70話 旅の終わりは最高の思い出と共に
最終日、今日の夜の出航で俺たちは家に帰る。
民宿をチェックアウトして、最後の観光とお世話になった人へのお土産を買う為に車に乗り込んでいた。
『ありがとね、また来てねえ』
『もちろんです。料理もお風呂も最高でした』
『うふふ、次で三度目だね』
『え、覚えててくれたんですか?』
去り際、おばあさんが言ってくれた言葉が本当に嬉しかった。
そしてりょーすけくんにお礼として炎ダンジョンで拾ってきた魔石や鉱物をあげたところ、なんと古代魔石を譲ってもいいと言われたのだ。
『おにーちゃんなんか欲しそうだし、あげるよ!』
『本当か、ありがとな、りょーすけくん』
『うんっ!』
ただ、炎がフル充填されたのはあの一度キリだった。
原因は不明だが、また改めて調べることにしよう。
「それじゃあ出発するぞー!」
「お父さん、運転よろしくね。くれぐれも安全運転で」
「はい御崎ママン」
ということで、ミリアと佐藤さんを加えた大家族旅行は更に賑やかさを増したのだった。
◇
最初に到着したのは、南の島で有名な水族館だった。
日本でも最大級の敷地面積を誇っており、魚だけでなく魔物もいるらしい。
チケットを購入して中に入ると、火照った身体が収まっていくような大きな水槽が目に飛び込んできた。
従来の魚はもちろん、一風変わった魔物魚も泳いでいた。
ただ一番笑顔になったのは、青い外観を見た瞬間のグミの姿を見た時だった。
「がうー! がうがうがう!」
「ははっ、慌てない慌てない、一休み一休み」
魔物は属性が近いと相性が良い傾向にある。
もちろんおもちや田所とも仲は良いが、何か特別なシンパシーを感じるのだろうか。
「ミニクラーケン……」
なんだか見覚えがある形のイカが泳いでいて申し訳なくなったが、観賞用に凄く人気が高いらしい。
子供たちが可愛いと叫び、大人たちも喜んでいた。
ちなみにグミも大喜びで尻尾を振っている。
「似てるわね、もしかして阿鳥が倒したのが親で、この子が子供かもしれないわね」
「考えていたことを口にしないでくれ」
御崎の不敵な笑みが、俺を責めているような気がした。
ほかに嬉しかったのは、雨流とミリアが楽しそうに会話しながら歩いていたことだ。
一応? 仲が悪かった時期があるので、見ていてほっこりする。
「旅行はいいものですね」
「姉妹はやっぱり仲良くなきゃな」
それに気付いた佐藤さんが、菩薩のように微笑んでいる。
いつもはスーツ姿なのだが、今はアロハシャツだ。
熱波師ロウリュウ佐藤を思い出したが、適応能力ハンパないよなこの人。
「笑顔なのは、阿鳥様のおかげですよ」
「おれ? 別に何もしてないが……」
静かに首を横に振る。アロハシャツが、ハラリと揺れた。
「阿鳥様がいるからこそみんなここへ来ているのですよ。求心力、それがあなたにはあります」
「求心力か……そんなものが俺にあったらいいんだが、みんながいい子なだけさ」
「ご謙遜しないでください」
それを言うと、佐藤さんはいつもご謙遜しまくりだ。
S級の中でもトップクラスの戦闘能力、仕事もできる、ノリもいい。弱点はなんだ?
「そういえば佐藤さんに聞いてみたいことがあったんだが、どうして執事をやってるんだ? 雨流家は確かに居心地も良いかもしれないが、一人でもやっていけるだろ?」
「そうですね。一言で言えば、恩義、ですかね」
「恩義?」
「はい、私は彼女らに救われたんですよ。死にかけた所を」
「え、佐藤さんが?」
「はい。私が今より少し傲慢で態度も大きかった時ですね。セナ様はもっと小さく、ミリア様も小さかったのですが、当時の私より随分とお強かったので」
「ほう、面白そうな話だ。詳しく聞きたいな」
佐藤さんが傲慢?
