第9話 おもちの身体を癒してあげよう

「体調不良だね。日中に羽根を広げてないんじゃないかな? 家の大きさはどのくらい?」

「一軒家ですね。最近はちょっと外には出れてなかったです」

「なるほど、それのせいかもしれないね」


 おもちの元気がなかったので、少し離れた口コミのいい魔物病院に来ていた。

 基本はテイムしたペットを診てくれるところだが、フェニックスは初めてらしく、看護師さんが大勢付いてくれている。


 ただ、ちょっと羨ましいことになっていた。


「おもちちゃーん、可愛いねえ♪」

「キュウキュウ♪」

「こっち向いて―」

「わ、可愛い! 笑った!」


 綺麗な人に囲まれて……ズルいぞ、おもち!


「――聞いてますか? 山城さん」

「あ、すいません。ついぼーっとしてました」


 美人看護師に見惚れてしまっていたせいで、医師の話を聞き逃してしまっていた。おもちが悪い! ごめん、嘘。

 再び説明を受けたのだが、まとめるとこうだ。


 個体差はあるが基本的に魔物は戦闘タイプが多い。

 猫や犬が走り回ったり、おもちゃでストレスを解消するように、フェニックスは戦いでストレスを発散するタイプだろうという話だった。

 そういえば炎のブレスを俺に放出した時は、ものすごくスッキリしていた気がする。


 田舎だったり、土地が大きいなら庭で遊ばせたり、魔法を放出すればということだった。

 ただここは都会で放し飼いにはできないし、俺の家はとにかく狭い。


 そして、提案されたのが――。


「ダンジョンで戦わせるってことですか」

「もちろん、これは解決方法の一つだし、危険もあるからね。ただ……」

「ただ?」

「おもちちゃんの魔力は尋常じゃない。僕も仕事柄、色々な魔物を診るけど、少なくとも最下層でフェニックスに勝てる個体なんて存在しないんじゃないかな」

「なるほど……その、専門外だと思うんですが、先生は行ったことあるんですか?」

「何度かあるよ。ロプスちゃん、すぐに殴り殺しちゃうからストレス発散にもいいし、魔石ももらえるしね」

「……ロプスちゃん?」


 とても物騒なことを、満面の笑みで言い放つ。いや、まあオブラートに包まなければ、戦うってのはそういうことなのだろうが。

 てか、ロプスちゃんってなんだ?


「ああ、ごめんごめん。実は僕、サイクロプスを飼っていてね! ほらうちの子だよ!」

「え、あ、はい、どれどれ」


 突然テンションがあがる医師。孫娘でも見せるかのように、スマホの写真を見せてくれた。

 そこには先生と、その横で3倍ぐらい大きい一つ目の巨人が並んで立っていた。後ろの家は豪邸で、庭も広い。

 ただそれより、ロプスちゃんのムキムキ具合が気になる。つうか、デカい。


「ほら、可愛いでしょ?」

「え、ええと、そうですね」


 全然可愛くない。というか怖い。よく見ると、手に人間と同じぐらい人形を持っている。

 リカちゃん人形みたいな感じなんだろうけど、先生と同じ大きさだし、なんだったら少し顔面がボコボコになってる。


「ロプスちゃん、まだ二歳なんだー。これから成長していくから、楽しみで楽しみで」


 これで二歳!? 将来どうなるんだ……。ロプスちゃんってことは女の子なのか。

 なんだか先生がマッドサイエンスに見えてきたが、これは失礼か。ロプスも、おもちも、同じ魔物!


