級数名、B級俺、C級が数名を含めた。俺と佐藤さん、リグレットと仲間たちでBの工場。


 準備は抜かりなくとのことだったので、おもちとグミに頼んでフルで力を貯めていた。

 本人の希望で、田所も来ていた。


「危険なのは間違いない。それでもいいのか、お前たち」

「キュウ!」

「ぷいにゅ」

「がうがう!」


 正直、ありがたかった。相手は何人いるのかわからない。


 そのとき――。


「阿鳥」

「御崎、お前!? 何でここに来たんだ!?」

「ずっと引き籠ってるの、性に合わないのよ」

「ダメだ、危険だ」

「嫌」


 しかし御崎は頑なだった。その瞳は、いつもよりも鋭い。


「阿鳥やおもちゃん達に何かあったら、私はずっと後悔する。だから、一緒に戦いたい」

「……絶対無理するなよ。だったら田所は、御崎の防具になってくれ」

「ぷいにゅ!」

「ありがと……阿鳥」


 そして俺たちは車に乗り込み、アジトまで移動した。


 数時間後、工場に辿り着くと、ミリアからの通信テレパシーを待った。


 仲間に感知能力を使えるやつもいて、おおよその人数もわかった。


「……凄い数だ。30、いや40人はいいる」

「多いな……」


 想像以上だ。けど、退くわけにはいかない。

 

 これ油断なのか、それとも自信なのかはわからなかった。


 何人かが、アジトらしきところに入っていくのを確認。


「みんなそれぞれカバーできるように動こう。S級は佐藤さんだけだ。――頼みます」

「わかりました。任せてください」


 雨流姉妹曰く、佐藤さんは私たちより強い、だそうだ。

 直接戦っている姿はまだ見たことはないが、かなり心強い。


「ピュウ」

「よしよし、今日で終わらせるからな」


 リグレットも気合を入れる。


 そのとき――ミリアから通信テレパシーが入った。



『カウントダウン、5』


 空気が、変わっていく――。


『4』

 

 全員が、顔を見合わせる。


『3』


 一人残らず、倒してやる。


『2』


 戦いは――終わりだ。


『――一斉突入!』


「行くぞ!!!!」



 そうして俺たちは、夜の闇に飛び出していった。


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