66話 民宿×少年×手がかり=???

「よくきたねえ、ゆっくりしてねえ」


 民宿に到着後、出迎えてくれたのは年配のおばあさんだった。

 近辺は何もなく、まさに田舎だが、少し離れた場所には大手リゾートホテルが建っているらしい。

 だが俺はここを予約した。その理由は、ダンジョンに近いということもあったが、幼い頃に一度だけ来たことがあるのだ。


 簡易的な手続きを終えて中に入ると、木造で建てられた家のと、少し古さもあって床が少し軋む。

 一階には今まで来たであろう客の写真や、情緒あるお土産のようなものが飾られており、宿泊者ノートには大勢の書き込みがあった。


 二階へ上がると、広い和室、畳の部屋が広がっていた。

 合宿にきたような安心感があるが、特筆すべきものがあるわけではない。小さなテレビに掛け軸、だが俺は凄く懐かしい気分になった。


 けれども少し心配していた。

 あらかじめ説明はしていたが、民宿で本当に良かったのかと。

 もちろんこの家が悪いとかではなく、車が最新鋭、船も特等室だったこともあり、みんなの期待とは違う方向になっているのではないかと――。


「いいところね、畳も落ち着くし、ここならみんなで横になって眠れるじゃない」

「はい! おばあさんも優しそうでした!」

「あーくん、ありがとう! みんなで寝れるのが一番嬉しい」


 だが、そんなことはなかった。

 みんな本当にいい子で、わがままを言う人なんていない。俺は少しだけ、自分を恥じた。


「キュウキュウっ」


 俺の心の内を理解しているのか、おもちが羽根でぽんぽんと叩いてくる。

 ありがとうおもち。お前は……優しいな。


 でも、羽根を落とすと民宿の迷惑になるからそっと叩いてね。


「キュ?」


 みんなが荷物を下ろしている間に、一階の受付のおばあさんの所に戻る。

 聞きたいことがあったからだ。


「おばあさん、ちょっといいですか?」

「なんだい? 夕食は五時からだよ。お手伝いさんもくるから、美味しいの作るねえ」

「ありがとうございます。それもなんですが……ダンジョンについて聞きたいのですが」

「ダンジョンねえ、ごめんねえ、あまり詳しくなくて」

「そうですか……」


 ダンジョンは、この民宿の近くにあるのだ。昔はなかったが、その情報聞いて……少し運命的なものを感じた。


 ただネットに情報がほとんどなく、田舎のダンジョンは、よっぽど魔石が美味しくなければ観光客は来ない。

 離れた場所にももう一つあるらしいが、そっちは魔石が美味しくリゾート地からも近いとのことだ。


 もちろん両方行く予定だではある。


「もしかしたら、孫のりょーすけなら知っているかもねえ」

「りょーすけくん? どこにいるんですか?」

「庭にいるんじゃないかなあ。いつも遊んでるから」

「聞いてみます、ありがとうございます」


 俺がこの民宿に泊まったのは、確か8歳ぐらいのころだった。記憶通りであれば、対応してくれたおばあさんと同じだ。

 少し嬉しくて、頬が緩んだ。まあ、覚えていないだろうが。


 庭に出ると、畑がたくさん並んでいた。そこにポツンと空き地があり、しゃがみこんでいる少年がいた。


 遠くから声をかけてみるが、反応がない。

 少し駆け寄ってみると、りょーすけくんは穴ではなく、何やら小さな石をいじっていた。

 いやこれは――魔石だ。


「魔石!?」

「え? あっ!?」


 俺に盗られると思ったのか、急いでポケットに隠す。

 その様子は、なんだか悪いことをした後のようだ。


「だ、だれ!? お客さん!?」

「怖がらせてごめんね。山城阿鳥だ、その……りょーすけくんだよね? それはどこで手に入れたの?」

「な、なんでもないよ! ただの石!」


 大きく首を振るが、汗をかきながら目を見開いている。

 明らかに嘘なのだろうが、警戒している。


「……もしかしてダンジョンに行ったの?」


 どうやったら口を開いてくれるかな……そうだ。


「俺は探索者なんだ。だから口は堅いし、ダンジョンに行ったのなら仲間だよ。尊敬する」

「……本当? だったら、証拠を見せて」

「証拠か、そうだな……じゃあ」


 俺は充填していた炎を手の平で漲らせる。

 まるで炎の魔法を出したように見えるのだろう。りょーすけくんは眼を輝かせて声をあげた。


「すっげええ! 魔法だあ! おにいちゃん、炎を操れるんだ!」

「ま、まあ当たらずも遠からずだな。ほら、今度はりょーすけくんも教えてくれるかな?」

「……わかった。ほら、これ」


 見せてくれた魔石は、俺が今まで見たものは随分と違うかった。

 手に持って見ると、ドクンと脈を打つようで、どこか力強い。

 そして何よりも気になったのは、真紅の炎のような色合いをしているのだ。


 次の瞬間――『炎をフル充填しました』とアナウンスが流れた。


「なんだって……」

「え、ええ、お兄さんどうしたの!?」


 慌てて魔石を離してしまい、りょーすけくんが拾い上げる。


「ご、ごめん。これ……どこで?」

「絶対に言わない? 誰にも?」

「ああ、おじさ――お兄さんはA級探索者だ。嘘はつかない」


 手の甲の証を見せると、りょーすけくんは叫ぶようによろこんだ。


「ほんと!? わああ! ええとね、実はこのあたりを紅い鳥が飛んでたんだ! 途中で見失ったんだけど、その時これを見つけたんだ!」

「赤い鳥……もしかして……。――この写真に似てる鳥かい?」


 まさか、と思った。高鳴る心臓の鼓動を抑えて、ダンジョンで撮影されたという写真を見せる。

 おもちとは少し違う、より赤い炎を纏っている。


 するとりょーすけくんは、強く頷いた。


「え! そう! この鳥だよ! キュウキュウ! って鳴いてた」


 間違いない、フェニックスだ。

 もっちゃんかどうかはわからないが、偶然にしては出来過ぎている。

 それに今まで、おもち以外に確認されたことはないのだ。


 りょーすけくんが見たのが、もっちゃんだという可能性は高い。


「でも、この鳥を沢山見たことあるんだ」

「たくさん? いっぱい飛んでたってこと?」

「う、うん……だ、誰にも信じてもらえてないんだけど……」

「お兄さんは信じるよ」

「ダンジョンを眺めるのが好きで、ボクずっと見てたんだ。でね、突然同じ赤い鳥が群れで入っていくのを見たんだ」

「……それっていつ?」

「一週間前くらいかな」


 群れ……伝説のフェニックスが? いや、となると……この子はもっちゃんではなく……。

 考えても……わからない。


 ただダンジョンには、何か手掛かりが絶対ある。


 そのとき、御崎が庭に降りてきた。


「阿鳥、明日行く予定のダンジョンだけど、少し離れたのほうにあるところ人気らいしんだよね。結構難易度も高いらしいけど、そっちでいいかな?」

「いや、この近くのダンジョンにいく。それも今すぐにだ。雨流やみんなに伝えてくれ」

「え? 今すぐ!? 来たばっかりだよ!?」

「ああ、悪いな。でも、手がかりを見つけた」


 ダンジョンの外から中に入ったということは、逆もありえるだろう。

 だったら、時間を空けるのは良くない。


 雨流、俺が絶対もっちゃんを見つけてやるからな。


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