知りたい、見たい、聞きたい。
「小さいからあんまり覚えてないけど、探索者の中でも荒くれものだったって、古参の人は言ってるわよ」
その時、俺たちの話を聞いていたのかミリアと雨流がやってくる。
「今でも佐藤は怒るとこわいよー」
「そんなことはありませんよ、セナ様」
温和な笑顔が、いつもより少しだけ怖く見える。
色々と掘り下げようとしたが、もうすぐ魔物ショーが始まるとアナウンスが流れた。
イルカと魔物が、フラフープを通ったり、魔法を出したりするらしい。見たい、見たいすぎる。
「佐藤さん、また詳しく教えてくれよ」
「そうですね、構いませんよ」
楽しみが一つ増えたが、謎は謎のままでもそれはそれで楽しい気もするのだった。
「師匠、急ぎましょー!」
「走るなよー」
ショーは30分ほどだったが、とても見ごたえのあるものだった。
イルカはもちろん、見たこともない魔物も沢山出てきた。
途中、俺はなぜか指名されて前に上がり、ショーのお手伝いをしたのも良い思い出となった。
そして夜、船の出航時間の数時間前、海岸沿いで
バケツにはたっぷりの水、グミがいるので補充は楽だ。
『みんな集合してるw』『おお! 定番のやつー!』『旅行最終日だっけ? 楽しんでね』
視聴者さんたちはいつも優しく、コメントでほっこりする。
「キュウキュウ」
「おっ、おもちはそれを選ぶのか」
器用に羽根で掴んだ棒状のもの、おもちが手に持つ。
俺は静かに炎を灯らせると、おもちが持ってた棒が、パチパチを火花を輝かせた。
「やっぱり夏は
住良木の元気な声が、海岸で響き渡ると、みんなの手に持っていた花火が、綺麗に光りはじめる。
夏といえばやっぱり、みんなで花火だ。
「阿鳥のなんか小さくない?」
「長持ちするタイプなんじゃないか? ……あれ?」
ジリジリジリ、いや、よくみると線香花火だった。
一発目から!? てか、なんか線香花火にしては棒が長くない!? え、期待に応えてロングタイプって書いてない!?
「あはは、あーくん面白い―!」
「山城はいつも面白いですね」
「ボケじゃないんだが……」
『ロングタイプ草』『どこで売ってるんだよw』『いいなー楽しそう』
入れ替わり立ち代わりで配信の前で挨拶したり、話したり、花火を見せたり。
一番盛り上がったのは、ロケット花火を田所が身体に吸収して空に飛んだとこだった。
危険すぎるので後で怒ったが、夏でテンションがあがっていたのだろう。
「ぷいにゅう……」
「がうがう」
いつもは末っ子のグミも、これには思わず説教をしていた。お出かけ先だと立場が逆転するのは、なんだか萌えだ。
そして最後、雨流がみんなに感謝の言葉を伝えたいと言った。
「みんな……私の為にありがとう。もっちゃんがおもちだったことには驚いたけど、これからも変わらず仲良くしていきたい。――あーくん、感謝してるよ」
丁寧な物言いに驚きつつも、素直に嬉しかった。
火を完全に消し終えると、後片付けをして船に乗り込んだ。
最後の景色を目に焼き付けていると、急に寂しくなってくる。
けれども、旅行ってのはこういうものだ。
良い思い出が出来た。また必ず、みんなで戻ってこよう。
「阿鳥、ありがとうね。本当に楽しかったわ。会社を辞めて、あなたに着いて本当に来て良かった」
「……俺もだよ。御崎がいてくれてよかった」
ただ一番の思い出は、夜中に二人きりで、御崎と星空を見た時間なのは間違いないだろう。
―――――――――――
【 お礼とお知らせ 】
長い旅行、最後は駆け足でしたが、良い思い出が出来たそうです(^^)/
家が少し恋しくなるのって、定番ですよね!
ということで、南の島編、完結しました!
残された古代魔石の謎を残しつつ、またいつもの日常に戻っていきます!
まだまだ続きます、お楽しみに(^^)/
「御崎と阿鳥が仲良くなって嬉しい」
「佐藤さんの過去が気になる!」
「この話の続きがまだまだ気になる」
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