109話 アトリふぁ~む、プレオープン

『もふもふがいっぱいだ~!』『ビムちゃんとノドラちゃんのコンビ良すぎるw』『楽しそう、次の休みに行きたい』


 アトリふぁ~むプレオープン、綺麗に整えられた草原、安全で大きい柵、そして、沢山のもふもふ!


「ガオニャオ」

「みなちゃま、ようこそおこしくだちゃいまちた!」


 魔物虎ビムビーストにライドオンした野ドラちゃんが、来場してくれた人たちの前で挨拶した。

 ここは牧場だが、触れ合いメインでのんびりできる所だ。


 快適に過ごしてもらえるように必要な設備は一通り設置した。

 食事処……は流石に無理だった。

 とはいえ何もないのは寂しいので、ひとまず簡易的なのとして野菜所のスペースを作っている。


 そこには――。


「おいしい野菜あるっちー! ぜひぜひ、お土産で買ってねー!」


 御崎の元同級生、新芽碧しんめみどりに来てもらっていた。

 相変わらずのギャル風貌、持ち前の明るさを発揮し、ハキハキした声でみんなの注目を集めている。


 今でも交流は続いているが、本当に人の縁は素晴らしいと思う。


「じゃあ、ノドラちゃん、行こうか」

「はい、たけしちゃま!」


 …………。

 

 いや、何でもない。


『アトリの哀愁』『意外と女々しいとこあるな』『悲しみのNT……』


 山自体広いが、牧場自体はこじんまりとしている。

 それでも魔物は割と多いので、満足度は高いかもしれない。


 ウシニワトリブタはもちろん、コニワトリ、ミニウシ、コウサギ、ミニゴーレム、そして――。


「キュウ?」

「かわいいー、羽根ふわふわだー」

「炎なのに熱くないんだね」

「かわいい……」


 特別ゲストとして、おもち達にも来てもらっている。


「ぷいにゅ?」

「田所だー!」

「がぅ」

「グミちゃーん」

「グルゥ」

「変身ベルト付けてるー!」


 流石俺の子供たち、大人気だ!

 思っていたよりも家族連れ、後は女性が多い。SNSでも発信していたが、わざわざ山奥まで来てくれているのはありがたい。

 オフ会やカレーの時もそうだったが、みんな優しいしいい人ばかりだ。


 こうやって触れ合えたり話せるのは嬉しいし、人の温かさを感じられる。


「阿鳥、綺麗な人が多いね」

「ああ、多いな」

「ふうん?」

「……み、御崎」


 横から現れた御崎が誘導尋問、じぃっと俺の瞳を見つめて――。


 ふっと笑顔になる。


「何気にしてるの? 阿鳥は私の婚約者でしょ?」

「……ああ、そうだな」


 驚いた、怒られると思っていた。でも、御崎の言う通り、俺は彼女のことを愛している。

 目移りなんてしない。


「あ、でもあそこに恰好いい人がいる」

「え」


 どこ、どこだ!?

 そうか、逆のパターンも……。


「ここでした」


 鼻をちょんっと、御崎が俺に触れる。

 恥ずかしそうに笑った後、御崎はお客さんたちの所へ行って、色々交流をしていた。


 今や彼女も有名人だ。

 俺たちが外にいると声を掛けられることも珍しくない。


 正直、急いでいる時は困ることがある。


 だけど御崎は、嫌な顔一つせず丁寧に対応する。


 ほんと、彼女は優しい。


『イチャイチャすなw』『俺たち、見てますよ』『恥ずかしくて頬が赤くなっちまうよおお』


 あ……、忘れていた。

 そういえば配信していたんだった……。


 まあでも、もういいよな。


「アトリさん、一緒に写真とってもらえませんか?」

「……え、俺?」

「はい、私、ずっと配信見てて!」

「え、あ、も、もちろん! 俺で良ければ」

「やったー! みんな、写真撮ってくれるってー!」


 その後、ゾロゾロと後ろに並んでいく。

 一人、二人、三人、四人、え、多くない!?


『そりゃみんな撮りたいよw』『自分の功績をわかってないなw』『有名配信者、最強テイマー、世界も何度か救ってますがw』


「あーくん、私も横にならんでいい? 一緒に並んでほしいってー」

「師匠、わ、わたしも言われました!?」

「ははっ、そうだな。じゃあ、みんなで撮影してもらうか」

「阿鳥、私も並ぶね」


 アトリふぁ~む、触れ合いがメインの牧場。


 野菜も完売、魔物も大人気、配信も好調。


 けど一番人気は――。


「アトリさん-! こっち向いてくださいー!」

「セナちゃーん!」

「ミサキチャン、こっちこっち!」

「スメちゃーん!」


 多分……俺たちだった。




 まあでも、嬉しいことだ。


 人生ってのは、本当に何が起こるかわからない。


 これから出会う人、魔物、俺は今以上に大切にしたい、そう気づかされた一日だった。


 

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