88話 最凶の男

 アポカトラズ島刑務所は、孤島に立てられた脱獄不可能な能力者ホルダー専用の監獄だ。


 元々ただの無人島だった。

 だがダンジョンが突然現れ、能力スキルが使える人間が急増、当然それに伴って事件が起きたのである。


 逮捕された能力者ホルダーは刑務所に輸送予定だったが、能力を使用しての脱獄が起きた。

 大事には至らなかったが、それ以来全国、いや全世界で同じような監獄が立てられている。


 監獄の扉には能力不可能アンチマジックの魔法が付与されており、これにより刑務所内は能力禁止。


 そして脱獄者は今だゼロ人。


 ――のはずだった。


「真弓が脱獄!? それに……樽金の野郎もかよ……」


 孤島へ行く為の船に乗り換えようとした時、佐藤さんの携帯に電話がかかってきた。

 なんと、突然現れた悪魔が刑務所の柵をぶっ潰したとのことだ。


「数時間前だそうです。タイミングとしては最悪ですね……私たちが辿り着いてさえいれば……」


 そして驚いた事に、真弓、樽金、そしてもう一人、いや、そいつが一番危険人物だった。

 俺でも名前は知っているが、会ったことなんて勿論ない。


岩崎一いわさきはじめ……彼が世に出たのは危険極まりない」


 冷静な佐藤さんが、不安そうな表情を浮かべた。


 この島が建てられたきっかけは、この男が原因だった。

 当時俺はニュースで見ていただけだが、この男の手にかかって数十人が死亡した。


 おそろしいのは死因で、全員が衰弱死なのだ。


 体の機能が不全となり亡くなったらしいが、原因不明とのことだった。

 

 そしてなんとそいつが、悪魔を手なずけて脱獄したらしい。


 佐藤さん曰く、今まで能力については不明とされていたが、現状を考えると闇属性ではないかと。


「……阿鳥様、追加で連絡が来ましたが、岩崎一の面会記録に真弓の名前あったそうです」

「くそ、そういうことか」


 盗賊バンディードが出現する数か月前、真弓は岩崎と面会していた。

 何からの接点があったのか、それとも作ったのか。


 そんな危険人物たちが、脱走したのだ。


 だが真弓の能力は大人数で念話をするだけで、他人から能力を奪っていた魔法具は持っていない。

 となると、一番の危険人物は……岩崎一……。


「いや、ちょっと待てよ……くそっ!」


 そして俺は気付いた、いや気づくのが多すぎた。

 真弓は一度俺の実家を襲ってきた。今も場所は変わっていない。


 樽金も間違いなく俺を恨んでるだろう。


 ――御崎が、危ない。


 すぐに電話をかけてみたが、出なかった。

 不安に押しつぶされる中、折り返しがかかってくる。


「御崎! 今どこだ!?」

「……あら、久しぶりね。元気だった?」


 しかしその電話主は、御崎ではなかった。心臓が、強く締め付けられる。


「てめぇ……御崎に手を出したら――」

「あら、そんな返答していいのかしら? 彼女のこと、大切なんでしょう?」

「手を出したら絶対に殺す」

「あっははは、怖いわねぇ。大丈夫よ、まだ・・生きてるから」


『阿鳥、ここはいま――』


 むぐっと押さえつけられたような悲鳴、直後、樽金の声が聞こえた。

 グミの声もだ。おそらく一緒なのだろう。


 おもちと田所は、今俺の傍にいる。雨流は車で待機していた。


「ね、生きてるでしょ?」

「……何が目的だ?」

「復讐……と、言いたいけどそんなのはどうでもいいの。あなたの能力が欲しいのよ」

「能力だと?」

「ええ、その完全耐性が欲しいの」


 訳が分からなかった。魔法具は政府の手に渡って厳重に保管され直したことぐらいコイツならわかっているはずだ。


「xxxxxxxxxx、今から数時間後、ここに来てもらえる? 一人でね。おもちや田所、雨流や佐藤、他の誰でも連れてきたら御崎ちゃんの命はない」


 するとぶちっと、電話が切れた。

 佐藤さんと雨流に事情は説明したが、もう時間はない。


 車で飛ばしてギリギリだ。


「あーくん、私も行く」

「ええ、一人では危険すぎますよ。私も行きます」

「……ダメだ。真弓は狂ってる。それに樽金の野郎だって何するかわからねえのに、岩崎一ってやつもいるんだろ。俺は耐性があるから死なない。今は……御崎やグミ命が優先だ」


 そして俺は、二人を何とか説得して一人車に乗り込んだ。


 御崎、御崎、御崎、御崎――。


「クソ! なんで俺はいつも……同じ事を繰り返すんだ!」


 ただひたすらに不安と戦いながら、倉庫に辿り着く。

 そこは以前、真弓が俺たちをおびき寄せた場所だった。


 半開きになった倉庫の扉を開けて中に入ると、真弓が立っていた。

 樽金の野郎が、御崎にナイフを突きつけている。


 ……隙を見て何とかなるかもしれない。


 ここへ来る前、雨流の重力を吸収してきた。


 吸収剣はないが、隙さあえれば少しだけ斥力が使える。


 ――絶対助ける。


「あら、お久しぶり」

「ははっ、よお、阿呆鳥」

「阿鳥……ごめんなさい……」


 御崎が悲し気に泣いている。


 俺はゆっくりと力を隠し、近づいていく。


「おっとォ、それ以上はダメだぜ。どうせ力を使う気だろォ? よく視え・・るぜ。だが一人で来たのは褒めてやるよ」


 ……視える? だと?


「彼は後天的な能力者ホルダーになったのよ。もちろん、自然にじゃないけど」

「……どういう意味だ」


 真弓と樽金の後ろから、長身の男がのっそりと現れた。細身で長髪、例えるなら吸血鬼のような雰囲気だ。

 薄気味悪いが、顔が見えづらい。


「お前が山城阿鳥か――いい能力だと聞いている」


 ――こいつが、岩崎一か。


 ―――――――――――


 【 お礼とお知らせ 】


 新連載です、宜しくお願いします!


 異世界ハイファンタジー

【勇者に封印されていた魔族、復活したら魔王城が託児所になってました。魔法禁止の平和な世の中、最恐魔族はどう生きる?】

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 脱獄不可能だったはずの島でまさかの出来事が……。


 御崎を人質に取られ、真弓、そしてなんと樽金が能力を!?


 そこに現れたのは、最凶の男、岩崎一だった。


 次回、過去最高の窮地に陥る!?


「こいつヤバそう!」

「次回が気になる!」

「この話の続きがまだまだ気になる」


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