53話 世界初、庭に出来たダンジョンの温泉をリノベーションしてみた #01 テイムした魔物も添えて
「どうも、アトリです。色々と時間がかかってしまいました」
ドローンカメラに向かって手を振る。
後ろには山積みに積まれたコンクリートの袋、椅子、給水管、防水モルタル、ヒノキタイル、etc。
『お、ついに開拓編!』『くう、男の夢だぜえ』『女の夢でもある』『楽しみだー』
先週、庭のダンジョンの第二層に温泉が湧き出てきた。テンションが上がってみんなで入浴したのはいいものの、後々大変だった。
白く綺麗だった湯も、土と混じり合うことで段々と黒くなり、身体を洗い流す為には一層の水路に行かないといけない。
つまり何が言いたいかというと、快適な温泉ライフを楽しむ為に、素人セルフリノベーションを決行しようとしている。
「キュウキュウ!」
おもちがガッツポーズ、横のグミと田所は拍手をした。
『魔物が添えられている』『これは良い動画』『需要まるっ!』
素人の俺は何もわからなかったので、詳しく色々と調べてきた(御崎が)
必要なものを取り揃え(佐藤さんが)、出来ること出来ないことを調べ(ドラちゃんが)、ようやくここまで漕ぎつけた(まだ雨流の家に居候中)。
「初めはコンクリートで中を固めようと思ったんですが、昔からの夢だったひのき風呂にすることにしました」
田所とグミ、ぷいぷいっと頭に乗せたひのきの板をカメラの前に持ってきてくれた。ノリノリでかわいい。
「ぷいにゅっ」「がうがう」「ぷいにっ♪」「がうがう♪」
全て最高級品質のものだ。そこそこ値はしたが、香りがとても良い。
手順としてはコンクリートである程度側面や中を固めたところで、ひのきを接着していく。
普通はもっと大変だが、ドラちゃんがある程度魔力でくっつけてくれるらしいので、効率は良いらしい。
後は一層に水道管を設置し、水路の水を引いて、蛇口を付けたり、椅子を設置する。
俺は田舎で畑を耕していたので出来ると思う(謎の根拠)。
『田所組(グミ)かわええ』『ノリノリでいいね』『ミサキや雨流姉妹は?』
「A級になったのでその手続きに、雨流姉妹は色々と探索協会で忙しいみたいです」
視聴者さんに説明を終えると、早速だがリノベーションに取り掛かる。
地味な作業だが、畑の時よりは見栄えも良いだろう。
「よし、やるぞ。おもち、田所、グミ!」
「「「キュぷっがうー♪」」」
◇
「きょ、今日はこれで終わります……」
「「「キュッぷっがう……」」」
『乙w 腰いわすなよw』『みんな可愛かった。無理せずね』『毎日じゃなくていいから、気長に待ってます』
時間にして十数時間で生配信を終えると、用意していたブルーシートの上に全員で寝っ転がった。
疲れ果ててしまい、身体がバキバキだ。
「舐めてた……」
予めやるべきことはリストにしていたが、コンクリートを作ったり、一層から水道管を引くだけでも大変だった。
とはいえ、ドラちゃんのおかげもあってそこまでは成功した。
壁に取り付けた蛇口を捻ると、水路からくみ上げた水が出てくる。
そこにホースシャワーをつけたので、ピューと水を出しておもちたちの泥を払う。
「ははっ、気持ちいいか」
おもちは羽根を揺らして、ここも! ここも! と喜ぶ。グミは体に水がまとわりついている不思議な体質だが、それでも水を掛けられると気持ちがいいらしい。
田所の身体は不思議で、水が弾きとばされる。
「ぷい?」
といっても、土が付着しているところは綺麗になった。
俺も身体を洗って乾いたところで、今日のところは家に帰った。
◇
翌日、御崎がおにぎりを作ってくれたので、動画を配信しながらお昼休憩で食べる。
おもちたちも、器用に手を使って食べていた。
『謎のピクニック感』『美味しそうなおにぎり』『ミサキちゃんはええコやなあ』
段々と人間らしくなっていくおもち達に驚愕しつつも、愛情もマシマシになっていた。
「よし、午後からも頑張るゾ!」
それから毎日リノベーションをしていて地味な映像が続いたが、おもち達のもふもふ加減のおかげで動画は好評だった。
その間に、御崎や雨流、ミリア、佐藤さんが手伝いにも来てくれた。
「ねえアトリ、これはどこに置くの?」
「ああ、それはあの辺に設置しようかなと思う」
「山城、この板はここでいいんですか?」
「ああ――」
前かがみになったミリアの谷間が、俺の視線を釘付けにする。
「あーくん、お姉ちゃんの谷間見てない?」
「雨流、ハッキリ言い過ぎだぞ」
御崎の視線を感じるが、気づいてないフリをした。
「阿鳥様、防水モルタルの工程、全て終わりました」
「佐藤さん、あなたが神ですか」
最大の難所だった部分は、佐藤さんが一晩でやってくれました。
『これはチート』『さす砂糖』『何かを思い出させる所業』『GJ!』
この人が分身したら、世界制覇も容易だろういな。
でもなんで執事をやってるんだろう……。
数ヵ月後、まだ完璧とは言えないが、当初の予想より遥かに上回るリノベーションが出来上がった。
『すげえ、これヤバすぎひんか!』『これは最高の家活』『奥にあるのなんだろう? 小屋?』
