15話 今どきの温泉って、混浴でなおかつ魔物もイケちゃうんですか!?

「えーと、175番は……ここか」


 男性更衣室と書かれた暖簾のれんをくぐって中に入ると、もの凄い数のコインロッカーがいくつも並んでいた。

 指定された番号の前で止まり、カードキーを差し込んで、水着に着替える。


「キュウキュウー」

「ぷいぷいっ」


 視線を落とすと、おもちと田所も裸になっていた。いや、最初からか。

 特訓を終えた俺たちは、汗と汚れを流すため、温泉にやって来た。


「つうか、すげえな……あれってゴブリンだよな。うお、ハムスターみたいなやつも。あれも魔物なのか」


 更衣室には、ペットと思われる魔物が大勢いた。

 ここは『マモワールド』と呼ばれる超巨大温泉施設。

 人間の男女だけではなく、魔物も湯舟に漬かることができる。


 そして――混浴だ。


 ただし注意事項がいくつかあって、人間は水着着用が必須で、巨大な魔物が入れる湯舟は限定されている。

 ロプスちゃんも入れると医師から聞いたが、どんだけデカいんだ……?


 入場料はその分高く設定されているが、ダンジョンでの疲れを癒しにくる探索者が多いとのこと。


「行こうか、おもち、田所」


 二人に声をかけ、さっそく温泉へ向かう。


 横幅も広く、天井も高い通路を抜けると、さっそく身体を洗うことができるシャワーやお湯の入った壺が置いていた。


「なるほど、掛け湯か。おもち、田所こっちに来てくれ」

「キュウッ」「ぷいっ」


 ゆっくりと二人にお湯を流すと、気持ちよさそうな声、そして表情で頬を緩ませた。

 炎タイプなので、温かいお湯はマッサージみたいに気持ち良いらしい。


「キュウゥ……」「ぷぃ……」

「はは、気持ちいいか。けど、温泉に入ったらこんなもんじゃないと思うぞ」


 自分も被って準備万端。

 どうやら露天風呂もあるらしく、子供のようにワクワクする。


「お待たせー」


 そこに現れたのは、豊満な胸の谷間を露出させている水着姿の御崎だった。

 スタイルが抜群に良く、さっき近くにいたゴブリンとそのご主人が見惚れている。

 

 上下ビキニで小さなリボンの突いた黒い水着だ。


「エロいな……、いたっ!? 頭を叩くなよ……」

「お約束しないで。おもちゃん、たどちゃん、いこっかー♪」


 二人の手を掴んで前に進んでいく。といっても、スライムは手なんてないが、むにゅっと中に入り込んでいる感じだ。

 まるで二人のお姉ちゃん、いやお母さん?


