79話 勘違いから始まる恋もある?

 大会が終わって数週間が経過した。

 授与式はとんでもなく豪華で、花火とかなんか色々出てびっくりした。


 ちなみに御崎が投稿してくれた大会の動画の再生回数は、過去最高の300万再生オーバー。

 けれども収益は全てテイム魔物の今後に寄付することにした。

 これから時代は変わっていく。その手助けが出来ればいいなと思ったのだ。


 そしてようやく優勝賞品と副賞の賞金を頂いた。

 俺は、指輪の魔法具と100万円。

 雨流は、本物そっくりの魔物ぬいぐるみ複数セットと100万円。

 御崎は準優勝なので、一か月間お笑いフリーパスと50万円。


 めちゃくちゃ豪華で申し訳なくなったが、それ以上にチケットの売り上げも凄かったらしい。

 そして――。


「なあ御崎、ほら、みてくれよ!」


 俺は早速、指輪を装着した。幻の魔法具、これがあれば伊達にあの世はみてないぜになるはずだ。

 魔印と呼ばれる術式が書いていて、魔力が変換されるらしい。


「子供みたいにキラキラしてるわね」

「くぅー! たまんねえ! かっこええ!」

「キュウキュウ」

「おもちもわかるか!?」

「ぷいにゅ」

「田所もわかるよなあ!」

「がうう」

「グミもそう思うか!」


 多分みんなわかってないが問題ない。

 幼い頃からの夢が叶う。興奮冷めやらぬとはこのことだ。

 ダンジョンに行くまで待ちきれず、庭のカラス除けの藁人形に狙いを定める。

 人差し指に付けた指輪に魔力を漲らせると、ビリビリと痺れていく。


 無属性の魔力の弾を打ち込めるようになるとのことだ。

 威力は、従者によって変化するらしい。


「――魔丸まがんッ!」


 名前は今名付けた。

 だがその時、知らずうちに炎を魔力に込めていたらしい。

 指先から赤い魔力と黒い魔力が重なり合って、螺旋を描くように発射された。


 それは――放った俺から見ても、もの凄い威力だとわかった。


 輪ゴムをパチンとぶつけるぐらいの気持ちだったのだが、どうみてもヤバイ。


「ちょ、うそ――」


 藁人形に直撃すると見事に粉砕、それどころか作ってもらったばかりの綺麗な壁にぶち当たってコンクリートがボロボロと崩れていく。


「え……夢……なにこの威りょく……」

「キュウー! キュウキュウ!」


 拍手をするおもち「ぷいにゅう!」と褒めてくれる田所「がううう!」流石! とグミ。


「あーあ……あの壁って、阿鳥が拘ってたんじゃなかったっけ?」


 御崎の言葉で思い出す、どうせだったらいい石にしようと業者に発注した過去の俺を。


「僕、タイムリープしたい……」

「キュウキュウ~!」「ぷいにゅー!」「がうー!!」

 

 君たち、ここは慰めてほしいところなんだ……。


 ◇


「あっちゃー、酷いですねコレ。交通事故か何かですか?」

「そんな感じです」


 数日後、業者を手配した俺は、いい石の欠片を手に取って泣いていた。

 次は普通のコンクリートだ。


 御崎と田所は、漫才フリーパスでお出かけ、雨流は、ぬいぐるみを作る為に実家におもちとグミを連れていって寸法している。

 なので、めずらしく一人きりだ。


 早朝ということもあって、ドラちゃんはまだ寝ている。

 起こすのも可哀想だなと思い縁側で工事を眺めていると、玄関のチャイムが鳴った。


 玄関の扉を開けると、そこにいたのは制服姿の住良木だった。

 今日、平日だよな……?


「おはようございます!」

「おはよう、てか、学校はどうした?」

「サボっちゃいました!」

「元気に言う事か?」


 何か理由があるのだろうか。だが俺も高校時代、面倒だなという理由で行かないこともあった。

 そういう日もあるだろう。


「残念だが誰もいないぞ」

「知ってます! むしろ、それをわかっててきてます!」

「……はい?」

「師匠、デートしましょう!」

「おやすみなさい」


 扉を閉めようとすると、住良木が急いで掴む。

 おじさんがJKとデート、これはもう事案だ。


 ただでさえ俺は大会で名が売れてしまった。いや、配信者としては良いことなのだが、即ニュースは避けたい。


 それに俺には……御……さ……。


「じゃあ、ちょっとだけお出かけしませんか? 学校、行きたくないんです」

「お出かけって……」


 その時、住良木の瞳に薄っすらと――涙が浮かんでいた。

 心臓が、ドクンと脈を打つ。


 これは……住良木の声だ。

 気づいてやれなかった自分が、歯がゆい。


 俺は……バカだな。


「……ちょっとだけな。服を着替えてくる。待っててくれ」

「え、いいんすか?」

「やる事もないしな」


 パパっと着替えて外に出ると、住良木は子犬のように尻尾を振って近づいてくる。

 そういえばなぜ俺に懐いてくれているのだろう。


 配信を見ていたとは後から聞いたが、それでそこまでこうなるか?

 

「じゃあ、行きましょー!」

「なんか……さっきと違って笑顔だな」

「え? さっき?」

「いやその……泣いてただろ」

「ああ、目にゴミが入ったんすよね。埃かな?」

「やっぱり寝ます」

「ダメダメっす! 行きましょー!」


 こうして俺は、JKとお出かけでぇと? をすることになったのだった。


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