10話 初めてのダンジョン

「準備はいいか。おもち」

「キュウ!」


 御崎とダンジョンの近くで待ち合わせ。

 前には、無機質で大きな箱のような建物があった。

 周りには、探索者と呼ばれる人たちが大勢いる。


 一般人っぽい人から、如何いかにも強そうな人まで。


「色んな人がいるなあ。ってか、御崎のやつまだか」


 その時、スマホにメッセージが届く「後ろ」。


「え? どわあああああああ」

 

 思い切り背中を叩いて来たのは、ピチッとしたレギンスに身を包み、豊満な胸を露出させているタンクトップ姿の御崎だった。

 まるでアスリートみたいな格好だ。


「……エロいな。もしかして動画の再生回数のため――いたっ!? なんで、頭を叩くんだよ」

「バカ。初めてなんだから、動きやすいほうがいいでしょ。てか、阿鳥は、登山でもいくの?」


 御崎に指摘されたが、俺は家にあった登山グッズをかき集めていた。帽子、リュックサック、ロープ、カラビナ、ろ過できる入れ物。

 携帯食、テント、etc。あと、おもち。


「完璧だろ? ったい!? だから、頭を叩くなって!」

「身体を張って戦うわけじゃないんだから、軽装のがいいでしょ」

「そ、それもそうか……」


 よく見ると軽装の人が多かった。

 もちろん重装備の人もいるが、そもそもガタイが大きかったり、おそらくスキル持ちだろう。


 反省……って、あれ?

 気づけばおもちがいない。周囲を見渡してみると、探索者たちに囲まれていた。


「すげえ、フェニックスじゃないか? 熱く……ないんだな」

「俺知ってるぞ! おもちだよな!? すげえ!」

「可愛いー! 凄い綺麗な毛並みだー」


 マスコットキャラクターみたいになっているらしい。

 微笑ましい。ドッグランに連れて行った時の飼い主ってこんな気持ちいなるのだろうか。


 ここで女の子と出会いがあったりして……。


『山城さんのフェニックス、可愛いですね』

『そうでしょうか、それより、貴方のゴブリンちゃんのほうが素敵ですよ』

『そんな、狂暴なだけですよ。あら、ゴブちゃん、こん棒で山城さんのこと殴っちゃだめよ』

『ははは! 気にしないでください。骨の一本や二本、そんなの大したことでは――痛い!?』


 再び頭を殴られる。

 振り向かずとも御崎とわかった。


「変な妄想をするな」

「なんでわかったんだよ……」


 ◇


探索者ギルドカードの確認完了です。二人ともEランクになります。ダンジョンへの入場は可能ですが、1階層のみとなっております」


 入口で、スーツ姿の男性から説明を受けていた。

 ちなみにここにいる人たちは、探索者として高ランクだという噂だ。


 基本的にEランクからはじまり、順当に上がって行くとSランクまで到達することができる。

 上がる為にはダンジョンの制覇記録だったり、滞在時間や見合った功績が必要だ。

 ただ、重大な違反をすれば剥奪もありえるとのこと。


 過去に無謀な探索者がいたので、それで厳しくなったとのことだった。

 またいくら本人が強くても、ランクは一つずつしか基本的には上がらない。

 このあたりは海外と大きく違うところだ。

 アメリカでは一日でSランクに到達した化け物みたいな少女がいる……とか。

 

 いかにも日本っぽいが、そのおかげで世界でも類を見ないほど死亡率も低く、安全基準が高く設定されているのだ。

 慎重ものの俺としても特に不満はない。


「この水晶に手を翳せばいいのか」

「同時にすることで同じ場所に行くみたいね。おもちゃん、おいでー」

「キュウ!」


 説明を終えて通路を進むと、水晶のようなものが浮遊していた。


「よし、準備はいいな?」


 すると、探索者ギルドで刻んでもらった印が手の甲に浮かび上がる。

 俺だけではなく、御崎にも。


 随分と昔、公園に出現した野良魔物をスキルで退治したことがあるらしい。

 俺と同じように登録を促されて取得。その後、興味がなく放置していたとか。


「事前に調べてる通りだと思うけど、油断はしないでね」

「任せろ。逃げ足には自信がある」

「それ、ドヤ顔で言うことかな……?」


 御崎が呆れた顔を浮かべた瞬間、視界が切り替わった。

 七色の光が目を支配し、次に現れたのは――異世界のような大草原だった。


「すげえ……」


 草木が生い茂って、天を見上げるとなぜか青空だ。

 ダンジョンの中なのに、風が吹いているかのように気持ちが良い。


「よし、まずおもちは周囲を警戒。御崎は――」

「おもちゃん、これ持っててー、あ、機材はこれとこれと」

「キュウキュウ!」


 振り返ると、俺の話など聞いておらず、二人は鞄から機材を取り出していた。

 今日の目的は『おもちと初ダンジョン配信』


 なるほど。僕、なんか寂しいなあ……。


「よし、準備オッケー! ”動かしてあげるッ!”」


 御崎はスキルを発動させた。カメラがふわふわと浮き、操縦者のいないドローンのようになった。

 本当に不思議だ。


「それってどんな感覚なんだ? 見た感じ凄い難しそうなんだが」

「んー、手が何本もあるって感じかな? 特に難しくはないよ。右手で飲み物取って、左手で食べ物持って、って言われても、簡単でしょ?」


 なるほどのような、なるほどじゃないような。俺の炎耐性(極)なんかよりは随分と楽しそうで羨ましい……。

 家でリモコンが見つからなくても、直接テレビの電源が消せるんだろうなあ。


「じゃあさっそく動画配信しようか。おもち、戦闘もあるだろうから、炎中和スキルを少し弱めていいか?」

「キュウ!」


 いつもは抑えている炎を、少しばかり解放する。

 おもちの身体が取り巻く炎が、メラメラと燃え上がる。地面の葉が、チリリと音を奏でた。


「生配信スタートするねー」


 そして、初のダンジョン配信が始まった。


『全裸待機してました』『さっそくダンジョンの中か、おもちちゃんいつもより燃えてんね』『このダンジョンをクリアしたら結婚するの?』

『フラグを立てるのはやめろw』『初見です。ダンジョン配信楽しみ』


 予約をしていたので、待っていてくれた人が大勢いる。

 おもちもいつもより羽根を大きく広げている。

 気合十分だ。


「こんにちは、では、さっそくですがダンジョンの探索をしてみま――」


 その瞬間、木々を倒して向かってくる一つ目の魔物がいた。

 大きさは5メートルほど。どこかで見たことある。


「ガ、ガガアアアアア!」


 あれは――(サイク)ロプスちゃん! 先生のペットと同種)


「おもち、早速小手調べ――」

「キュウーーーーー!」


 俺の返事を待たずに、おもちは飛びあがって、炎のブレス吐いた。それは公園の時とは比較にならないほどの威力。

 

「ガアアアア――――――――……」


 なんとサイクロプスは完全に跡形もなく消えてしまう。


『……え?』『何が起こったの?』『一撃ってこと?』『強すぎて草』『主、いらなくね?』


「キュウキュウ!」


 褒めて褒めてと、俺の頬をツンツン、ツンツン、けれどその嘴は、いつもの5倍くらい熱かった。

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