13話 ファイアスライムに命名。家族が増えました。

 俺は信じられないものを見ている。


 弱小と呼ばれているスライムが、オークやロプスちゃんをバタバタとなぎ倒しているのだ。

 それもどう見ても弱そうな体当たりで。


「ガアアアアアアッ!」

「えいッ」


 獰猛な魔物たちは、次の瞬間、炎で燃え盛りながら悲鳴をあげて倒れ込む。

 生息していたのが地下四十五階というのは、おそらくガチだろう。

 あまりにも強い、強すぎる。


『このスライム只者じゃねえw』『声のトーンと威力が一致してないんだが』『体当たりでS級までいけそう』


「どう、ボク、どう!?」


 褒めてと言わんばかりに、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 配信も大盛り上がりだ。


 その後ろから、別のロプスちゃんが現れた。


 もはや驚きはなく、相手が可哀想だと思いはじめていたが。


「キュキュ!」


 その時、おもちが負けじと飛行し、炎のブレスでロプスちゃんのお腹にどでかい穴をあけた。

 そして死体に向かって、御崎が嬉しそうに近寄り、スキルで死体を浮かせたあげく、器用に魔石を取り出す。


「大量♪ 大量♪」


 恍惚な表情を浮かべる御崎、飛行しながらロプスを倒すおもち、体当たりしながら敵をなぎ倒すスライム。


 あれ、俺……いらなくね!?


 いや、この人たちの適応能力高すぎッ!?

 まずい、このままでは俺の存在意義が……あと、配信での立場が……。


「君たち、集合!」


『このパーティ、最強にて』『明日にはトレンド入りしてそうだな』『このままボスまで突っ走れ』『アトリ、必要ない……?』

「キュウ?」


 最強トリオを呼びつけ、事前に受けていた注意事項を思い出させるように伝える。。

 初ダンジョンの入場は、制限時間が設定されているのだ。

 俺が帰りたいわけではない。これは本当に。


「悪いがそろそろ時間だ。魔物を倒し過ぎるのも、生態系が崩れて危険だと聞いたこともある」

「そうね。鞄に魔石も入りきらないし、今日は帰りましょうか。それにしても阿鳥、あなた役立た――」

「さあ! 帰るぞ! 魔石は俺が持つ!」


 御崎が言っては言けないことを言いそうだったので、言葉を遮る。

 おもちとスライムに威厳を保つためにも、できるだけ頑張らないと。


『必死感伝わる』『みなでいうな……』『負けたことがあるのが財産になるやつ』


 全てが終わり、俺たちは最後の挨拶をして配信を止めた。コメントは今までで一番多かったので、間違いなく大成功だ。

 ただ、バッテリーが無くなりそうだったので、今度はモバイルチャージャーでも持ってこようと学んだ。


 出口へ戻る前に、スライムに視線を向ける。


「本当にいいんだな? 次にいつここへ戻って来るかわからないし、テイムされている以上、一緒に暮らすことになる」

「了解でありますッ!」

「キュウッ!」


 すでにおもちとファイアスライムはニコイチみたいになっている。とはいえ、擬態は予想以上に凄まじいかもしれない。

 さながら俺は芸能マネージャー気分。

 売れっ子を抱えれば、将来も安泰!? 


 いずれは阿鳥ーズみたいな会社でも作るか! スローライフするにも、基盤が必要だしな。

 がははは!


「ふ、御崎、お前を副社長にしてやってもいいぞ」

「よくわからない妄想をぶつけないで。あと、ニタニタ笑ってて気持ち悪い。わかってる? あなたが一番弱いし、役立たずなのよ」

「ひえ……」


 三十五倍ぐらいの反撃を返されてしまい、瞳から涙が零れそうになる。

 何でそこまで言うの!? 


「ご主人様は弱いんですか?」


「やっぱりここに置いて帰ろうかな」


「ええ、そ、そんなーッ!」


「嘘だよ。じゃあ、みんなで帰ろうか。初ダンジョンは大成功ってことで、ありがとな」


 ◇


「阿鳥、お酒まーだー?」

「冷蔵庫にあるから自分で取ってくれよ……」

「魔石を眺めてるので忙しいの~」

「それ何もしてないって言ってるのと同じだぞ」


 自宅に戻って打ち上げをすることにした。

 御崎は魔石をずっと眺めている。確かに綺麗だ。てか、女性っぽいところもあるんだな。


「うふふ、いくらで売れるかな? おもっちゃん、スラちゃん!」

「キュウ?」

「ぷいぷいっ♪」


 あ、そっちね……。そして驚いたことに、ファイアスライムは言葉をしゃべらなくなった。

 いや、喋れなくなったというのが正しいのだろう。

 ダンジョンの外は魔力が少ないらしく、それで喋れなくなるかもと最後に教えてくれた。

 声帯模写はそれだけ消費するのだろう。


 とはいえ、何の問題もない。むしろ、静かでありがたいと思ってしまった俺はひどいかもしれない。


「ほら、うどんだぞー。今日は豪華にきしめんだ!」

「キュウー!?」

「ぷいっぷいっ♪」


 がっつくおもちとファイアスライム。姿かたちは違うが、兄弟みたいだ。

 もしくは姉妹か。


「ほら、御崎」

「えへへ、ありがとー! おつまみは?」

「うどんだ」

「またあ!? 少しはお金使おうよー」

「支援してもらえるとはいえまだ俺たちは無職なんだぞ。節約は基本だろ」

「けちー、けちー」


 まったく、駄々をこねるところは子供っぽい。けれども、彼女のおかげで俺は仕事を辞める決意もできたし、こうやってダンジョンもクリア出来た。誰よりも感謝している。


「おもっちゃーん、スラちゃーん♪ かんぱーい♪」

「なあ御崎」

「んっ? んっ……どうしたの」


 お酒をぐびぐびと飲む御崎。改まってお礼を言おうと思ったが、なんだか恥ずかしくなる。


「いやその……ありがとな。ダンジョンにも着いてきてくれて」

「ふふ、てか顔赤すぎ。阿鳥ちゃんは恥ずかしがり屋だねえ」

「うるせー」

「――私のほうこそありがと。毎日ストレス抱えるより、こうやって笑い合える方が性に合ってるわ」

「確かにな。――そういえば御崎、スライムに名前を付けてあげてくれよ。スラちゃんってのも、なんだかな」

 

 んーっ、じゃあねえとスライムを見つめる御崎。

 おもちと関連性のある名前がいいな。そういえば彼女のセンスを俺は知らない――。


「田所さんにしよう。ね、たどちゃーんっ!」

「たど……ころさん?」

「うふふ、いいでしょー?」


 絶望的だ。ありえない。おもちと田所は流石に……。


「却下だ」

「え、なんでえ!?」

「わけがわからなすぎるだろ。なんだ田所さんって……」

「近所にいたおじいちゃんなんだけど、スラちゃんに似てるんだよね。温和な感じが」

「おじいちゃんには悪いが、流石にそれは――」

「ぷいっぷい~♪♪♪」


 しかしスライムは、いや田所はご機嫌で、御崎に頬ずりをしはじめた。

 え、いいの? その名前でいいの? おもちと田所だよ?


「ほら! たどちゃんも嬉しいって!」

「いいの? 本当にいいの? 取り返しがつかないぞ?」

「ぷいぷいっ/////」


 嬉しくてたまらないらしい。

 まあでも、本人が喜んでいるならいいのか。


「なら田所、これからよろしくな」

「ぷいっ!」

「たどちゃーんっ♪ おもちゃーん♪」


 こうしてファイアスライムこと田所が、俺と御崎とおもちの間にやって来たのだった。


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