「ほら、阿鳥も行くよ」

「はい、ママ」

「もう一回殴っていい?」

「ごめんなさい、お母さん」


 パアアアアアンっと、乾いた音が鳴り響いた。


 ◇


「はにゃー、最高だにゃー」


 湯舟に漬かりながら、頬を緩ませ今にも溶けてしまいそうな御崎。

 こうしているときは可愛いんだよなあ。


 でも、確かに気持ちがいい。


「お、ここに効力が書いてあるぞ」


 *魔力が染み出ている温泉です。

 血行促進効果。

 魔力補充効果。

 疲労回復効果。


「ほお、色々あるんだな」

「キュウキュウ♪」「ぷいぷいっ」


 おもちとスライムは初めての温泉なので、テンションも上がっている。

 二人はお湯をかけ合いながら、バシャバシャと遊んでいた。


「はしゃいだらダメだぞ」

「キュウ♪」「ぷいっ♪」


 しかし止まらない二人。次第にヒートアップしてしまい、お湯が御崎の顔面にかかる。


「……静かにしなさい」


 次の瞬間、”動かしてあげる”で空中に浮いた二人。


「キュウンナサイ……」「ぷいんね……」


 温泉ではしゃぐ子供と怒るお母さんみたいだなあと思ったが、頭のたんこぶがこれ以上膨らむと怖いので黙っていた。



「そういえば調べたけど、炎の充填、なんてスキルは世界でも確認されてないみたい。スキル管理局にも問い合わせたから間違いないと思う」

「ああ、すまないな。だったら地道に調べてみるしかないか」


 スキル管理局とは、世界中で確認された魔法が登記されている機関のことだ。

 レベルが上がる、というのはめずらしいが聞いたことのある話。だがそれは個人によって様々なので、俺は使い方がわからなかった。


「急ぐものでもないし、ノンビリ考えてみるよ」


 天井を見上げると、大きなファンがぐるぐると回っている。

 おもちと出会って、配信を初めて、会社を辞めて、ダンジョンに行って、レベルがあがって。


 社畜の時と違って精神は安定しているが、慣れないことが多くて疲れもある。


 そんな今だからか、温泉の温かさが身体と心にしみわたる。


「まあ、そうね。のんびりってこんなにも気持ちよかったんだね」


 御崎も笑みを浮かべていた。田所をぬいぐるみのように抱きしめている。

 豊満な胸に挟み込まれている感じで、ちょっと羨ましい。


「阿鳥のおかげだよ。ありがとう」

「いや、俺のほうこそ。御崎といると楽しいよ」


 咄嗟に返事を返したが,何とも言えない恥ずかしさがこみ上げてくる。

 御崎も同じらしく、頬を赤らめていた。


「……そ、外湯に行ってみるかあ!」

「う、うん。おもちゃん、たどちゃん行こっか?」


 ◇


「ちょっとサウナに行ってきてもいいか? 御崎はあんまり好きじゃないんだよな」

「うんー。じゃあ、たどちゃんと一緒にここにいるう」

「ぷいっー」


 露天風呂を楽しんだのち、俺とおもちはサウナへ行くことに。

 田所はなんだかんだで御崎と仲が良い。


 入口の扉を開くと、中では魔物と人間が座って汗を流していた。

 その前にはテレビが設置されていて、アメリカから誰かが来日したとか、そんなのが画面に表示されていた。

 このあたりは普通の温泉の施設と変わらない。


「おもち、敷タオルがいるんだぞ」

「キュウ」

 

 サウナのルールをおもちに教え込む。一時期ハマっていたことがあるのだ。

 炎耐性(極)があることで人より有利なのと、それのおかげで俺も熱いのは気持ちよく感じる。


「あれ、フェニックス……?」

「初めて見た……」

「羽根が可愛いな」


 どうやら気づいた人がいるらしい。ただマナーを守っているのか、みんな騒いだりはしない。

 タオルを敷いて着席すると、いい感じの熱波を感じた。

 炎耐性(極)があっても、スキルを調節することで楽しむことができる。


「もしかし……フェニックスですか?」


 その時、隣に座っていたおじさんが声をかけてきた。

 さっき御崎の水着姿に見惚れていた人だ。


「はい、そうです。名前はおもちといいまして」

「キュウ!」

「初めて見ましたよ。凄いですね……。あ、うちはゴブちゃんです。名前はそのままですけど、可愛いんですよ」


 その隣には、汗だく今にも倒れそうなゴブリンがいた。手にはこん棒を持っている。

 ……あれ、武器だよね!? え、どういうこと!?