庭に出来たダンジョンの温泉をリノベーションしてみた #12
気づけば動画もシリーズ化。
「ではまず入口から。――何ということでしょう、あの土だらけの殺風景だったダンジョンが、こんなに素晴らしい温泉に」
後に編集でビフォーアフターが流れているだろう。
大きな窪みだった温泉が、ヒノキでしっかりと正方形に組まれていた。
足元には木の板が続いているので、土で汚れることもない。ちゃんと簡易更衣室も設置。
奥には椅子がいくつか並んでいて、お湯と水が蛇口から出るようになっている。
鏡、シャンプー&リンス、ボディーソープも完備。
排水溝は壁に繋がっているのだが、ドラちゃん曰く吸収されるらしい。
「ほら、ダンジョン内って死体とか血とかも消えまちゅよね!? それと同じなんでちゅ!」と、怖い事を言っていた。
『いいなあ。温泉入りたい』『そういえば効力は?』『設備良すぎだろw』
効力は魔力と疲労回復があったが、ほかはまだわかっていない。
そして奥に設置された小屋に入る。四人ぐらいしか入れないが、入口には、手作りでおもちサウナと書かれている。
まあ書いたのは俺だが。
『もしかして!?』『これは期待』『あれ、雨流姉妹!?』『最近サービス良すぎなんだよなw』
そう、雨流たちに待機してもらっていた。
「山城、準備は出来ています」
「あーくん、おもちがばっちこいって!」
「なんか言い方が古いな……。よし、おもち頼んだぞ」
「キュウ!」
炎中和を少し解除した瞬間、サウナルームの端にいるおもちが、炎を漲らせた。
部屋の温度がいい感じに急上昇、そう、これがおもちサウナだ。
流石にサウナの本体を設置するのは大変だったので、おもちにお願いすることで完成した。
ミリアと雨流の白い肌から汗がたらりと流れて、体重ダウン、健康アップ、視聴者のテンションもアップアップだ!
「ふう、気持ちいいですね」
「あづい~う~」
そのとき、入口からタオルを頭に巻いた半裸の佐藤さんが現れた。
いや彼は――熱波師、ロウリュウ佐藤だ。
「
両手が光ったかと思えば、大きな団扇の魔法武器を召喚した。スキル『
空気中の熱が、室内をぐるりと回っていく。
佐藤さん、あんた最高だよ! なんでそんなこともしてくれるんだい!? 大ちゅきちゅき!
『お前ら仲良すぎなんだよw』『腹抱えてワロタ』『ロウリュウ似合いすぎなんよ』『てか、腹筋えげつw』
ちなみに上半身裸の佐藤さんの肉体美は、素晴らしい。
次は隣に移動すると、五右衛門風呂がいくつか並んでいる。
そこには、グミの水風呂と書かれていた。
もう、言わずもがなだろう。
「グミ、頼んだぞ!」
「がう!」
放水される透明な水、不純物を取り除かれた綺麗な水は、全ての身体を癒す――。
ロウリュウ佐藤に燻された火照った身体も、ひとたび入浴すれば全てが洗い流される。
「気持ちいい……ああ、召されそうだ」
『アトリの顔w』『整うが来るぞ……』『ざわわ、ざわわ』『温泉⇒サウナ⇒水⇒???』
そして最後の場所では、水着姿で寝ころんでいるミサキがいた。
いや正しくは、田所をベッドにして寝ている。
後は田所のふわふわもちもちベットで『ととのう』だけなのだ。
横のミニ冷蔵庫には、ミニウシの冷えたミルクと、チョコレートジュース、ミサキ手作りのお菓子が入っている。
『最高すぎんだろw』『ミサキちゃんかわいすぎ』『天下取ったなこの動画』『自由謳歌しすぎw』
そしてドラちゃんの歌声も。「ドララ―! ドララッ♪ ドラっ♪」 うーん、著作権が怖い!
「いかがでしたでしょうか? 個人的には凄く満足で、皆のおかげでここまで来ることが出来ました。もちろん、
そして、最後、コメントが鬼のように流れていく中、重大発表をする。
「そして動画をいつもご覧頂きありがとうございます。このたびなんと、ミニグルメダンジョン温泉ツアーinオフ会。おもち達のグッズもあるよ! を開催することを決定しました。日時は日を追って連絡するので、楽しみにしておいてください! おそらく人数限定になると思いますが、また動画で連絡します!」
『な、なんだってえええええええええ』『嘘だろ、おいまじかよ!?』『会えちゃうの!? 温泉に入れちゃうの!?』『グッズ!?』
『やばすぎ! ええええええええ』『行きたい行きたい行きたい』『死んでも行きたい』
この日、登録者数は200万人を突破、おそるべきことに、ネットニュースの一面にも載ったのだった。
―――――――――――
【 お礼とお知らせ 】
早速温泉の快適度が上がってきています(^^)/
個人的にはおもちサウナで整ってみたいですね。
そして初めてのオフ会が開催されます!
グッズ販売も予定! 果たして人は集まるのでしょうか。
「熱波師ロウリュウ佐藤に仰がれたい!」
「オフ会に参加したいです!」
「この話の続きがまだまだ気になる」
そう思っていただけましたら
ぜひとも、フォロー&☆で応援をお願いいただけますでしょうか?
★ひとつでも、★★★みっつでも、大丈夫です!
現時点での評価でかまいません。
よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます