54話 初めてのオフ会
オフ会を発表してから数週間が経過した。
実は以前から大和会社のバックアップを受けて、裏で話が進んでいたのだ。
当然、いやもちろん御崎が頑張ってくれていたおかげでもある。
表だって言わないが、色々な業務を彼女がやってくれている。
正直、このコンテンツ、いやみんなが幸せに暮らせているのは御崎のおかげだ。
そして迎えた当日、大和が借りてくれた小さな会場に、大勢が集まってくれていた。
思っていた以上に老若男女で驚いたが、こんな人達が見てくれたんだなあと思うと感慨深い。
ちなみに完全抽選だ。予想よりも遥かに来たので驚いたが、おかげで第二回も考えている。
「こんにちは、アトリです」
マイクを持って、皆の前で挨拶をする。今ここには俺しかいない。
「本物だー!」
「おおー、アトリだー」
「実物で見ると恰好いいね」
可愛いギャルに褒められてしまって、頬が赤くなる。これが、モテるということ!? いや違うか。
「かわいいー、炎耐性でも顔が赤くなるんだね」
「アトリマンー!」
あ、アトリマン? そんなニックネームいつのまに……。でも、子供に言われるとなんか嬉しいな。
「それでは皆様、下に描かれた魔法陣の中に入ってもらえますか?」
ガヤガヤと大勢が中心に集まっていく。そしてミリアに頼んで来てもらったスーツ姿の男性が、俺の肩に触れた。
「こちらの準備できました」
「はい。――皆さん心配なさらず、それでは行きますよ」
そしてその男性が、
地面の魔法陣が光って、その場から全員が消える――次の瞬間、目の前に現れたのはミニグルメダンジョンの第一層だった。
「すげええ、動画の通りだ!」
「あ、チョコレートウォール!」
「ミニウシがいる! あ、うるさいミニゴーレムも!」
皆のテンションも最高潮。オフ会するにあたって色々と考える事があった。
住所を晒すことは危険なので、ここに移動してもらう方法を考えていたのである。
そこで探索者で有能な人材を派遣してもらった。
あらかじめ二つの場所に魔法陣を描く必要があったが、そのくらいは問題なかった。てか、便利な能力で羨ましい。
そして――。
「ドラらあ! みなちゃま、ようこそミニグルメダンジョンへ!」
とことこ歩いてきた小さなドラちゃんが、ジェントルマンのように挨拶をした。
当然、その姿に心を打たれた参加者が興奮しはじめる。
「ドラちゃんだ! 凄い!!! かわいい」
「本当に小さいんだな。うわああ、パシャパシャ」
「こっちむいてー! ドラちゃーん!」
ちなみに撮影は許可している。チョコレートウォールも飲み放題なので、大勢の参加者が壁に並んでゴクゴクを喉を潤した。
「美味しい……最高……」
「ここストロベリー味だ……」
「カカオにが……うま……」
やっぱり美味しいよね。うんうん。
そのとき、いつものタイトスカートぴっちり御崎が現れた。
「皆さんこんにちは、初めましてー」
ゆっくりと歩いてくるのだが、熱烈なファンと思われる人達が前に出て、まるでコスプレイヤーを見るかのように写真撮影を始める。
男性がほとんどだが、熱狂的な女性もいる。
もちろんローアングルは禁止だ。
「ミサキちゃん! こっち向いて―!」
「目線くださーい!」
「ポージングお願いします!」
「こ、こうですか?」
まんざらでもない様子の御崎、もしかしてモデルやってた?
コニワトリのゆで卵やミニウシのミルクを飲んでもらった後は、我らがヒーローおもちの登場だ!
「キュウキュウ、キュウー!」
皆様ようこそいらっしゃいました、という顔で、尻尾を振りながら現れる。
当然、参加者のテンションは最高潮。だがこれだけでは終わらない。
グミが田所を乗せて現れると、三人で遅くまで練習していたフリフリダンスをしはじめた。
もちろん複雑な振り付けではないが、同じような動きをする魔物は世界初だろう。
知能が高すぎるところもだが、サービス精神が旺盛すぎる。
「おもちー! キャー! ふわふわー!」
「田所かわいすぎー! ぷりんっとしてー!」
「グミちゃーん!!! お水かけてー!」
俺と御崎は一転してコンサートの警備員のようになってしまう。
「押さないでください、線をはみ出さないで!」
「落ち着いてください、後で握手会もありますからー!」
さっきまでの俺たちのチヤホヤ感、どこいった!?
