最終話 俺は一人じゃない。

『はっぴぃーばーすでー、俺……』


 俺――山城阿鳥やましろあとりは、公園で一人寂しく誕生日を祝っていた。

 コンビニで買ったケーキを見つめて、会社の不平不満を頭の中でぶちまける。


 なんで、なんで俺は……。


 つらい、かなしい、ああ、なんで誰も――。


『――えてる?』


『――ねえ――えてる』


『山城阿鳥』


 ――――

 ――

 ―


「んが……!? え、あ、え!?」

「よくこんな大事な時の前にぐっすり眠れるわね」


 目を覚ますと、俺の目の前には幼女がいた。

 ちょこんとした身長、雨流よりも小さい、だが高圧的な態度――。


「何見てるのよ」

「いや、似合うなと思って」

「そりゃどーも。それで、ついにわかったのよ。あなたの――能力ギフトの正体が」

「……まじ?」

「マジ」

「まじまじの……まじ?」

「まじまじのまじ」

「結構ノリいいな」

「伊達に歳食ってないわよ」

「自分で言うのか」


 予想以上に綺麗な掛け合いをしてくれる藤崎に満足しつつ、俺は緊張を紛らわそうとしていた。

 炎耐性(極)――。

 俺にとって今は大切な能力だ。


 そこから水耐性、そしてまあ、なんだ、色々増えていった。


 能力のおかげで今の俺があることは間違いない。


 俺は、固唾を飲んで藤崎の次の言葉を待つ――。


「わからなかった」

「……はい?」

「だから、わからなかったことが、わかったのよ」

「どういうことだよ……」


 思わず拍子抜けで、椅子から転げ落ちそうになる。

 どういうことだ。むしろじゃあなんで教えにきたんだ。


「でもいつかはわかるだろ? 今わからないってことだよな?」


 俺の問いかけに、藤崎は首を横に振る。


「おそらく、いや、これは仮説だけど……もしかしたら……進化っていうスキルなのかもしれないわ」

「進化?」

「人間には自己治癒能力がある。その究極体があなたなのかも」

「究極体……いずれ誰かを取り込んだりできるのかな? 完全体になって、世界を征服できるとか?」

「その時は私が自爆スイッチ押してあげるわ」

「なんで俺の身体に入って――もしかして前の検査の時に!?」

「バレた……」

「ははっ」


 予想以上に藤崎が面白いことがわかったところで、ドアがコンコンとノックとされた。

 扉が開く前に立ち上がろうとしたら、藤崎が俺のネクタイを締めてくれる。


「天使と会う前は綺麗にしときなさいよ」

「ありがとう、おばあ――いてっ」

「お姉さん、でしょ」


 俺は急いで姿勢を正して立ち上がる。

 隣の全身鏡を急いでみて、黒スーツが皺になってないのか確認した。


 そして――。


「阿鳥、お待たせ」


 現れたのは、藤崎の言う通り天使だった。


 幼い頃見た絵本から飛び出してきたのかと思うくらい、綺麗で純白なお姫様。

 それなのに顔立ちは整っていて、大人びた目鼻立ちに思わず見とれてしまう。

 

 一緒にドレスを選んだが、実際に見せてもらうのは初めてだ。


 凄く……似合っている。


「ど、どうしたのよ。何か言って――」

「綺麗だ。本当に凄く綺麗だよ、御崎」


 ただ、本当にそう思った、感じた。

 色んな言葉で表そうとしてみたが、何度やってもただその三文字しか出てこなかった。


 だが御崎は嬉しそうに頬を紅潮させて、耳を少し赤くして――。


「ありがとうね」


 満面の笑みで、そう返してくれた。


「お熱いね。私いないほうがよかったんじゃないの?」

「あ、いや!? そんなことないぜ!?」


 ついつい時間が止まっていた。

 そのとき――。


「キュウキュウ!」

「ぷいにゅ!」

「がう!」

「グルゥ」


 特注の正装姿のおもち達が、扉から急いで走ってくる。

 だが御崎のドレスには触れてはいけないとわかっているのか、寸前で止まって、パチパチと拍手のようなジェスチャーをした。

 ただ田所は俺にダイブしてきたので、身体ごと受け止める。お、おもいな。


「準備終わったのか」

 

