29話 ガイドラインの違反をしてしまいました。申し訳ありません。

「むにゃむにゃ……もう耕せないよおお……」

「ドラちゃん、おはよう」


 ミニモンスター放牧場からようやく戻ってきた俺は、庭のミニグルメダンジョンに潜っていた。

 隅のこんもりと膨らんだ土の上にリコちゃんハウスが置いてあり、パカッと中を開くとドラちゃんが寝息を立てていた。


『どんな寝言だよ笑』『かわええ、これは有料』『夢の中でも働いて可哀想w』『ドラ〇もんー!』


 ちなみに頭に付けたスマホで生配信中。出来るだけ視聴者にダンジョンを作っているところ見せたほうがいいと、御崎ママに念押しされたからだ。

 ちなみに今はおもちと田所の健康診断へ行っているので一人きり。

 大和会社から紹介してもらったところで、すごく信頼できるらしい。

 二人とも注射を嫌がっていたところが、悪いけどちょっと可愛かった。


「ドラちゃん、つんつん」


 夢の中でも頑張っているらしく、目を瞑りながら両手で鍬を器用に動かしている。なんだか申し訳ない。

 だがその表情は凄く嬉しそうだ。本人曰く、楽しい作業だと言っていたので、本当らしい。


「つーんつん」

「む……ふえ? ふえええええええええええええええええええええ/////」


 ようやく目が覚めたドラちゃんは、毛布で素肌を隠して後ずさり。小さくても頬が赤くなっているのがわかった。


 正直めちゃくちゃ可愛い。


『ラブコメかよw』『寝込みを襲うアトリ』『これは最低な朝這あさばい


 起こしただけでコメントで怒られる。なんでだよ!?


「驚かせてすまん……」

「いえいえ! あ、家だけに家家いえいえ!」


 ドラちゃんの場を和ますギャクっぽいが、活字にしないとわかりづらいな。


「前に話していた魔物たちを連れてきた。それよりびっくりしたんだが……」

「わ、ありがとうごじゃいまちゅ! びっくり?」

「なんか……すげえ進化してねえか?」


 後ろを振り返ると、そこは俺が知っている土だらけの無造作ダンジョンではなかった。

 畑は等間隔に並んでいるのだ。

 そこには佐藤さんから頂いたグルメダンジョンの種が植えられていたらしく、既に発芽して野菜の頭が出ている。


 天井付近の小さな光のホワホワは、太陽と雨、交互に振ったり止んだりしている。


『チートすぎるだろw』『全自動ドライアドはおいくらですか?』『農家が喉から手が出るほど欲しがる』


「頑張りまちた! えっへん!」


 そんなレベルではないが、本当に頑張りすぎている。

 あと、鼻がぴょんと伸びてるのが可愛い。


「それと明らかにダンジョン内が広くなってないか?」

膨張ぼうちょうちてまちゅね。これからもぐんぐん広がるかもちれないです」

「それはどうしてだ?」

「あたちがいるからでちゅ! あたちという肥料をぐんぐん吸い取ってるからでちゅ!」


 ドラちゃん曰く、精霊の気を吸い取っているからだそうだ。よくわからないが、そういうことらしい。

 そして俺はドラちゃんを肩に乗せると、連れてきたミニモンスターたちを見せる。


「モ? モ? モ?」

「コケココ! コケココ!」

「エェー!? エェー!?」

「ゴオー、ゴオー」


 なぜか疑問形で鳴くミニウシ、ずっと怒ってる風のコニワトリ、いつもびっくりしてるミニヒツジ、最後はエアコンが壊れた時みたいな鳴き声のミニゴーレム。

 どれも個性的だが、大きさは犬や猫ぐらいでとても小さく扱いやすい。


『個性ありすぎだろw』『ミニヒツジがびっくりしてる時の顔おもろ』『小さくて飼いやすそう』『ゴーレムの声www』


 当然、通常の家畜のようにミルクや毛皮、卵が取れる。

 ただどれも希少価値が高く、剛士さん曰く、品質管理さえしっかりすれば相当高値で販売できるらしい。

 ちなみにミニゴーレムは可愛いだけで、特に意味はない。


「わ、お友達いっぱいでちゅ!」

「はは、随分と譲ってもらったから心配だったが、この広さなら大丈夫そうだな」


 ただドラちゃんでも、柵のようなしっかりとしたものは作れないらしいので、俺が牛舎や囲いを作ることになった。

 とはいえ殆ど任せているので贅沢はいえないが、これはこれで初心者には難易度が高い。


 なのでとりあえず。


 Youtobeで1から始める柵DIYの動画を見ることにした。

 スマホは配信で使ってるので、タブレットでだ。

 なのでここから数時間は、Youtobeを見る俺の背中と、その後方で譲ってもらった魔物を誘導するドラちゃんとなる。


「なるほど、こうやって柵を作るのか」


『アトリの代り映えのない時間』『カメラ意識して』『何この時間』

『ドラちゃんは頑張ってるのに』『交通誘導員みたい』『たしかにww』


「ぴぴっー! こっちでちゅー! はい、ミニウシさんこっちー!」

「モ? モ?」

「コニワトリさん! 怒らないでねー」

「コケコココケココ!」

「ミニヒツジさん、そっちじゃないよー」

「エェー!? エェー!?」

「ミニゴーレムさん、もう少し静かにして」

「ゴオー! ゴオー!」


 余談だが、勉強は動画外でしてと御崎に怒られたのだった。更に掲示板では、サボりすぎとも書かれていた。

 ただ、ドラちゃんの評価はうなぎのぼりなので良かった。


 ◇


「よし、こんなもんか……」


 動画を見終えた俺は、ホームセンターで買ってきた簡単柵を作り終えた。天井はないので崩壊しても安全だ。

 地面に藁を敷き詰めると、そこにドラちゃんが誘導してくれた。


『ここまで四時間かかりました』『気づいたら寝てたわ』『ドラちゃんが居なければ成り立っていないコンテンツ』


 餌やトイレはドラちゃんが一括管理してくれるらしい。ただ、無から有は作り出せないので、細かい補充はお願いしまちゅ! とのことだった。はい、ご主人様任せてくださいと答える。


 ミニウシたちは驚くほど素直で、柵の藁の上ですぐ寝た。


 そして俺はドラちゃんを労う為にとっておきのミルクを予め用意していたので、再び湯舟に流し込む。

 服を脱いだドラちゃんが足先を入れると、うっとりとした声を出した。


「最高でちゅ、人肌には温めてくれたんでちゅね///」

「次はミニウシのミルクで入れてあげるよ」


『ドラちゃん風呂キター!』『これを見る為に四時間待ってました』『そういえばこれBANされないの? 大丈夫?』

『最近厳しいからね』『前に凍結されてる人いたよ』『ええい、通報しなければいいってこと!』


 コメントが怖い。

 ドラちゃんは生物学的には植物らしいので気にしていなかったが、そういえば動画的に大丈夫なのだろうか。

 前回のでもコメントがたくさん来ていた気がするな。


「あっ、顔にミルクが……んっごくごく、濃厚で美味しいでちゅね!」

「ドラちゃん、このタイミングでそれはヤバイ気がする」

「ふえ?」



 そしてその日の夜、ガイドラインの違反をしているとメールが届いた。

 長文でつらつらと書いていたが、要約すると幼女を性的コンテンツとして搾取し続けたらコロスゾと。

 

 それから動画投稿を48時間禁止され、御崎には「ロリコン変態野郎」となじられ、おもちと田所には「健康診断の注射痛かった、ご主人様は本当に酷い」と言われたのだった。


 ……配信者って辛い。

 


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