74話 第一回、テイムモンスターコメディ部門

 関係者チケットを見せてドーム内に入場する。外の様子でわかっていたが、中も人でごった返していた。

 人間だけではなく、テイムモンスターも大勢いる。


 ネットニュースになっていたが、今大会のチケットが転売されて社会問題になっているらしい。

 

 通常料金の十倍にもなっているとかで、運営側の想定をはるかに超えているのは間違いないだろう。

 戦闘、コメディ、魅力部門と書かれたシールを入口で手渡されたので、胸元に張り付ける。


「私のコメディって……なんか恥ずかしい……」

「はは、似合ってるぞ」


 全ての演目、いや対戦? はドームの真ん中のステージで行う。


 順番は、コメディ、魅力、そしてメインイベントである戦闘だ。

 つまり、御崎&田所、雨流&グミ、俺&おもち。


 ミリアと佐藤さんは、探索協会のスポンサーとしての仕事もあるらしく、「また後で」と消えていった。

 ちなみに、また後で、と俺は思っていない。腹痛とかならないかな、特に佐藤さん。


 小腹が空いていたので、魔物フードと飲み物を購入。

 席は決まっているのだが、出場者だということもあって一般席より広いらしい。

 ありがたいなと思いつつ、少し申し訳ない気持ちで移動する。


「あーくん、あそこじゃない?」

「おお、なんか花見みたいだな」


 雨流が指を差した場所には、山城様御一行と書かれた札が立っていた。

 小さな囲いの中に、クッションが敷き詰められている。


 魔物の事を考えてくれているのだろう。間隔も広く、座ってみるとお尻にも優しかった。

 といっても一般席にも魔物席があるらしく、色々な配慮がされている。

 

 スポンサーとして大和もお金を出していると聞いたので、宣伝の為にも是非優勝してほしいと言われていた。


 開始はまだ先だが、観客を飽きさせない為か、既に司会者がマイクを握っていた。

 どデカいモニターに映し出されているのは、とても綺麗なお姉さんだ。


『第一回、テイムモンスター大会へお越しの皆様! 開始までしばらくお待ちください! なお、協賛スポンサー様のご厚意により無料魔物フードを配布しております!』


 真面目な話から、ちょっとした魔物豆知識、笑い話など。

 おかげで退屈せずにすんだが、気づけば時間が近づいていた。


 その時、人一番元気な声が後ろから聞こえてくる。


「師匠ーっ! テスト全然ダメでしたー!」


 誰と言わなくてもわかる。振り返らなくてもわかる。

 こんな人前で師匠は、ちょっと恥ずかしい……。

 戦う元気なJKは、すぐに席に座って、もぐもぐと魔物フードを食べはじめる。


「美味しいっすね! ハーピーの卵サンドって初めて食べました!」

「住良木はいつも元気だな」

「えへへ! ありがとうございますっ!」


 元気なのは良い事だが、元気すぎるのも……いや、良い事か。


「キュウキュウ……」

 

 その時、おもちが緊張しているのかいつもより静かな鳴き声を出していた。

 テレビで知っていざ参加しようと決めたが、もしかして嫌だったのかもしれない。


 ごめん、おもち。もっと君のことを考えなければならなかった。

 もしかして今まで戦いたくないのに戦わせていたのかもしれない。


「おもち、参加やめとくか?」

「キュウ……」


 ああ、そうか。

 ごめんな、おもち。


「おもち、うどん食べすぎてお腹いっぱいみたいだね」

「さっき魔物フードできしめん風があったからね、食べ過ぎたのかもー」

「キュウ……」


 前言撤回、おもちはおもちで、おもちでした。

 後、訊ねて見たら、戦うのは楽しくて好きだそうです。


 ◇


『さあ、はじまりましたー! まずはコメディ部門ー!』


 司会者の叫び声と共に、観客のヴォルテージが高まっていく。


 御崎と田所は、既に裏でスタンバイしているらしい。

 Nー1みたいな音楽が流れると共に、有名な人たちが登壇してくる。


 漫才のお偉いさんや、落語、文学、様々だ。


『楽しみすぎるー!』『配信できるのいいね』『会場の人、凄いな』


 生配信を開始。誰でも放送して良いとのことで、事前に告知があった。

 公式放送もネットでしているとのこだが、色々と太っ腹だ。


「頑張れよ、御崎、田所-ッ!」

 

 コメディとはいえ、御崎と田所は夜遅くまで秘密の特訓をしていた。

 持ち時間は一組三分、漫才、漫談、コント、変顔、何でもありだ。

 何かの地下闘技場みたいだが、否応なしにもテンションが上がっていく。


 前座の小話が終わると、さっそく一組目が登場した。


 小さな女の子と、魔狼まろうのコンビだ。どちらもちょこんとしててかわいい。

 最前列じゃないとよく見えないが、ライブのようにモニターにデカデカと表示されている。


『可愛すぎる』『コメディってより魅力じゃない?』『はい、優勝』


 まだ一組目だよ!?