 続いて現れたのは、雨流と住良木だ。

 二人ともおしとやかなドレスに身を包んでいる。

 雨流はグレーで、住良木がピンク色、いつもと違って真逆だが、またそれが似合っていた。


「みんな待ってるよー」

「師匠! 御崎さん、とてもお似合いです!」

「ありがとう、すめちゃん。じゃあ、いこっか――阿鳥」

「ああ、そうだな。雨流、田所を頼む」

「はーい!」


 ひょいと田所はジャンプして、雨流の頭に乗る。

 ぷいぷいと歌を歌っているみたいだ。


 最後みんなと離れる瞬間、藤崎が――。


「あ、残念なこと一つ伝えるの忘れてたわ」

「残念?」

「あなた、不死じゃないみたい。だから、寿命はみんなと同じ」

「……そうか、逆に安心したぜ。一人だけ永遠に生きるのは辛そうだしな」

「あら、そうでもないわよ」

「……え、まじ?」

「まじ」

 

 メインの会場まで移動して、大きな扉の前で待つ。

 俺の隣には御崎、綺麗、綺麗すぎる。


「阿鳥、腕っ」

「あ、ああ!?」

「何度もシミュレーションしたのに」

「すまねえ」

「ふふふ、いいわよ」


 雨流たちはおもちを連れて先に中に入っていった。


『それでは、山城夫妻のご登場です。拍手でお出迎えください!』

 

 アナウンスと共に、扉が開く。


 そこに広がっていたのは、俺と御崎と縁の深い人々、そして魔物だ。


「おめでとう、山城、御崎さん」


 雨流・ミリア・メルエット。


「おめでとうございます。よくお似合いですよ」


 佐藤・ヴィル・エンヴァルト。


「あーくん、おめでとう!」

「似合いすぎっすよー!」


 雨流・セナ・メルエット。

 住良木・紬。


「おめでとう」

「おめでちゅ!」

「おめでちゅちゅ!」


 剛士さん、本ドラちゃん、ノドラちゃん。

 あれ、左右に肩乗ってる!? あ、いや、今はいいか。


「おめっちね!」

「おめでとう、とてもいいことだね」


 君島英雄きみしまえいゆう

 新芽碧しんめみどり


「おめでとう、お似合いね」


 藤崎・キャロル・フランソワーズ。


 そしてもちろん――。


「キュウキュウ!」

「ぷいにゅ!」

「がう!」

「グルゥ」

 

