56話 講演会と出会いは突然に
「それでは、山城阿鳥さんからお話を頂きます」
体育館、壇上に上がった校長のありがたい話が20分ほど続いた後、俺は唐突に呼ばれた。
生徒たちのテンションは最高に低い。
校長は盛り上げようとしてくれたんだろうが、あまりにも長すぎた。
気まずすぎる。
真っ赤なスーツを着替えるタイミングはなかったので、みんなから後押しされて前に出て行く。
「頑張って、あーくん!」
「恥ずかしがらずにね、阿鳥っ!」
御崎や雨流がガッツポーズしているが、そんなことよりなんで俺の服とか気にならないの? ねえ、大丈夫?
そして――。
「ねえ、あれ何?」
「炎耐性(極)? てかウケんだけど。蛍光色すぎない?」
「笑い取ろうとして失敗したのかな?」
しかもここは女子高だ。ドッとした笑いが起きるわけでもなく、苦笑と共に俺、山城阿鳥がマイクの前に立つ。
~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ、はずかちー!
「ど、どうも初めまして、山城です。この度は招待いただきありがとうございます」
生徒たちのまばらな拍手が聞こえる。幕横では、校長がおもちの羽根を触って喜んでいた。
いや、アンタのせいでもあるんだけど! せめて俺を見てよ!?
と、いつまで愚痴っててもしょうがない。
忘れていたのは俺のせいだ。
だが話すことまで覚えていないわけでもない。この時の為に色々と考えていた。
基本的に学校では能力禁止だが、授かったスキル格差でのいじめが社会問題になっている。
ただ学校に限っての話ではない。会社でも、それこそインターネット上なんて目も当てられないほどお互いを罵り合っている。
俺もそう思っていたが、外れスキルを得た能力者はある意味でないほうが良かったと思うことがあるだろう。
実際、能力に固執して悪の道に染まった人もいる。
俺は今でこそ思う。能力とはただの個性だと。
運動が得意だったり、勉強が得意だったり、そのくらいのものだ。誇ることはあっても、それが使えなくても恥じることはない。
例え能力がなかったとしても気にする必要もない。
人生で一番大切なのは、自分がしたいことをできるかだ。
俺はおもちと出会って会社を辞めてスローライフを初めたからこそわかる。
愛する人、自分を大切にしてくれる人たちと傍にいることが何よりも大事なんだと。
それを俺は学生たちに伝えた。もちろん上手くまとめる事は出来なかったが、初めは騒がしかった生徒たちも真剣に聞いてくれた。
こんな真っ赤なスーツのニートおじさんだからこそ、人生を楽しんでいると思われたのかもしれないが……。
「俺の話を聞いてくれてありがとうございます。そして、フェニックスこと、おもち、田所、グミ、俺の大事なパートナ一堂御崎にS級探索者雨流です!」
おもちは、胸元の赤い蝶ネクタイを煌びやかに見せつけながら登場。
すると先程まで静かに俺の話を聞いて感慨深い生徒たちのテンションが――最高潮に!?
田所も、グミも続いて歩いてくる。
「え、かわいいいいいいいい!?」
「もふもふだ! 触りたいー!」
「田所ちゃんかわいー!」
「私はグミがいい! ぷるぷるそう!」
さすがの御崎と雨流もうちの子には敵わなかったらしい。
と、思っていたら、学校の男先生は御崎に釘付けだった。
「御崎さん、綺麗ですね……」
「ええ、素晴らしいです。スタイルがいい」
「僕の代わりに校長先生になってくれませんかね」
校長先生が自らの権力を明け渡そうとしていたが、そんなことありえる?
