40話 雨流家長女、雨流・ミリア・メルレット

「それじゃあセナちゃん行こっか?」

「はい!」


 ようやく落ち着いた雨流は、御崎とおててを繋いで風呂へ。

 グミと田所も一緒だ。


 ただ人数の限界があったので、おもちと俺はお留守番。

 寂しそうに羽根を揺らしているので声をかける。


「おもち、後で一緒に入ろうな」

「キュウキュウ!」


 ちなみにおもちは背中の部分を撫でると喜ぶ。

 そこが気持ちいいみたいで、おしりをフリフリするのだ。

 

 今度、ショート動画ってのも撮影しようと思っている。


「しかし雨流の姉か……」


 雨流が風呂から上がったら、姉のことを聞いてみることにしよう。

 今までプライベートだからと遠慮していたが、こうなるとそうもいかないだろう。


 でも……殺すなんて……流石に姉妹でありえないよ……な。


「あ、佐藤さんに連絡しておかないと」


 スマホを取り出して電話を掛けようと思ったが、手が止まる。

 佐藤さんが姉に伝えたら、すぐこの家まで来るんじゃないのか?


 雨流家の執事なのでどっちかに肩入れするとは考えにくいが、立場的には姉のほうが上だろう。


 やっぱりやめておくか? でも……。


 未成年を匿うことは法律上誘拐になってしまう

 佐藤さんとは顔見知りなのでそこまでのことはされないと思うが、実の姉が気付いた場合……どうなるのかはわからない。


 そのとき――入口からもの凄い魔力を感じた。


「キュウ!」


 そしておもちが俺よりも早く反応し、開けてあった窓から外に飛び出す。

 おそらく御崎や雨流も気づいただろう。

 大声で家から出るなよと叫んで、おもちの後を追った。


 外に出ると、そこには何度か見たことのあるリムジンが停車していた。


 雨流家の――車だ。


 おもちは一歩引いて警戒していた。

 羽根を広げ、威嚇しているようだ。

 長い付き合いの俺でも、こんなおもちの姿を見るのは初めてだ。


「ピイイイイイイ」

「落ち着け、おもち大丈夫だ」


 そう、ただ魔力が溢れているだけなのだ。

 ただ間違いないないのは、あの中に雨流に匹敵するほどの魔力を持つ誰かがいるということ。


 ……まあでも、心当たりは一つしかないが。


 そして運転席から出てきたのは、佐藤さんだった。

 もしやと思ったが、どうやら魔力は助手席から溢れ出ている。


 思わず声を掛けようと思ったが、佐藤さんは助手席側に移動して扉を開く。


 次の瞬間、ドアの隙間から足が見えたかと思えば、綺麗な女性が現れた。


「ありがとう、佐藤」

「いえ、どういたしまして」


 恭しいその態度から、佐藤さんはこっちの味方ではないように思えた。


 チャイナドレスのような黒服、両足の側面はスリット。

 髪色は雨流とおなじ金色で、目鼻立ちがキリっと、顔は雨流が成長した感じだ。――間違いない姉だろう。


 ただ、こんな時にいうもんじゃないがとてもやらしい。――いや、セクシーだ。


 

「……あなたが、山城阿鳥?」

 

