92話 逃げねえよ、逃げるわけがないだろ。

 炎耐性(極)は、外れスキルだった。


 もちろん人によっては違うかったのかもしれない。


 消防士になる度胸もなく言い訳ばかり、ただブラック企業で無為な日々を過ごす毎日。


 そんなある日、おもちと出会って人生が劇的に変わった。


 今の俺の身体には、魔物を一時的に従魔する魔法や炎耐性(弱)がある。それらを組み合わせて、おもちと田所を再びテイムしたのだ。


 そして俺は、ずっと考えていた。


 能力は無敵じゃない。


 弱点は、俺が一番良く知っているはずだと。


 そして辿り着いた答えは――。


「いくら耐性があっても、限界ってのがあんだよッッ!」


 耐性限界を超えるほどの、凄まじい攻撃だった。


 俺は過去、雨流を庇う為におもちの炎のブレスを食らったが、そのまま気絶してしまった。


 気を失ったのはあの時だけだ。


 耐性があっても無敵じゃない。


 そして今、全てを叩きこんだ。


 岩崎一の身体がくの字に折れ曲がると、嗚咽しながら膝をつく。


 チャンスは一度きり。きっと奴の脳内には、凄まじいほどの耐性を習得したアナウンスが流れているはず。


「く……そがあああああああ……」

「なっ――」


 だが岩崎一は倒れなかった。寸前のところで耐えしのぎ、何らかの能力を使って後方に飛ぶ。


「真弓……そいつを止めろ……」

「承知!」


 気絶は免れない。最後の気力を振り絞っただけだ。

 倒れ込む最中、奴は「固有停止ユニークストップ」を何かしらの耐性で解除しやがった。

 

 とどめを刺そうとした俺を止めようと、真弓が立ち塞がる。


 樽金は予想通りただの感知能力で戦闘には向いていないらしく、必死に逃げ回っている。


「逃がさないわよ」

「ッ!? みさ――」

「動かしてあげる!」


 だがもちろん逃がすわけがない。

 御崎が能力で空中に浮かせると、じたばたと身動きが取れなくなる。いっちょあがりだ。


 真弓は俺に両手を翳すと、何かしらの魔法を放ってきた。

 凄まじい力だ。なぜこんなことができるのかわからないが――。


 ――問題はない。


不可避領域バリア


 視聴者リスナーからもらった能力。

 全ての魔法を10秒間だけ無効にする。一日一回しか使えないが、十分だ。


「すめら――」

「わかってるっす!」


 阿吽の呼吸で住良木が後ろから駆けていた。

 手加減なしにみぞおちを一撃。


 当分飯が食えないほどの鈍い音が聞こえる。


「岩崎さ……ま……」


 気絶を見届ける余裕はない。


 ミリア、佐藤さん、雨流は岩崎一を拘束しようと駆けていた。


 後は俺が吸収の魔法具で能力を奪い取れば、藤崎曰く元に戻る。


 そしてあいつの能力は『盗賊バンディード』だということが、藤崎のおかげでわかった。

 他人の能力を奪い取って自分のものにするらしい。


 真弓は元からあいつの信者だった。組織の名前は、能力から取ったものだった。


 岩崎一は雨流の引力と斥力で引っ張られ空中に浮いていた。


 俺は魔法具を発動させようと魔力を込める。

 

 光り輝き、岩崎の体から能力が飛び出て、俺の体にしみこんでいく。


 しかしその時、大きな異変を感じた。

 