 おもち、田所、グミ、フレイム。

 他にも、大勢の魔物がいる。時代は変わったのだ。


 これからは、人間も魔物も何も変わらない。


 俺たちは仲良く共存し、未来を創っていく。


 ダンジョンの存在理由なんて些細なことだ。


 それよりも大事なのは、俺たちがこれからどう生きるか。


 それを、魔物たちが教えてくれた。


 そして、視聴者リスナーたちが。


『おめでとう、アトリ』

『おめでとうおおおおおおおおお』

『ミサキチャン、かなしいケド、嬉しい!』

『ミサオジが泣いとるが俺も泣いとる』

『感慨深すぎる』

『配信かかさず見てた俺からしたら、こんなハッピーエン……いや、ハッピースタートは泣ける』

『おもち達のスーツに合い過ぎてて草』

『ほんとだww 特注っぽいw』

『あー……なんか、マジで泣いてる』

『私も涙が止まらない』

『でも、配信は続けてくれるって』

『これからもずっと見届けたいね』

『本当にありがとう、こんなに素敵な夫婦どこにもいないよ』

『ありがとうありがとうありがとう』

『おめでとう! 本当におめでとう!』

『最高だ、最高の結婚式だね!』

『御崎のウェディングドレスに合い過ぎてる』

『ああ、ありがとう……幸せになってほしい』

『ミサキを泣かすなよアトリ!』

『アトリを泣かすなよミサキ!』

『みんなでこれから仲良くね』


『おめでとう、これからもずっと応援しています』


 俺たちはゆっくりとみんなの横を通って、愛の誓いを立てた。

 そして――。


「御崎、愛してる。これからもずっと一緒にいよう」

「ええ、私もよ。愛してるわ」


 ゆっくり、本当にゆっくりと確かめるように唇を重ねた。


 次の瞬間、拍手が嵐のように響く。

 魔物たちも歓迎してくれる。


 ああ、なんて幸せなんだ。


「キュウキュウ!」


 すると俺の元に、おもちが羽ばたいてきた。

 感極まってるのか、いつもとは違う表情だ。


「おもち、ありがとうな」

「キュウ」

「これからも一緒にいような」

「キュウ!」


 もちろん、みんなもだ。


 俺のスローライフはこれで完結かもしれない。


 これからはきっと忙しくも楽しい日々が待っているだろう。


 結婚生活、牧場経営、ミニグルメダンジョン、まだまだやることはいっぱいある。


 だけど大丈夫、俺の隣には、こんなにも美しくて頼りになる女性がいるのだから。


 それに――。


「今まで見てくれた視聴者リスナー、本当にありがとう。これからも動画は続くが、俺にとっては大事な節目だ。色々と気になることもあったかもしれないが、ここまでついてきてくれたことに感謝してる。――ありがとな」


 ああ、本当に。


 おもちと出会って、会社を辞めて、配信者になって……良かったな。


 みんな、ありがとう!!!

 

 

 ―――――――――――


 【 あとがき 】


 フェニックスに懐かれたので、を最後まで見て頂きありがとうございました!

 こちらにて完結となります!


 三か月ちょいでしたか、毎日更新を続けて楽しく駆け抜けれたなーと思いますw


 そもそもローファンタジーが初だったのでわからないこといっぱいでしたが、ダンジョンって何なの!?

 スローライフって!? みたいなところから始まりました。

 配信者も個人的にはそこまで詳しくなかったのですが、色々と調べたり、阿鳥という人物にフォーカスを当ててくうちに色々と構想が広がりました。

 主人公がスキルを持っている、というのが僕が書いていた当初のダンジョンものでは少なかったので、炎耐性だー! と思い書いたのですが、意外に強くなったなという印象です。

 テイムモンスターに関しては段々と増えていく一方で、どうやって魅力的にキャラをみせるのか? が凄く勉強になり、楽しくもありました。


 後半のフレイムについては短いながらも面白く書けたんじゃないかなと思います。


 シリアスパートが入って離脱者もいたかもしれませんが、最後まで見てくださった方には本当に感謝でしかありません……。


 拙い戦闘描写は大変見づらかったかもしれませんが、阿鳥の人間性を書く上で凄く大切なところでした。


 心優しいが、やるときはやる。そんな一面を見せることができていたら嬉しいなと思います。


 少し長くなりましたのでこの辺でw


 本当にありがとうございました。色々と配信者も流行っていますが、是非是非楽しんでみていってくださいね。


 コメント、イイネ、レビュー、誤字脱字、なんかもう色々ありがとうございました。


 では、視聴者どくしゃの皆様。


 また次回の物語でお会いしましょう!


 また、閑話SSなどありましたら投稿しますので、フォローはそのままだと更新がわかりやすいかもしれません!


最後に☆☆☆で応援をお願いいただけますでしょうか?


★ひとつでも、★★★みっつでも、大丈夫です!


 ありがとうごいました!!!!!!!


 




 


 


 




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