90話 捜索開始

 魔物隔離所、一時期は訓練所とかでも利用されていたことがあるらしく、今は探索協会が管理している。

 最下層、厳重な警備の元で、おもちと田所が隔離されていた。


「山城阿鳥さんですね、お待ちしておりました」

 

 受付の人は、バイオハザードみたいな熱耐性の服を着込んでいる。

 そこまでしないとヤバイのか不安だが、危険な魔物もいると聞いていた。


 俺も服を着るんだろうか――。


「ではこちらをどうぞ、アルコール消毒です」

「え? あ、はい」


 その時、俺に渡してきたのは小さなアルコール消毒だった。バカにしているわけではないが、温度差が凄い。

 これでなんとかなるレベルなのか? 俺はTシャツで、相手は完全フル装備。


 ……まあいいか。


 施設は厳重で、映画で見るような科学研究所と刑務所を合せたような通路だ。


 ……おもち、田所……。


 俺のせいで……本当に申し訳ない。窮屈な暮らしを強いられているのだろう。


 通路が終わると、重厚な鉄扉が見えて来た。

 窓はない。こんな地下に二人が……。


 どうぞ、と扉を開けてくれた瞬間、俺は衝撃の光景を目の当たりにした。


「……嘘だろ……」


「キュウキュウ♪」

「ぷいにゅーっ!」


 室内は学校の体育館ほどの大きさで、耐熱仕様っぽい滑り台と遊具が置かれている。

 まさかのプールも完備、テレビは俺の家よりも大きい。


 最新ゲームも置いてあるが、流石にそれはプレイできなかったのか、ソフトだけが転がっている。


 食事スペースと思われる場所には、最新チャールや自動トイレ、自動水入れ。


 空にはおもちが高く飛んでも大丈夫なくらいの高さと、輪をくぐって遊ぶ遊具が設置されていた。


「なにここ最高じゃん……」

「キュー!」

「ぷいー!」


 久し振り、みたいな感じで手を振っていた。

 尻尾を振りながら滑り台からピューッと降りてくるが、手前で二人が止まる。


 ――炎中和されていないからだ。


 すると俺の後ろのバイオハザードっぽい人が、あまりの暑さで声をかけてきた。


「私はもうここでは……」

「ああ、ありがとう」


 俺は静かに目を閉じる。

 魔力の流れを感じ取って、身体に浸透させる。


 ガチャで破産するかと思ったが――何とかなったな。


「おもち、田所、こっちに来てくれ」

「キュ……キュウ」

「ぷにゅ……」

「大丈夫だ、心配かけたな」


 そして俺は、二人に両手を翳した――。


 ▽


 ミニグルメダンジョン内、地下通路を下っていく。

 みんなと連絡は取っていたが、二日間帰っていなかった。


 怒られるんだろうなとら辿り着くと、御崎、雨流、住良木が悲し気に座っていた。


「……ごめん、おまたせ」


 ビンタを覚悟していたが――御崎が、思い切り抱き着いてきた。


「阿鳥、何してたのよ!? 心配したんだから……!」


 目に涙を浮かべている。……心配してくれたんだな……。


「ごめん……」

「どこ行ってたの!?」


 佐藤さんに頼んで、非合法ギリギリの行為をしたのだ。

 危険な目に合わせるわけにもいかないと、詳しい話をしていなかった。


 だが――。


「あーくん……なんで、おもちと田所が……」

「そうですよ!? 隔離されていたはずじゃなかったんですか!?」


 俺の後ろには、再テイムが完了したおもちと田所が、元気に鳴いていた。


「キュウキュウ!」

「ぷいにゅ」


 グミが、思い切り走って来る。


「がうううううう!」


 グルーミングが始まったかと思えば、ルンルンで追いかけっこが始まった。

 やっぱり、家族は一緒にいないとな。


「説明すると長くなるから後でゆっくり話すよ。それより、岩崎一たちだ。これ以上、好きにさせられない」


 俺の耐性を奪った岩崎は、真弓、樽金と共に日本各地を回って悪魔をテイムし続けているらしい。

 他県の探索者が出会い、岩崎一を捕まえようとしたが、攻撃を全て無効化されて撃退されてしまった。


 藤崎曰く、悪魔を全てテイムして、世界を牛耳ろうとしてるんじゃないかとのことだ。


 俺の……せいだ。


「でも、どうするの!? 攻撃が……効かないんだよ……」

「ああ、それは俺が一番わかってる。――その逆もな。雨流、住良木、御崎、おもち、田所、グミ」


 俺はみんなに呼び掛けた。

 危険極まりない事だが、俺一人ではあいつに勝てない。

 それはわかってる――。


「頼む、力を貸してくれ。自分のけじめをつけたい」


 頭を下げた。大人してありえない行為だ。だが、それでも……。


「私のせいだよ。それに、私はいつでも阿鳥の味方だから」


 御崎が、俺の肩を優しく叩いて、顔を上げさせてくれた。

 雨流、住良木も、同じように。


「あーくん、もっと頼って」

「そうっすよ! 師匠にはいつもお世話になってるんすから!」


「ありがとう……。絶対、岩崎を捕まえよう。それで、俺に考えがある」


 岩崎一は悪魔をテイムして各地を回っている。あっちこっち移動しているのだ。

 おそらく、何らかの能力も関係しているのだろう。

 まずは場所を特定しないといけない。


 俺は一人じゃない、みんな・・・がいる。


 ――――

 ――

 ―


『久しぶりじゃないかアトリ!』

『元気にしてたか!? なんかやつれたな……』

『心配だったよ、無理しないでね』

『良かった……能力が奪われたって聞いてたから』

『おもちと田所!? なんで!?』

『アトリ、無理しないで』


『アトリ、何かあったのか?』


 そして俺は、配信の前で語り掛ける。


「みんなに頼みがある。岩崎一の居場所が分からない。だが悪魔をテイムして回っていることはわかってる。SNSでも情報はあるが、どれが本当かわからない。探索者内でも混乱してて、後手に回ってる。――頼む、外に出なくてもいい、近隣で情報があったり、何かしら探索能力を持ってる人がいたら教えてくれないか?」


 こんなこと……言うべきではないことはわかってる。

 だが――。


『わかった! 全員に連絡する!』

『私もみんなに連絡するね』

『みんな、アトリの言う通り危険なことはしないように! 情報だけね!』

『万年C級だが、俺には探索能力がある。何とか調べてみる』

『俺も知り合いの能力者に聞いてみる』

『アトリ、俺たちにもっと頼ってくれ』

『私たちも味方だから』


 俺は……恵まれているな。


「ありがとう……。もう一つだけ頼みがあるんだ。俺の新しい能力に関することなんだが――」



 御崎を危険な目に合わせたあいつらを――叩き潰してやる。


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