「ああ、ごめん。雑談が過ぎたね。お薬は出しておくけど、根本的な解決にはならないから、ダンジョンへ行く方がいいと思うよ。山城さんは炎耐性(極)もあって、フェニックスと相性が良いし、僕の目から見て君たちは強いと思う」

「なるほど……」


 おもちは看護師たちと戯れていた。

 可愛いが、戦闘タイプ……か。


 ◇


 自宅に戻ってくると。ひとまずうどんを大量に作ってお薬を飲ませた。

 リスナーから『各地の名産うどんを買ってあげて!』とコメントが来ていたので、豪華にきしめんを追加したのだ。


「どうだ、食べれそうか?」

「キュ……キュキュウ!」


 羽根でちょんちょんと触れたあと、美味しそうに平らげるおもち。

 どうやら美味しいらしい。しかしすぐ無くなってしまって、悲しそうにした。


「今日はこれだけだ。もっとお金があればなあ」


 おもちの頭を撫でながら、今日言われたことを思い出していた。

 ダンジョンには夢がある。素材やアイテム、更におもちのストレスも解消になる。

 一石二鳥、いや三鳥だ。


 とはいえ、おもちを危険な目に合わせるのは……。

 

 案件動画でいくらかはお金はもらえたが、収益が入るのには時間がある。


「なあおもち、ダンジョンって興味あるか? 戦ったり、何かを得ようとしたり、そういうどう思う?」


 おもちは言葉は話さないが、俺のことを理解している。ゆっくりと伝わるように言うと、そして、頷いた。


「キュウ!」


 炎を纏ったかと思えば、思い切り魔力を向上させた。どうやらやる気満々のようだ。

 だったらもう、遠慮する必要はないか。


「よし、じゃあ次の配信はダンジョンにするか! 素材やアイテムもゲットしてやろうぜ!」

「キュウーーーー!」

「じゃ、私も行くわ」

「「え? / キュ?」」


 いつのまにか御崎がいた。いや、おそらく居間で寝ていたのだ。

 そういえば、もう面倒だから自由に出入りしていいと言っていた。

 気づかなかったが、どうやら実家から帰ってきていたらしい。

 

 ぼさぼさ頭であくびをしているが、おそろしく美人。

 これしかもすっぴんだよな……って、今なんて言った?


「御崎、わかってるのか? ダンジョンだぞ?」

「知ってるよ。ねー、おもっちゃん♪」

「キュウ♪」


 そもそも会社を辞める時、御崎に危険な目を合わせたくなかったのが一番だった。

 なのに……連れて行ったら本末転倒じゃないか。


「ダメだ、俺は許さないぞ」

「ふーん。――スキル、『動かしてあげる《サイコキネシス》』」


 次の瞬間、俺は空中に浮かんだ。はわはわと身動きが取れなくなって、天井が目の前に。


「だ、だめだ。俺は許さないぞ!」

「じゃあ、このまま落としていい?」

「……ダメです」


 ふんわりと着地させてくれる御崎。その後、真剣な瞳で言う。


「私たちは”一緒”に頑張るんでしょ? それに撮影だって私がいなきゃ大変でしょ?」

「ぐ……それは……」


 その通りだった。戦闘しながら撮影はかなり大変だ。なんだったら、壊される可能性もあるかもしれない。


「守られるだけのヒロインなんて、もう古いから」

「御崎はヒロインって性格じゃないと思うが……」

「なんか言った?」

「い、いや何も!?」


 御崎は本気だ。昔から頑固なところがある。

 そもそも、スキルだけでいえば俺なんかよりも遥かに強い。

 本人がやる気なら、ここで断るのは俺の自己満足だな。


「よし、わかった。なら3人でいこう。俺たちはまだダンジョンについてわからないことが多い。石橋を叩くつもりでいくぞ」

「はい、どうぞ」


 リーダーの気持ちで言ったが、御崎は俺に何かの資料を手渡した。


「ン、何だこれ……ダンジョンについて?」


 なんとそこには、ダンジョンの魔物、スキル、そして場所まで詳細に書かれていた。

 ついでにアカペンで丸もつけてくれている。


「ありがとうございます。御崎リーダー」

「阿鳥、足を引っ張るでないぞ」

「キュウ!」


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