84話 初フードフェスはカレーでGO!

「こんにちはー」

「あら、こんにちは。今日はよろしくね、昨日と同じスペースが山城さんだから」

「はい、ありがとうございます!」


 受付のおばちゃんに元気に挨拶。

 許可証のタグをもらって、俺たちは門をくぐる。


 晴天、ピーカン、太陽キラキラ、燦々、とにかく天気が良い。


 設営は昨日の夜に終わっているので、後は荷物を展開するだけだ。

 開演は数時間後だが、既に大勢の人が準備を始めている。


 うむうむ、急がねば!


 視線を下に落とすと、ガサゴソと御崎が準備に急いでいた。

 炎ッ! と書かれたエプロン姿が意外と似合う。まあ、俺も着ているが。


「阿鳥、こっちの食材はどうする? もう切っちゃってていいかな?」

「頼む。雨流、そこのナイフ取ってくれるか」

「はーいっ!」


 引力でパシッとナイフを動かすと、斥力でグイッと俺に飛ばす。

 寸前で止まって、ピタリと手にフィットする形で空中待機。


「……怖いんですけど」

「大丈夫だよ? 手足みたいなものだからー」

 

 本当かよ、と思いつつ、ダンジョンで命を賭けて戦ってることを考えると納得できる――いやできない。


「ダメです。今度からはちゃんと手でやりなさい」

「はーいっ!」


 聞き分けがいいので許す。

 おもちの出番はまだなので、後ろの空きスペースでのんびりキャリカートの上で日向ぼっこしている。

 時折グミが霧雨のような水を拭いてくれるので、扇風機いらずで涼しい。


 田所は相変わらずぷいぷい言っているが、癒されるのでいいだろう。


「師匠、これどこ置きます?」


 身長ほどある寸胴、いや流石にそれは言い過ぎだが、もはや身体が見えない。

 住良木の声だけが聞こえている。


「そこの真ん中のテーブルに頼む、手伝ってもらって悪いな」

「バイト代出るんですよね! 頑張りますよおお!」

「ダンジョンのが稼げるだろうに」

「これはこれ、これはこれです!」


 以前は少し落ち込んでいたが、また元気を取り戻してくれたみたいだ。

 保護者みたいな気分だが、友達でもある。


 やっぱり、笑顔が一番いいな。あと、どっちもこれなのは指摘しないでおこう。


 さて、肝心の俺がサボってちゃいけないな。


「ええと、まずは……よし、あった」


 予め用意していた板を荷物から取り出すと、靴を脱いで椅子の上に乗る。


 取っての部分に乗っけると、よし完成だ。


『炎耐性(極)のアトリが作る、ファイアモンスターカレー!』


「か、かっこいい……しゅごい……」


 事の発端は一ヵ月前、地元のチラシだった。

 近くの空きスペースでフードフェスなるものを開催するとのことだったのだ。


 ミニグルメダンジョンで食材は豊富にあるので、どうせだったら地元に貢献したいと思って参加を表明した。


 だが当然素人だ。色々考えた結果、誰が作ってもそこそこ美味い(すみません)カレーにすることにしたのである。

 食材は野菜多めだが、温泉卵を上にトッピングしたり、コトマトを入れているので濃厚な味わいだ。

 おもちのキュウキュウカレー、田所のぷいにゅカレー、グミのスープカレーという三つのカレーを作ったのは褒めて頂きたい。


 流石に一人では不可能なので、例のごとくと言ってはあれだが、皆に手伝いに来てもらったのである。


『お、準備中かw』『いいねえ、このタイトル面白いw』『仕事終わりに行きます! 楽しみー』


 ある程度準備を終えると、配信をぽち。

 視聴者リスナーさんたちとの触れ合いもオフ会以外になかったので、事前告知はしている。


 どれくらいの人数が集まるのかはわからないが、地元の小さなフェスなのでそこまでは来ないだろう。


「ねぇねぇ、もう少しコトマト追加する?」

「んっ、いや美味しいぞ。完璧だ」

「ふふふ、じゃあこのままでいっか」


 その時、エプロン御崎が味見をしてほしいと小皿を持ってきた。

 この日の為に、二人で色々と研究を重ねたのである。


『新婚感すごいなw』『いつのまにこんなラブラブにw』『み、ミサキチャン……』


 しかしコメントに気づいた御崎が、頬を赤くさせて離れていく。

 この前の映画デートの後から、様子が少し変だ。

 前なら「そんなことないわよ」と言い切るぐらいだったんだが……。


 と、そんなこんなでイベントの開始を係りの人に告げられる。

 開始前、俺はみんなを集めた。


「よし、今日は夜までの限定イベントだ。いつもと違ってそんなに気張らなくていいから、のんびりやろう。正し、くれぐれも清潔にすることだけは忘れないでくれ」

「キュウキュウ!」

「ありがとうおもち、だが羽根が入るといけないので、カレーには手を触れちゃだめだぞ」

「ぷいにゅっ!」

「田所、君はいつもそれでいい。自分の道へ進むんだ」

「がうう……」

「ああ、すまないな。グミのウォーター水を出そうと思ったんだが、体液は倫理的にどうなのと言われて台無しになったことだろう。そう悲しまないでくれ」


 マイペース、そんな感じで行こう。

 

 店舗はザッと見てニ十店舗ほど、お肉だったり、野菜だったり、かき氷だったり、俺たちみたいな魔物風フードもあるが、様々だ。

 お客さん、来てくれたらいいなあ――。



「それでは、入場開始ですー」


 響き渡るアナウンス、すると地割れのような音が響く。

 目を凝らしてみると、大勢が入口から歩いてきていた。


「凄いわね、こんな大規模イベントだったっけ?」

「色々出店してるもんなー」


 だがその団体は、一直線に歩いている。

 そして――。


「すみません、カレーください!」

「配信見ました、カレーください!」

「おもちちゃんだ、カレーください!」


『カオスwww』『百人ぐらいいる?w』『すぐカレー無くなりそうwww』


 その全員が、まさかの店の前で止まったのである。


 ……あれ、俺なんかやっちゃいました?



 

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