「ああ、すみません驚かせてしまって。ゴブちゃん、ちょっと借りていいかい?」

「ゴブゴブッ」


 おじさんがこん棒をひょいと取り上げると、俺の膝の上に置いた。

 もの凄く柔らかいし、軽い。これは、ぬいぐるみだ。


「ゴブちゃん、これがないと落ち着かないんですよ。まあ人形みたいなもんですかね」

「すみません。表情に出てたみたいで」

「いえいえ、よく驚かせてしまうので」


 おもちとゴブちゃんはすぐに仲良くなったらしく、謎の会話をしている。


「ゴブゴブ?」「キュウキュウ」


 微笑ましい光景だが、何を話しているのかは凄く気になる。


「ここは初めてですか?」

「はい。どうしてわかったんですか?」

「ほぼ毎日ここに来てるんですよ。だから知っている人ばかりで」

「そうなんですね。先日、ダンジョンデビューを終えまして、ちょっと一息でここに」

「ほお、お疲れ様です。おもちさん、凄まじいデビューを飾ってそうですね」

「凄まじい、かもしれないです。確かに強かったので。ただ、僕は何も出来ませんでしたが」


 見た目通り温和なおじさんだ。ゴブちゃんも大人しく、礼儀正しい。

 テイムされた魔物は術者に似るというが、確かにそっくりだ。


 そこから話は盛り上がり、なんとおじさんもダンジョンへ行ってると聞いた。


「遅れました。名前は君島英雄きみしまえいゆうと申します」

「僕は山城阿鳥やましろです」


 遅めの自己紹介、どこかで聞いたことがある名前だなと思いつつ、初めて出来た魔物友達に嬉しくなった。

 そして話はつい最近のスキルのことに。


「ほう、充填ですか?」

「はい、でも、よくわからないんですよね」


 

 英雄さんは顎に手を当てながら考えたあと、ぼそりと口を開いた。


「もしかするとですが、ライターみたいなものじゃないんでしょうか?」

「ライター……ですか?」

「はい、充填とは体内に留めることですよね。それを放出することができるのでは、とおもいまして。すみません、根拠はないですが」

「なるほど……いえ、盲点でした」


 それが本当なら確かに凄まじいことかもしれない。

 炎を出せる? 耐性しかなかった俺が? ……思わず、微笑んでしまった。


「それに山城さんは、炎耐性スキルが弱いと思っているみたいですが、特定を生かせば、誰にも負けられない戦略があると思いますよ。すいません、年長者の説教みたいになってしまいましたね」

「いえ、色々試してみようと思っていたので、いいヒントをもらった気がします。ありがとうございました」

「でしたら嬉しいです。私はそろそろ行きますね。もしよかったら、おもちさんの写真を撮ってブログに乗せてもいいですか? 恥ずかしながら、年甲斐もなくハマってまして」

「ええ、もちろん構いませんよ」


 パシャ、っと撮影したあと、礼儀正しく頭を下げて消えていく英雄さん。

 温泉施設でも水着を着用しているので、スマホも持ち込み可能だ。

 今どきは熱にも温水にも強い。


 限界がきて外に出ると、御崎が興奮気味に駆け寄って来た。

 田所は胸の谷間にうずめられており、エロ目線防止となっている。


「そんなに急いでどうした?」

「さっきゴブちゃんいたんだよ! あと、君島さんも!」

「え? あ、う、うん。って、なんで知ってるんだ?」

「え? ……知らないの?」


 ポケットからスマホを取り出す御崎。

 見せてくれた画面には、君島さんとゴブリンが載っていた。


 英雄とゴブちゃんの日々、というブログ。

 閲覧数……1日100万PV!?


「毎日、ゴブちゃんとの日々をおもしろ可笑しく載せて、凄く人気なんだよ。それに、ほら。ついさっき更新された写真が!」


 そこにはおもちと俺が写っていた。コメントが既に殺到している。


『おもちかわいい』『フェニックスですか? すご!』『知ってる。配信者の人だ』


「……凄いな」

「もう帰っちゃったかなあ!? サインほしかったー」

「って、これまじか!?」


 プロフィール画面の追記のランクには、探索者ランクAと書かれていた。



 ――――――――――――――――


 温泉水着回でしたー! 御崎の谷間は田所が守ってくれるみたいです(^^)/


 現代ファンタジーのランキングが、なんと13位になりました!

 目指せ10位以内ですが、これも皆様のおかげです!


 昨日は星が一日で50個も増えたのでびっくりしましたw


 フォロワーも1400人を突破! 嬉しくて嬉しくて涙が出ちゃいます。

 後、コメントもありがとうございます!


 もっと沢山の人にも作品を見て頂きたいので、更新頑張ります!

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