 鋭い目をしている。

 身にまとう魔力は雨流と同じか――それ以上。


「ああそうだ。お前は雨流の姉、ミリアか?」

「あら、知ってるの?」

「キュウ!」


 おもちの声を聞いた途端、雨流姉は目を見開いて驚いた様子を見せた。


「驚いた……本当にもっちゃんにそっくりなのね」


 もっちゃんとは、雨流が前に飼っていたというペット魔物だ。

 本人も言っていたが、姉も驚くということは、やはりそんなに似ているのだろうか。


「あら、ごめんなさい。そんなことを言いに来たんじゃないのよ」

「どうしてここに来た? 何が目的だ?」


 ここに雨流がいることはまだ知らないはずだ。

 もしかしたら佐藤さんに聞いて、ここにいるかもと思っているのかもしれない。


 ここまで来たら嘘をついててでも雨流を守りたい。

 おもちも警戒している、何かあったら俺が前に出なくては。


「セナを連れ戻しにきたのよ、ここにいるのわかっているわ」


 返ってきた答えは最悪だった。

 どうしてかはわからないが、漲る魔力が冗談ではないことを主張している。

 連れ戻しになんて言葉を使ってるが……実際はどうだろうな。


 下手に嘘をつくより、虚実を混ぜてみるか。


「確かにいたがもう帰ったぜ」

「バカにしないでちょうだい、私は姉よ? セナの魔力ぐらい感じ取れるわ」


 ……ダメか。


 ここまで来るぐらいだ。やはり確信があったのだろう。

 油断はせず、静かに身体に魔力を漲らせる。


 しかし驚いたことに次に口を開いたのは、佐藤さんだった。


「山城様、どうかお願いします。争ってほしくないのです」

「佐藤さん……見損なったぞ。あんたは雨流の味方だ思っていたがな」

「すみません。これは仕方のないことなのです」


 とはいえ、雨流家に仕える執事なら当然か。

 そうなるとやかなり分が悪い。

 佐藤さんはS級探索者だ。雨流姉がどの程度なのかはわからないが、魔力は申し分ない。


 ――覚悟を決めるか。


「おもち、先に仕掛けるぞ」

「キュウ!」


 二人で戦闘態勢を取ったのだが――。


「お姉ちゃん、どうしてここが……」


 そのとき、風呂上りの雨流(妹)が現れた。

 驚いた表情だ。御崎が後ろから追いかけてきて守ろうと前に出る。

 おそらく制止を振り切ってきたのだろう。


「帰るわよ、セナ」

「嫌……」

「人様に迷惑かけたらいけないっていってるでしょ」

「かけてないもん!」

「……何度も言わせないで」

「かけてないったらかけてないもん!」


 やはり関係性は最悪らしい。佐藤さんも頭を抱えている。

 理由はわからないが、よっぽどのことがあったのだろう。


 血縁関係であれば、相続問題なんてその代表だ。

 

 庭にダンジョンが出来て権利のことで家族が揉めた、なんて話もある。


 泥臭い話は苦手だが、何としても雨流は守ってあげたい。


「かけてないっていってるでしょ! お姉ちゃんのバーカ!」

「なんですって!? バカっていうほうがバカよ!」


 ……ん? なんか、様子がおかしいな。いや、気のせいか。

 二人は姉妹だ。それで砕けた口調になっているだけだ。


 きっとそうだ。


 いや、そうであってほしい


「だってお姉ちゃんが悪いんだもん! 私が楽しみにして・・・・・・・・・・たプリン食べたんだか・・・・・・・・ら!・・


あなたが名前書いてな・・・・・・・・・・いからでしょ!・・・・・・・ 前から何度も言ってるのに!」


 ……はい? プリン?


「だってマジックがなかったんだもん!」

「あなただってこの前私の苺を食べた――」


 マジック……。イチゴ……。


 それからも二人は同じような言い合いをはじめた。

 佐藤さんに顔を向けると、やれやれという表情を浮かべている。

 

 次第に姉妹の言い合いはヒートアップ。


 だが俺たちは比例してテンションダウン。


「ねえ阿鳥、家の中に戻らない?」

「そうだな御崎、おもち、戻ろっか。風呂入ろうぜ」

「キュウキュウ」

「すみません、私も中で待たせてもらうことはできますか? こうなると長いんですよね」

「ああ、佐藤さんどうぞ。良かったら温かいお茶でも出そうか」

「ありがたく頂戴します」


 そういえば佐藤さん、二人は犬猿の仲って言ったとき、複雑な顔してたもんな。

 執事の立場なら何とも言えないし、そりゃこうなるよな……。


「それを言うならお姉ちゃんだって私のアニメ消したじゃん!」

「な……あんただって私の一番楽しみにしてたドラマを!」


 ―――――――――――

 【 お礼とお知らせ 】


 初登場の雨流姉、ミリアです。

 二人は仲があまり良くありません。

 はい、良くはありません。

 でも、もしかしたら良いかもしれません。

 それは誰にもわかりません……。


 ただ姉妹喧嘩には佐藤さんもほとほと手を焼いているようです。


「佐藤さんがかわいそう」

「心配して損した」

「この話の続きが気になる」


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