「雨流ちゃんだ! テレビで見たことある!」
「ほんとだ……実物すっごく可愛いんだね」
「お目目クリクリだー」
どうやらおもちに注目しすぎていただけで、雨流を知っている人も多いみたいだ。
つい忘れそうになるが、美少女なんだよな。
それから二人は、俺と違った視点で色々な事を語ってくれた。
テイムした魔物たちは家族と変わらないことや、心を通わせることで絆が生まれること。
そして恥ずかしかったのは、いつもでは考えられないくらい俺のことを褒めてくれたのだ。
「阿鳥は昔から誰よりも損しています。だけどそれは、自ら率先して前に出てくれているからです。私はその優しい心が好きで、一緒にいるんです」
恥ずかしかったが、嬉しかった。御崎がそこまで思ってくれているだなんて。
「あーくんは間違ったことをしたらちゃんと叱ってくれます。でも、それ以上に褒めてもくれます。私は能力が強いということで我儘な性格でしたが、あーくんのおかげで目が覚めました」
雨流もだ。そして話は締めとなり、再び俺がマイクを持った。
能力は個性だ。自らの選択行動次第では良くも悪くもなるということを。
「ありがとうございました」
全員で頭を下げると、驚いたことに拍手喝采だった。
学生の顔を見ていると、みんな満足そうだった。笑顔の子もいる。
こんな俺でも役に立ったのかと思うと、嬉しくなった。
◇
「今日はセナちゃん帰るらしいから送って行くね」
「ああ、俺はミニグルメダンジョンの様子を見てくるよ」
夕方過ぎ、御崎は雨流を連れて帰っていく。
おもちたちは美味しい食事のお土産をもらうらしく、ウキウキで着いて行った。
田所とグミも行ってくるねと笑顔だった。
久し振りの一人、なんか寂しいな!?
「まあでも、前は一人だったもんな」
空を見上げると夕日が目に染みる。おもちと出会う前は、いつも帰っても一人だった。
ご飯を食べるのも、ただテレビを見て寝るだけの毎日。
だが今は違う。一人になることのほうが珍しい。
俺は恵まれてるな。
だが――次に立ち向かうのはA級ダンジョンだ。
雨流はS級なので一緒には行けない。
だから、俺頑張らないといけない。
しかし色々な不安もある。
俺たちにはしっかりとした前衛が存在していないこと。
御崎は後方支援で、田所は俺たちのカバーをしてくれている。
俺やグミはどちらかというとスピードタイプで攪乱したり、おもちは広範囲に攻撃できるが遠距離タイプだ。
ファイターみたいな人がいればもっと安心感はある。
特にA級では巨大な魔物も多いと聞く。
探索者にお金を出せば来てくれるらしいので、それも検討していた。
とはいえ、命を預けるのだ。信頼できる人じゃないと……。
「あの……山城さん!」
その時後ろから声を掛けられた。振り返ると、俺が講演した学校の女子生徒の制服を着ている。
「その……本当に感動しました……」
黒髪ロングで目が隠れている、マスクをしていてよく顔は見えないが、綺麗な声だ。
少し息切れしているので、追いかけてくれたんだろうか。
「あ、ありがとう。わざわざ伝えにきてくれたんだ」
「それでその……」
どうやら緊張しているらしい。大人と話すのって怖かったりするんだろうな。
それに俺、まだ真っ赤なスーツだし……。なんか申し訳ないが、気持ちを伝えてくれたのが嬉しかった。
「私、
「え? ……弟子? 弟子って、デシ?」
「はい! 私、友達がいなくて……だから、ダンジョンにも行ってたりはするんですが……いつも不安と寂しさと戦っていて……師匠の話を聞いて、感動したんです。ただ戦うんじゃなくて、私も誰かを楽しませたり、色んな人を感動させたいって! 動画も実はずっと前から拝見してました。 師匠のように精神面も強くなりたいんです!」
う、うん?
なにやら訳の分からない事を言われている。てか師匠って俺? 時代錯誤すぎないか?
てか、ダンジョンに行ってるって……?
「つまりなんだ、一緒にダンジョンに行きたいってことか?」
「はい! そうです! 師匠」
「まだ師匠じゃないが」
言いたいことはわかったが、素直にはいそうですとは言えない。
いや、むしろこんな華奢な女の子を連れて行けるわけもないだろう。
とはいえ、能力次第では……可能か?
「だったらどんな能力を持ってるんだ?」
すると彼女は「ええと、どうしたらいいかな」とビクビクしながら、車を見つけた。
「ここ、駐車禁止なんですよね」
と言うと、魔力を漲らせて――ひょいと車を持ち上げた。
そして少し離れた場所の駐車可能なエリアに置いて来た後、走って戻ってくる。
「遅くなりました。ええと、能力を見せますね!」
「いや……もう見たけど」
凄まじい力だ。
全身に魔力がいきわたっている所を見ると、防御力も高いんだろうな。
……あれ、もしかして俺たちに必要な人材?
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