◇
「ここからは事前に伝えていた通り水着となりますので、お洋服は到着後にお脱ぎください」
オフ会の注意点として、服の下に水着を着てもらっていることになっていた。
更衣室は会場に戻ってからになる。時間短縮の為だ。
地下通路を下ると、そこには数週間前よりパワーアップした温泉が姿を現した。
まず地面のコーティングを増やして滑り止めを追加、更に特別なダンジョンの素材を使って、衝撃を受けると地面がフカフカになる素材を施した。
原理としてはエアーバッグみたいで、俺も何度かつるっとすべって倒れたが、これのおかげで命拾いしている。
ただ衝撃耐性とか覚えられたかもしれないなと思ったとき、そんな自分が少し恐ろしくもあった。
「皆様こんにちは、雨流ミリアです」
「こんにちはー! セナでーす!」
第二層で現れたのは雨流姉妹だ。流石に俺たちのイベントなので申し訳ないと言ったのだが、お手伝いしたいとのことだった。
いつもお世話になっているので、と。
「可愛すぎる……肌白ーっ!」
「思ってたよりセナちゃんがちっちゃい、愛でたい、撫でたい」
「これが、S級……!」
当然の如く写真撮影開始。
おもちたちも警備員に降格だ。
「キュウキュウ!」
「ぷ、ぷいにゅー!?」
「が、がう!?」
悲しいよねえ!? わかる、わかるよその気持ち!?
そこからは各自楽しんでもらうことになった。
おもちのサウナ、グミの水風呂、田所リラックスベッドは大人気だ。
当然、あの
「僭越ながら仰がせて頂きます」
半裸の最強おじ熱波師、ロウリュウ佐藤だ。
ちなみに最終的に一番人気だった、理由はよくわからない。
最後にイベントを行った。質問コーナーや触れ合いイベント、クイズに対談だ。
最後は会場に戻ってからグッズ販売となった。
おもち達の手形に、それぞれミニぬいぐるみ、チョコレートやミルクを瓶に詰めたおみやげ用。
『炎耐性(極)』と書かれたキーホルダーが意外と人気だったのは驚いた。大和の営業の人がウキウキで「これは売れますよ!」といっていたが、俺は絶対売れないと思っていた。
だが一番人気だったのは、ロウリュウ佐藤がプリントされたタオルだった。世の中何が売れるかわからないというが、本当によくわからない。
最後にネット通販のURLを書いた紙を手渡した。
オフ会は後々配信する予定であるが、色々と編集があるので今日の所は撮影のみ。
全員集合の撮影をした後はSNSに載せて、オフ会は終了となった。
ほんとうに……楽しかった。
◇
「それじゃあミリア、雨流、佐藤さん、今日はありがとう」
「いえとんでもございません」
「私も楽しかったです。こんなこと初めてだったので……それに山城、今度デートしましょうね」
「え? あ、ああ……」
後ろから御崎に睨まれている気がするが、気のせいであってくれ。
「それでは失礼します」
ブルルルとリムジンで消えていく。そう、もう俺たちは居候ではないのだ。なんと自宅が完成した。
以前と違ってキッチンやリビングが広くなっているので、かなりワクワクしていた。
「じゃあ、おもちいこうねー!」
「おい雨流、なんでいるんだ……」
まるで当然の如くおもちと手を繋ぐ。……まあいいか。
「今日、楽しかったわね」
「ああ、本当にな。今日は皆に助けられた。でも、俺が一番感謝してるのは、御崎だよ」
「え? な、何もしてないけど……」
恥ずかしそうにそっぽ向くと、頬が少し赤く見えた。こういうところ可愛いんだよな。
「私が頑張れるのは……阿鳥がいるからだよ……」
「え、なんて?」
「……何でもないよ。――そういえば、A級ダンジョンの申請しといたよ」
「そうか、ありがとな」
俺と御崎の目線は、雨流に注がれていた。
A級ダンジョンにはもっちゃんがいるかもしれない。
彼女の為にも見つけてやりたいと思っていた。
それにおもちとそっくりということは同じ種族の可能性が高い。
そのあたりの秘密も解き明かしたいのだ。
ただまあ――。
俺たちのペースで、のんびりいこう。
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