11話 ぎゃあぎゃあと喚く赤い液体

「なるほど……魔力が血液みたいな感じなのね。ということは……このあたりに魔石が」


 二体目のサイクロプスを倒した後、御崎は配信しながら、グロ映像だけは見せないように心臓に手を突っ込んでいた。

 冷静な言葉と表情が、あまりにも怖く見える。


「おもちは見ちゃダメです!」

「キュ、キュウ……」


 思わずおもちの目を手で覆う。といっても、これをしたのはおもちだが……。


『おもちGJ』『おもちの最速の炎ブレス、俺でなきゃ見逃してるね』『ミサキは何してるんだ』『解剖医ミサキシーズン1』


「あった! ふふふ、これが魔石!」


 立ち上がった御崎は、煌びやかな宝石のようなものを持っていた。大きさはそれほでもないが、ダイヤモンドのように光っている。

 テレビで見たことはあるが、これが魔石なのか。


「思ってたより綺麗なんだな」

「大きさ的に結構当たりなんじゃないかな? ドロップ確率もかなり低いって聞いたし。そもそも、サイクロプスが出現する情報はなかったから、もしやと思ったけど」


 魔石とは、モンスターの心臓代わりのようなものだ。低級な魔物には存在しないが、ある程度強い魔物には存在している。

 魔力ポンプの役割を果たしているので、それによって身体能力が向上、魔力も強くなる。


 人間が食べると魔力が向上するが、外見が綺麗なので、装飾、工芸品としても利用方法がある。

 なので、それなりに高値で売ることも可能だ。


 それと御崎の言った通り、この階層ではサイクロプスは出現しないと資料に書いていた。

 一体何が起きてるのか、それはわからない。


『魔石のASMRキボンヌ』『鋭利すぎて口切れそう。飲み込むんだっけ?』『結婚指輪の元、ゲットだぜ!』


 ただ、コメントは盛り上がっている。しかし結構グロいので、年齢制限とか必要ないのかな……?


「魔石はひとまず置いておくとして、ロプスちゃんはどうしようか」

「ロプスちゃん……?」

「あ、いや、サイクロプスの死体の回収だな」

「流石に大き過ぎるよね……。一定時間経過して消えて、また新たなモンスターとして生まれ変わるってのが定説だし、放っておいていいんじゃない?」


 そういえばもらった資料に、素材を回収できるアイテムがあると書いていた。

 今度、魔法具店に行ってみるか。


「だったらこのまま放置しておくか」

「そうね、……魔石ちゃんも取り出したし、まいっか♪」


 キラキラと光る魔石を持ち御崎の目には、$マークが浮かんでいる。

 ダンジョン攻略ってのは聞こえはいいが、やってることって結構野蛮だよなあ……。


「キュウキュウ♪」


『おもちが勝利のダンスしてる』『かわいい。スクショタイム!』『進めー、このままボス戦だー』


 まあでも、これも生きるためか。くだらない偽善はやめよう。

 命は平等じゃない。それはわかってる。

 非情になれとは言わないが、奪う以上、覚悟は持つべきだ。


「切り替えだ。よし、先に進もう」


 と、思っていた矢先、何かを踏んづけた。

 ゴムみたいな、柔らかいゼリーみたいな。


 むにむに、むにむに。


 視線を下げると、地面は草っぱら。いや、良くみるとなんだか赤い?


「キュウー!」


 突然、鼻をクンクンさせたおもちが近づいてくる。そして、口をあんぐりとあげて赤草を食べようと――。


「や、やめてくださいやめてください。ごめんなさいッごめんなさいぃ!」


 次の瞬間、赤草から声が聞こえた。小さな女の子のような声で、なんというか萌え声だ。


『地面から声が……?』『草が喋った!?』『可愛い声してる』『なんだこれ?』


 思わず警戒しながら一歩下がって、おもちと御崎に声をかけた。


「御崎、おもち、離れろ!」

「キュウッ!」

「喋る魔物!?」


 むにゅりと起き上がると、赤草は徐々に――姿かたちを変えていく。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。敵意はないんです、違うんです違うんです」


 謝罪を繰り返しながら現れたのは、メラメラ燃え盛っているスライムだった。

 普通は確か青色だ。何だ……こいつ?


『喋ってる!?』『幼女っぽい声』『燃えてる』『逆に怖い』


「御崎、知ってるか?」


 首を横に振る。どうやら知らないらしい。


『初めてみた。スライム?』『亜種っぽい』『殺せ殺せー』


 コメントは音声で出るようにしてる。

 それに反応したのかスライムが呼応して叫ぶ。


「やめてー! 殺さないでー! 美味しくないよー!」


 ……怪しいな。


「よしおもち、攻撃だ」

「キュウ!」

「わ、わ、わ、やめてやめてくださいッ お願いします!」


 けれどもスライムは、人間の言葉で謝罪を繰り返す。

 流石に可哀想なのか、おもちは悲し気な表情を浮かべた。


「だめよ、油断しないで!」


 そんなことはお構いなく、御崎はスキルを発動。

 スライムが空中に浮き、更に騒ぎ立てる。


『ミサキちゃん容赦ない!』『当然、即殺るべき』『ヤレー!』『可哀想感ある』


「わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、やめてやめてやめてやめて、何でもしますから! ボクは悪いスライムじゃない!」

「どこかで聞いたような台詞だな……」

「阿鳥、人間の言葉を発する魔物は危険だと聞いたことがある。油断しないほうがいい。おもっちゃん、ひとおもいにやっちゃいなさい」

「キュウ……」


 なんだか可哀想な気もするが、ついさっき偽善はやめようと思っていたところだ。

 仕方ない。これも世のため人の為、というか俺の為。


「すまない……スライム。――おもち、ブレスだ!」

「キュ……キュウー!!!!」

「わー! やめてー! しんじゃうー! しんじゃうよー!」


 戸惑いを見せたおもちだったが、鋭い眼光にキュッと戻し、炎のブレスを発射した。


『容赦ないwww』『おもち、非情になれ!』『仕方ない、これが世の中の摂理』


 サイクロプスと同様、一直線に放たれた炎はファイアスライムにぶつかって――完全に吸収されてしまう。

 炎タイプと言えども、おもちの攻撃はそんな生易しいもんじゃない。


「……嘘だろ?」

「あついよー! あついよー! 撃たれたー!」


 しかしスライムは無傷だった。


 








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