第45話 TS女騎士、困る

「金貨だ!」


 袋いっぱいに詰まった黄金の光を見てエレウノーラは歓喜の声を上げた。

 金貨300枚もの大金を手に頭にあるのは街道整備と穀物庫の増設、乾燥小屋の設立など金がなくて諦めていた事業の数々であった。


「ワインとか新しく剣を買うとか考えないのか?」


「俺だけが使ったり楽しんだりしたら消費だけで終わる、だが生産施設を作れば消費と供給が生まれるんだ。資本主義的にはこちらが正しい」


「シホンシュギって何?」


「金と金を生み出す奴が偉いって事だ」


 エレウノーラはグスターヴォとテオドージオの質問に答えると先程から袖をクイクイと引っ張る感触を腕を振って振り切ると、リンゴを握力のみで2つに割ると片方を口に運びもう1つを掌の上に乗せた。


「50年分の税収が入ったようなもんだ、領民達にも暫くは減税で楽にしてやれる」


「基本的に領民にはギリギリの税を課すべきでは?」


「馬鹿め、と言ってやる。余力無くして経済の活発化は無い、財政に余裕が有るときは好きに酒も肉も買わせてやるべきなんだよ」


 もっともそれほど基礎経済力がないカミタフィーラ領は去年よりも少し増えた金で冬用の薪を買ったり、温かい服を2着新調するなど冬支度に使っていた。


「蜂蜜酒の仕込みも終わったし、来年はもっと金が入るようになる。それを今度は船の増産や網の新調に使って漁獲高を上げる」


 モシャモシャと掌のリンゴが無くなる感触を感じながら話すとイターリアの目線が後ろに向いた。


「それでその馬はどうされます?」


「売りに行こうとしたら馬屋から断られた」


「そりゃあんだけ話題になった奴が売りに来たら、下賜品だとバレるだろうが」


 エレウノーラは取り扱いに困っていた原因であるトーナメントの副賞である軍馬を見た、芦毛の馬でふさっとした冬毛が可愛らしい。

 だが、大きさがアシリチ王国で採用されている馬よりも大きかったのだ。

 アシリチ王国にて軍馬の条件が体高140センチ以上となっている所、この馬は170センチもある巨大馬である。

 その芦毛はリンゴを食べきり、エレウノーラの掌についた汁をペロペロと舐めている様からはとても軍馬とは思えなかった。


「それで、名前とかは決めているのか?」


「そのまま馬で良くない?」


「えぇ……」


 グスターヴォが尋ね、それに返答したエレウノーラに呆れ果てるイターリアが馬の鼻先を撫でると気持ちよさげに嘶いた。


「流石に馬!って呼んでいるのを他人が見たら驚きますよ」


「つってもなぁ、飼う余裕なんかねえってのに」


 エレウノーラの手についた汁を舐め終わった馬は今度は撫でろと言わんばかりに頭を擦り付けており、エレウノーラも要求に応え撫で始めた。


「そうだな、なら学園で飼うのはどうだ?」


「それなら飼育費は学園持ちになりますし、乗馬の授業でも実際の軍馬を使えるので学園も受け入れやすそうですね」


「王家からの下賜品なら箔もつくか……」


 撫でながら馬を見つめたエレウノーラはそれが良かろうと感じ始めていた、自分が手元に置いていても食費に困るだけだろうしもし戦ともなれば騎乗し戦場に出ることになる。

 エレウノーラは基本的に、自分の命はどう使おうが勝手と思っているが他者や動物の命にまで責任を持ちたくは無かった。


「なら名前だけつけてやるか、お前の名はリンカーだ」


「どういう意味だ?」


 エレウノーラの置かれた状況、即ち輪廻転生リインカーネーションからとったのだがそれを説明すると面倒だと質問したグスターヴォへと適当に返事をしようと決めた。


「お前も1回死んでみれば分かるさ」


「何だよそれ、まあ良いけどさ。それより、俺にも乗らせてくれよ。こんなにデカい馬は初めてなんだ、乗り心地が知りたい」


「人は偉くなると物理的にも心理的にも騎乗する、ってのは誰の言葉だったか。好きにしろ」


 やった、と言いながらグスターヴォはリンカーの鞍に手を掛けひらりと鐙を利用して乗り込んだ。


「高い!」


「そりゃ普通の軍馬よりデカいからな」


 パカパカと蹄鉄の音を響かせながら歩き出させたリンカーとグスターヴォは楽しげな声を出す。


「概ね問題解決かね」


「解決したような微妙にしてないような……」


「失礼、カミタフィーラ卿はいるかしら?」


 従者を伴ってやって来たのはヴィットーリアであり、少しばかり疲労した顔色をしている。


「ヴィットーリア様、大丈夫ですか?顔色が悪いように見えますが……」


 イターリアのその問いに薄く笑みを浮かべるとヴィットーリアは答える。


「王家の方々と話しておりまして、少しばかりと疲れが。それよりも、カミタフィーラ卿。優勝おめでとうございますわ」


「有り難う御座います、御令嬢」


 頭を下げたエレウノーラにヴィットーリアは話があると言ってその内容を告げる。


「今回のトーナメントを見ていた御父様が卿に興味を持たれまして、年越しのパーティに参加していただけないかしら?」


「私が?大公家の?」


「曰く、近衛や外国の騎士を退ける学生に興味があると」


 その言葉に更にエレウノーラは困惑し、少し時間が欲しいと返しその晩考え抜いた結果翌日に受けると答えるのであった。

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