 吸収の魔法具じゃない。


 何か、別の魔力が――。


「阿鳥様、↓です!」


 佐藤さんの声で、全員が後方に飛ぶ。


 地面がカタカタと震えはじめ、あたり一面がじわじわと黒くなっていく。

 液体を零して広がっていくように、闇が大きくなっていった。


「…………」


 そこから現れたのは、あの・・人型の悪魔だった。

 ほっそりとした体、黒い翼、赤い角に鋭い眼光。


 まるで漫画やアニメに出てくる魔族だ。こんなのが現実世界に存在するなんて……。


「お前か、俺様を呼び出した人間は」


 その視線は、俺に向けられていた。ものすごい力だ、写真からも感じていたが、S級、いやそれ以上の力。


 ミリアも、雨流も、佐藤さんですら動けない。


「……違う」

「ほう、ならこいつか」


 魔族は、岩崎をひょいと持ち上げた。

 確かにデカいが、簡単に持ち上げられるとは思えないほっそりとした腕だ。


 だが時間を与えたせいか、思っているより早く岩崎が目を覚ましそうになる。

 吸収は完了していない。


 完全に覚醒すると、もはや岩崎に攻撃は効かないだろう。


「そいつを離せ、俺の獲物だ」

「ほう、人間如きが俺様に命令するのか」


 圧倒的な魔力、――死、その予感が過る。


 動きたいが、動けない。その場にいる誰もが声を押し殺す。


 だが最悪な事に、岩崎が目を覚ましてしまう。


「く……な、……お前、ははははは! やった、やったぞ!」

「お前か、俺を呼び出したのは」

「はは! そうだ、そうだ! やった、やったぞ! お前ら探索者はこれで終わりだ! 始祖の魔王がいれば世界は俺のもんだ!」


 始祖の魔王?


 何を言って……いや、嘘とは思えない。


 魔王? こいつが?


「お前、何か勘違いしていないか?」

「……は? な、なにがだ!?」

「俺様は強制的に召喚された部下を取り戻しに来ただけだ」

「……はっ! 俺には闇耐性があるんだ! お前なんて怖くねえ! 大人しくテイムさせろ!」

「ふむ? だが見た所、お前にそれはないようだが?」

「な……なんだって? うわ、うわあああああああああああああああああああ」

 

 岩崎の足が黒く変色していく。なんだあれは……。

 腐ってる……のか……。


「どうだ? 痛いか? お前にテイムされた我が部下どもを返してもらうぞ」


 魔王と呼ばれた悪魔は、岩崎の身体から何かを吸い取った。魂、いや黒い塊が魔王の口に入っていく。


 それが終わると、岩崎は再び気絶したのか、それとも死んだのか魔王に持ち上げられたまま項垂れた。

 その後、岩崎をゴミのように地面に投げつける。


 どこかに消えてくれ、そう思ったが、魔王は俺たちを睨んだ。


「ここにいる全員が同罪だ」


 そう言い放つと、飛んでもない魔力が公園を襲う。


 右手の平を上に向けると、そこから黒い玉が出現した。

 ありえないほどの威力を兼ね備えているのがわかる。


 それをなんと、御崎に放とうとした。


「まずはお前からだ――」


 不可避領域バリアはもう使えない。

 他にも防御魔法はあるが、間違いなく防げないと直感でわかった。


 それでも――。


「い、いや……」

「御崎っ!」


 俺は御崎の前に出ると、身体で受け止めた。


 巨大な黒い塊が、魔力が――体にしみこんでいくのがわかる。

 そうか、俺が吸収の魔道具で岩崎の闇耐性を奪っていたのか……。


「ほう、おもしろい」

「かかってこいよ、魔王とやら!」

「阿鳥、ダメ、逃げて!」


 ……逃げねえよ、逃げるわけがないだろ。


 愛する女を守らねえ男が、どこにいるんだ。


「俺の大切な人に指一本でも触れてみろ、お前を殺す」

「威勢がいいな人間、だが俺様が闇魔法しか使えないとでも?」


 すると魔王は、光り輝く剣を無数に空中に出現させた。

 その切っ先は俺に向いている。


 闇じゃない。これは光だ。


 俺は光魔法の耐性なんて持ち合わせていない。


「死ね」


 ――死――。


「させない!」

氷槍アイスランス!」

「七色の武器、死線の槍!!」

「ハアッッ!!」

「ピイイイイイイイ」

「ぷいにゅ!」

「がうううううううう!」


 俺が攻撃を放たれるとわかったからか、雨流、ミリア、佐藤さん、住良木、おもち達が一斉に攻撃を仕掛ける。

 だが魔王は手の平を少し振った。たったそれだけで全員の攻撃を防ぎ、更に思い切り弾き返した。


「弱いな」

 

 まるでゲームの負けイベントだ。

 はじめから俺たちが勝てるようにはなっていない


「どこの世界でも人間は滑稽だ。だが魔物たちが必死に人間を守るのは面白い」


 だが……俺は逃げない。御崎は絶対守る。


 再び切っ先が向けられる。


「ふん、その目。……勇者に似てるな」

「そうか」


 空中に浮いた光り輝く剣、切っ先全てが俺に向けられる。


 回避できるようなレベルじゃないのはわかる。。


 防御魔法は使えない。

 

「……御崎、一度だ。一度だけしかお前を守れない。頼む、その間に逃げてくれ」

「いや、いやよ、そんなの嫌よ!」


 こんな終わり方……くそっ!


