番外 SS 『パリにて』

「――えーと、これ出来てるかな? あーあー」

「カメラの電源入ってる?」

「ああ、合ってると思うんだけどな……お、おいおもちカメラ咥えてどこもってくんだ!?」

「キュウキュウ!」

「あ、電源入った」


 アトリふぁ~むが落ち着いた俺は、久しぶりに配信を起動していた。

 結婚やら経営やら色々忙しかったので少しフォロワーも減ったみたいだが、ずっとお気に入りしてくれている人には感謝を言いたい。


「お久しぶりです。元気してましたか?」


 すると、次々と左下に人間のマーク、つまり、同時接続者が表示される。

 凄まじい数だ。ていうか、多すぎて笑える。


『アトリぃいいいいいい、元気してたか?』

『おもちだ! 変わってない! あ、羽根の伸びてるかも』

『御崎チャン、大人っぽくなったネ』

『おおお、元気してた? アトリふぁ~む、ニュース凄いね!』


 あまりの速さにコメントを追いきれないが、それでもみんな喜んでくれるのはわかった。

 いくつか読み上げるが、みんなニュースを見てくれていたらしい。


 アトリふぁ~むは色々な魔物と触れ合えるとのことで連日大人気なのだ。

 

 夏のイベント特集にも一位に輝いて、今は二代目の野ドラちゃんと魔物虎ビムビースト、そして剛士さん、碧が頑張ってくれている。


「そうそう、剛士さんと碧が結婚したんだよ。あのギャルメイクも今はやめて黒髪で、ネイルもなくなったんだよね。喋り方は一緒なんだけど」


『マジかよw そこまでは知らなかった』

『あの綺麗な黒髪のお姉さん、碧だったのかw』

『凄いなw でもお似合いな感じがある』

 

 そしてもちろん、おもちの後ろには、田所、フレイム、グミも一緒だ。

 みんなそこまで変わってない。


 田所はもちもち具合が増えて、フレイムのベルトが新しいバージョンに変わって、グミの水分量が増えたくらいか。


 あれ、結構変わってるか?


『それで、どこなの? なんかやたら海外っぽいところだけど……』


 配信ではおそらく、後ろの西洋風な建物が映っているのだろう。

 それもそのはず、今ここはフランスのパリなのだ。


 もちろんそれは、人に会いにきたから。


「あーくん! みーちゃん! 久しぶり!」


 するとそこに映ったのは、ちょっとだけ、いやほんの少しだけお姉さんになった、雨流だ。

 まあ、そこまで変わってない。ちょっとだけ髪伸びたか? ぐらいだ。


「久しぶり。仕事はどう? あ、ごめんね。配信しちゃってて」

「うううう、おもちもいるううう。ぐみも田所もフレイムもおおお」


 雨流は御崎の胸にダイブ、たゆたゆしながら頭をうずめていた。

 ……ずるいな?


『これはサービスシーン』

『田所が仕事してないな』

『これ有料ですか?』


 おっとダメだダメだ。最近厳しいんだよな。気をつけないと。


「実はこっちで探索者の仕事があって、それで雨流に会いにきたんだ。ついでに配信もしようと思ってね」


 俺は、画面内の視聴者に語り掛ける。


 雨流はこっちでミリアと探索者の仕事をしていて、それで長い間日本に帰ってきていなかった。


 俺としても久しぶりなので、かなり感慨深い。


「キュウキュウ」

「おもちっ! おもちっ!」


 相変わらずの仲良しは、みていて癒される。


『やっぱりこのコンビ好き』

『セナちゃんかわゆす』

『癒される……』


「とりあえず観光しながら配信でもしようかな。海外のペット魔物も紹介していきたいし」

「うん、案内するよ!」

「じゃあ甘えようかな? 私、カフェいきたくて」

「撮影許可って、フランス語でするのかな?」


 それから俺たちは、美味しいカフェを回りながら、海外のペット魔物を紹介していった。

 配信は盛り上がっていたが、何よりも俺たちが話していることが嬉しかったらしい。



 忙しかったからと言い訳にしていたが、これからはちゃんとしていかないとなと思った。


 そして一番きれいな夕日が見える場所で腰をかける。

 配信のドローンは空港でなぜか怒られたので、今は手動。

 

 地面に設置して、全員が映るようにする。


 住良木も誘いたかったのだが、流石に高校生なので一緒に海外を行くのはダメだろうと説得した。

 大学くらいになればまいいだろうと言ったら、じゃあ飛び級します! と言っていた。

 日本では無理だが、あいつのやる気なら何かいつか叶えそうだ。


「すげー、綺麗だな。なあおもち」

「キュウキュウ!」

「たどちゃん、夕日見える?」

「ぷいにゅ!」

「ぐみ、フレイム、おいでっ」

「がぅぅ!」

「グルゥ!」


『すげー、なんか日本と色味が違うね』

『炎耐性で夕日が消えたりして』

『太陽にアトリを突っ込ませてみたい』


 なんか過激なことを言っている奴がいる。

 まあ、これも配信の面白さだよな。


 夕日をみんなで眺めた後、俺は視聴者にふたたび語り掛ける。


「とりあえず元気なことを伝えたくてな。みんなも元気してるみたいで良かったよ。くれぐれも体には気を付けてくれ。また日本に戻ったら配信を続けるつもりだから見てくれよな」


 そういってみんなで手を振った。最後の最後までみんなコメントをしてくれて、本当にうれしかった。


 少し寒くなったところで夕食の話が出た。

 そのとき――。


「久しぶりね」

「山城様、お久しぶりでございます」


 ミリアと佐藤さんが現れた。どうせだったら配信でみんなにも見せてあげたかったが、こればかりは仕方ない。


「おお! 元気してたか?」

「もちろんよ。セナ、迷惑かけてないわよね?」

「ちゃんと案内したよ! いっぱい褒められたし」

「ああ、雨流が大人になった部分が見れたよ」

「へえ、めずらしいわね」

「お姉ちゃん!」


 ああやっぱり、みんなといるのが一番楽しいな。


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