「こんにちは、マナですっ」

「ガッガウガウガウ」


 二人とも可愛い自己紹介を終えた後、何をするのかと思いきや、頬でたこ焼を作った。

 その後、二人で新体操をしたり、昔懐かしく飛行機みたいなのを二人でやっていた。


 これってコメディか? という疑問はあったが、会場は盛り上がっていた。

 とはいえ審査をする人は厳しく、点数は振るわなかったので、かなりしっかりしているらしい。


『俺なら満点だった』『魅力部門のが良かったな』『ミサキチャンまだカナ?』


 続く二組目は、筋肉質の兄貴だった。魔物は中ぐらいのサイクロプスで、二人でコントをしていたが、面白くて点数も良かった。強敵だなと思いつつ、三組、四組、そして五組、ついに――御崎と田所の出番が来たのである。


 ちなみにどの部門にも予選があり、俺たちは既に突破してこの会場に来ていた。

 なので一応ここにいるのは、選ばれた精鋭たちだ。


 配信を見ている人も多かったのか、田所が出てきた瞬間、おおっと声が上がった。


 御崎はいつもより緊張しているらしく、ぎこちない表情だった。


 その時、住良木が叫ぶ。


「御崎さーん! 笑顔、えがっおー!!」


 誰よりも透き通る声量なので、御崎が俺たちをみて微笑んだ。

 これはグッジョブだ。


「やるな、住良木」

「えへへ、頑張ってほしいっす」


 頭を撫でてやると、住良木は頬を赤らめた。


 その直後、二人の――漫才・・が始まった。


『ちょっと聞いてよ田所ちゃん』

『どうしたんや~? 御崎ちゃん』


 田所が喋った瞬間、会場が騒めく。

 喋る魔物はいるが、一言二言なのだ。こんなに喋れるわけがない。

 今大会の為に、田所は数か月間魔力を蓄えて蓄えていた。この三分間に、賭けている。


『私、昔から探索者になるのが夢やってん。だからちょっと夢叶えてくれへん?』

『ええで御崎ちゃん、じゃあボクが手伝ったるわ』


 関西弁のスライム、それだけで会場から笑いが起きる。

 掴みはバッチリ、テンポもいい。


『ここがダンジョン……凄い、異様な雰囲気を感じる……』

『いらっしゃいませー! 一名様ですか? おタバコはお吸いになられますか? カウンターとテーブルどちらになさいましょう?』

『飲食店かて!』


 その後、続く二人の軽快なボケとツッコミは、会場を大いに盛り上げていく。


 三分間という短い時間はあっという間に過ぎ、採点は――今までで最高得点だった。


「師匠、これは優勝じゃないですか!?」

「ありえるな」


『これは優勝だろww』『面白過ぎたw』『田所強者すぎるw』


 配信も盛り上がっていたが、最後の最後、トリを積めたのはまさかの碧だった。


「うちめっちゃアスパラ好きで、キャベツがピーマンで茄子っちが――」

「ピピピルピル!」


 野菜の魔物と繰り広げられるギャルトークは、見るもの全てを笑いの渦、いや野菜の渦に巻き込んでいた。


 そして――満場一致の点数で優勝。

 惜しくも御崎は準優勝の結果となってしまった。


『どんまい御崎ちゃん!』『昨日の友は今日の敵だったか』『どっちも面白かった!』


 全てを終えて席に戻ってきた御崎は、とても満足そうだった。

 田所は魔力を使い果たし、御崎の頭の上でぐでんっとなっている。


「ダメだったー……」

「ぷいにゅう……」

「いや、凄く面白かったぞ。俺が一番笑ったのは御崎と田所だ」

「……ほんと? えへへ、だって! たどちゃんっ!」

「ぷいっ! にゅっ!」


 ちなみに満員御礼のおかげで、準優勝にも大会からプレゼントがあるらしい。

 発表は最後だが、それも楽しみだ。


 そして次、雨流のグミの魅力部門が、はじまったのである。




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