「さて、どうなる? 奇跡を起こしてみろ」


 ――空気を切り裂いて剣が放たれる。

 高速、音速、形容詞が見当たらないほどの速度。


 気づいたらもう死んでるはずだが、なぜかスローモーションのようだ。


 ああ――俺は死ぬのか――。

 

 だがその時、おもちが俺をかばおうと前に立ち塞がった。

 ボロボロの身体で身代わりになろうとしている。フェニックスは死なない。だが記憶はなくなる。


「だめだ、おもちだめだ!!!」

「ピイイイイイイ!!」


 いやだ、いやだ、いやだあああああああああああああああああああああ――。


 その時、俺のポケットが赤く光った。


 次の瞬間、身体中が熱くなる。


 そして――すべての剣が燃えていた。


「……グルゥ」


 俺の前に立っていたのは、巨大な、そして全身が燃え盛っている炎の――悪魔だった。


「あとり、あとりぃ、無事でよかった……」

「キュウ……」

「あ、ああ」


 御崎とおもちが、俺の体に触れてホッと胸を撫でおろす。

 だが何も終わっていない。


 魔王は生きている。


 それにこいつは――何者だ。


「……イフリート、なぜおまえが人間の味方をする?」

「……グルゥ」

「ふむ、なるほど」


 イフリート……だと?


「グルゥ、グルゥ」

「――そうか、はははは! まあいい。だったらお前はこの世界に残れ、俺様は部下を連れて戻るぞ」

「グルゥ」

「ふん、未来なんぞ楽しくもなんともない。じゃあな人間共」


 次の瞬間、空が暗くなった。

 魔王は空を飛び、吸い込まれるように消えていく。


 残ったのは赤い炎を纏った……イフリートだ。


「グルゥグルゥ」

「え、なんて……あ、お前……が」


 なぜか言葉がわかる。まるで俺の頭の中に、直接語り掛けてくれているようだ。


 そうか、俺が南の島でもらった赤い魔石が……お前だったのか。


「グルゥグルゥ」


 イフリートは、俺がフェニックスを大切にしていたことを見ていたらしい。

 

 それで俺を守ってくれた。


 今気づいたが、俺の体にいつのまにか炎耐性(極)が戻っていた。


「グルゥ」

「……いいのか?」

「グルゥ、グルゥ」

「わかった。でも、そうなるともう魔石には戻れない。それに……魔王とやらと会えなくなるんじゃないのか?」


 それでもいい、とイフリートは言う。


「阿鳥、なんて言ってるの?」

「ああ、もう危険はない。それと――こういうことだ」


 俺は、イフリートに手を翳した。

 その場が赤く光って手の甲に魔法陣のようなものが浮かび上がる。

 

「グルゥ」

「……テイム完了、イフリート……炎の悪魔、こいつはオレたちの家族になりたいってさ」


 グルゥと、イフリートは膝をつく。

 全身燃え盛っているが、炎中和で抑えている。


 だがどうみてもその魔力は隠しきれていない。

 佐藤さんが立ちあがって俺に声をかける。


「ありがとうございます。阿鳥様のおかげです。ですがこれは――国家が揺るぐほどのテイムですぞ。この……イフリートの魔力は……尋常じゃありません」

「……嘘だろ……」 


 一難去ってまた一難、ってレベルじゃねえぞ……。


「グルゥ」



 ―――――――――――


 【 お礼とお知らせ 】


 新連載です、宜しくお願いします!


 異世界ハイファンタジー

【勇者に封印されていた魔族、復活したら魔王城が託児所になってました。魔法禁止の平和な世の中、最恐魔族はどう生きる?】

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330658730890630


【怠惰な凌辱貴族に転生した俺、努力でシナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330658683197420


【退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330658801857199


 岩崎一、古代魔石編はこれで一段落です!


 魔王には勝てなかった阿鳥だが、窮地を助けてくれたのはなんと……イフリート!?

 そしてまさかのテイム!?


 国家を揺るがすレベルの魔物、さてどうなっていくのか?


 当分はほのぼの予定です!


 シリアスが続きましたが、ここまで見て下さりありがとうございます!

 つたない文章力で申し訳ないです汗


「家族が増えた!?」

「イフリートやばすぎ!」

「この話の続きがまだまだ気になる」


そう思っていただけましたら

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現時点での評価でかまいません。


 



 



 










 

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