76話 阿鳥&おもちvsミリア&ウィンター
ステージ上の視界は良好、だが薄い魔力のバリアが貼られている。
これが何を意味するのかというと、相手の魔法を回避しても後ろの観客席に衝突することもなく、見えない壁に当たって離散するのだ。
おもちもそれを理解しているので、俺の掛け声と同時に、炎のブレスをミリアに全力で放った。
出し惜しみなしの先手だ。
ここが闘技場でなければ難なく回避できるだろうが、ステージ外に出れば場外で失格になる。
つまり、エリアが限定されている中で防御するしかない。
「ピイイイイイイイイイイ!」
おもちは炎のブレスを火炎放射のように放ち続けた。
俺は急いで吸収剣を構えると、炎を漲らせる。魔法紙の使用は許可されていないので、事前に済ませた充填のみ、補充はなしだ。
炎を足に漲らせ、地を駆ける。
本来なら炎のブレスが俺に当たってもダメージを受けることはないが、今回はVRゲームの構造に近いらしく、予想されるダメージが可視化、頭の上のバーが削られていく。
つまり耐性持ちの俺にも関係なくダメージが入る。
とはいえ、耐性があると本来受けるダメージよりも随分と低くなる構造にはなっているらしいが、おもちの炎が身体に触れると、少しだけ表示が減る。
だがミリアはこんなもので済んでないだろう。
手加減なしに炎剣を突き立てようとしたが――ブレスの奥にミリアがいないことに気づく。
「なんだと……」
「キュウ!?」
おもちがブレスを停止、炎が離散し、煙が晴れていくが、どこにもミリアの姿はない。
『おーーーっとおおおおお!? 一体どこに消えたああああああああ!? まさかまさかの、外部外に吹き飛んでしまったのかああああ!?』
実況の言う通りならば俺たちの勝利だ。
だがそんな簡単なわけが――。
「ピイイイイイイイイ!?」
その時、おもちが叫んだ。
後方から、ミリアが鋭い氷魔法を叩きつけたのだ。おもちのHPバー三分の一ほど減少する。
これはタッグトーナメント、テイム魔物か俺のHPバーを最後まで削ると勝利となる。
俺は急いでおもちのカバーに行こうとしたが、ミリアの姿が徐々に消えていく。
闘技場では、吹雪のような氷の欠片が離散している。
「おもち、上で待機だ」
「キュウ!」
俺は剣を漲らせて耳を澄ませた。
だがまた、おもちの悲鳴が聞こえる。
「ピイイイイイイイイ!」
突然現れたミリアが、天高く向けた氷魔法を放っている。
おもちはもう、三割ほどしかHP残っていない。俺ではなく、おもちを執拗に狙うつもりか。
急いで駆けても、ミリアは再び消えていく。
――これが、S級探索者。
「くそっ、どうすれば!」
考えろ、考えろ。俺は今までいろんな敵と戦ってきた。
何が起きてるのか――。
――そうか。
俺は吸収剣の炎を解くと、空気中の冷気を剣に封じ込める為に、あえて空振りした。
冷気が吸い込まれていくと同時に、薄い霧が消えていく。
そして、ミリアが現れた。
「気づきましたか。後一発でおもちを倒せたんですけどね」
「まさか……この近距離で蜃気楼だとは思わなかったぜ」
「その通り、ウィンター・ウィッチの能力です」
「ピュウ?」
蜃気楼とは、熱気・冷気による光の異常な屈折のため、空中や地平線近くに遠方の風物などが見える現象のことだ。
本来遠くから見る時にしか発生しないはずだが、ミリアの言う通り、テイムモンスターの固有能力なのだろう。
おもち対策として、予め準備していたに違いない。
だが俺も死線を潜り抜けてきた。
先手を打つことだけしか考えていないわけじゃない。
「おもち! 作戦Bだ!」
「キュウ!」
「作戦……B?」
ミリアが眉をひそめている間に、おもちと左右に分かれる。
肩に乗っているウィンター・ウィッチは、どうやら支援型のようだ。
蜃気楼は確かに強いが、戦闘能力が高くないのであればやりようがある。
ミリアもそれを知っているので蜃気楼で対処してきたのだろう。
ミリアは両手を翳して防御魔法を唱えた。
ウィッチも同じように手を翳していることから、やはり支援型で間違いない。
「ピュルルゥ!」
「山城でも、これは破れませんよ」
氷の防御魔法。更にウィンターウィッチが魔法を上乗せしている。
間違いなく強固だろう。
だが――俺が予想していた通りだ。
「おもち、一点集中!」
「ピイ!」
鋭く、高密度な魔力の炎が、壁を突き破ろうと放たれる。
弾丸のようにぶち当たると、氷が溶けて煙が上空に逃げる。
間髪入れず俺は寸分たがわぬ位置に、冷気を吸収し氷剣を突き刺した。
もちろん、どうなるかわかっている。
死なないとわかっているからこそできる、俺の必殺技だ。
ミリア――悪く思うなよ。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオンと氷の壁の中が、爆発音が響く。
「くっ――っおもち、できるだけ離れの」
「キュウ」
爆発が俺たちにも降りかかると、ゲージが勢いよく減少していく。
本来ならば耐性があるが、今は違う。
もちろん、おもちもだ。
だが俺とおもちのHPバーがゼロになる前に、ギリギリで頭の上に『WINNER』と表示された。
『な、な、な、なんと!? 氷の壁で攻撃を防いだかと思えば、決着は一瞬だあああああああ 勝者、山城阿鳥&フェニックスおもちいいいいいいいいいいいいい!』
実況の錆越えの後、観客から歓声が響いた。
耳をつんざくような声で、思わず頬が緩む。
「すげええええええ、S級に勝ちやがった!!!」
「何者だよあいつ!!!」
「アトリだよ! 配信者の!」
ゆっくりと煙が晴れていくと、ミリアが悔しそうな顔で現れた。
「……私が氷の壁を出すとわかってたんですか」
「ウィッチを見た瞬間、個体の大きさから戦闘タイプではないだろうとわかってた。まさか蜃気楼を出すとは思わなかったけどな。俺とおもちが左右に分かれれば、きっと全方位の防御魔法を詠唱する。そこにおもちに炎のブレスを放ってもらい、俺は氷を吸収した剣で突き刺せば、内部で水蒸気爆発が起こる。爆発でお互いにゲージがなくなるだろうが、密閉されている分、ミリアのほうが早くゼロになると思ったのさ」
「まさに……自爆ですね」
「耐性があったからこそ思いついた技かもな」
本来なら、おもちが巻き込まれてしまう危険な技だ。
といっても、俺一人なら使える卑怯な技でもあるが……。
「負けました……。悔しいですが、私に勝ったからには優勝してくださいね」
「任せとけ、と格好よく言いたいが、善処するよ」
握手を求めてくるミリア、その笑顔はとてもすがすがしい。
と、思っていたら、目には涙が浮かんでる。
「……泣いてる?」
「な、泣いてません!」
そういえば負けず嫌いだったな。
雨流とプリンで喧嘩してたくらいだし……。
「お詫びにデートしてください」
「脈絡なさすぎるだろ……」
さあて、次は誰が相手かな。
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