第51話 TS女騎士、理解はしてないが約束は果たす
「君とは婚約破棄を行いたい」
その時が来たとヴィットーリアは生唾を飲み込んだ、それを何と勘違いしたかファビアーノ王太子は笑った。
「さしもの才媛も驚いたか」
「はい、殿下。ただ王国の先を案じております」
あまり気に食わない回答だったか、少し眉を顰めたが関係ない、ただこちらの非が無いことは主張する。
「国内の統制を図るための婚姻を反故にするという意味が分かっておいでで?」
「聖女との婚姻で挽回できる、死者を蘇らすその力と民へ人気の出そうな顔だ、君より愚かな所も扱いやすい」
今度はヴィットーリアが眉を顰める番だった、やはり根底にある女嫌いが後押しをしている。
「こちらとして受け入れ難い話です、当家より正式に王家へと声明を出させて頂くことになります」
言外に、王にチクられたら困るだろと釘を刺すが鼻を鳴らしてファビアーノは答えた。
「陛下は体調が悪化しつつある、殿医はこの冬を乗り切れるかどうか危ういと」
(大公令嬢にそんな事をペラペラ喋るな!本気で謀反起こすぞ!)
ギリ、と噛み締めた歯が欠けそうなくらいに力を込めた己自身にヴィットーリアは驚いた。
自分は本気で王位簒奪が出来るのか?兵力は大公家が下だ、王軍3000の兵だが大公家はその三分の一、しかし将兵の質は勝るはず。
「陛下の御聖断を得られないので有れば、決闘裁判となりますが」
「誰を立てる気だ?」
法制度が余り進んでいない国家では決闘の勝敗をもって判決とする流れがあった。
ここでは王家とカスーナト家、どちらが婚約破棄の責任を取るのかが争点となる。
となれば、強い人間が出る事になる。
本人、代理人、介添人の三名までが参加する事を許されているので本人が強ければ問題ないのだが死ぬ可能性も有るので代理人任せが多く、兼業で決闘代理人を務めている者もそこそこ存在する。
「友人に代理人を、介添人は兄に務めて貰います」
「そうか、こちらも代理人を用立てる。介添人は無しだ」
介添人は、本人が死亡した場合に裁判継続のために後詰めとなる人物である。
即ち、王太子は自分の番が来ない程に腕のたつ人物を代理人に選ぶ積りだ。
その日の晩、ヴィットーリアは女子寮の一室であるエレウノーラの部屋を訪れた。
「以前に約束していたのを覚えてられるかしら?」
「御令嬢が助けを求める時に一度応じる、でしたか」
「その助けが必要な日が来ました。王太子殿下が婚約を破棄して聖女と新たに婚姻を結ぶと」
「はぁ」
気の抜けた応答にヴィットーリアは押し込まねばと決意を新たに言い募った。
「王国と教会の関係が深まるのは確かに良いことですが、それで国内が荒れては本末転倒。先の戦乱から国内の統制もあまり取れていない現状、王家と大公家が一丸となる今回の婚姻は両家だけでなく国家安寧の策でした」
「でしょうね、少なくとも辺境では領地横領が起こっても相手方を殺し尽くせればお咎め無しだったので」
父の死後に襲ってきた騎士の記憶が蘇り少し遠い目をするエレウノーラはヴィットーリアの提案に頷く。
「約束を違える気は毛頭有りません、このエレウノーラ・ディ・カミタフィーラ。大公令嬢の代理人として剣を取りましょう」
その言葉にヴィットーリアは緊張の糸が途切れたかのように手の震えが始まったのを感じた、ここで流石に王家と事を構えれないと断られる想定もあった。
「有り難う、カミタフィーラ卿」
「色々と物を貰ってますので、ここらで返礼品を出さねばなりませんでしょう。私が差し出せるのは武力位のものなので」
エレウノーラはそう言うと苦笑いを浮かべて準備を整える為に必要な物を頭に浮かべていく。
(武器も防具も貸出しで勝負になるだろうな、となると結局身一つか)
この依頼を受けた暫くしての学園内でのパーティでの事だ、王太子が大公令嬢との婚約破棄を参加した生徒らへ周知させた。
(馬鹿なのかねえ)
そんな様子を入り口近くのテーブルでエレウノーラは眺めていた、既にヴィットーリアから聞いていたので驚きは無く出された料理を食べるのを優先させていた。
普段の食生活で食べられない白パンを中心に野菜と肉を皿に盛り付けていたのだが、みるみるうちに減っていく。
「あ、ちょ……カミタフィーラ卿!何でこんな後ろで食べているんですの!?」
「御令嬢」
「貴女の背が高くて目立たなかったら私恥をかくところでって、それは良いから一緒に来て!」
群衆をかき分けてヴィットーリアがエレウノーラの手を掴むと再び中央のゲームの渦中へと躍り出た。
「私の代理人は彼女、カミタフィーラ卿が務めます!」
「あー、ども。代理人やります」
やる気なさげにペコリと頭を下げるエレウノーラを見たファビアーノの顔が一気に曇った。
「……こちらは近衛騎士団長オルランドが出る」
ザワザワとざわめきが広まる中、ヴィットーリアとファビアーノだけが静かに互いを見ていた。
「そこまでして勝ちたいの?」
「それは君もだろう」
片や近衛騎士団長、片やその団長に勝ったトーナメント優勝者。
互いに切れる最強のカードを切りあった形となり、本気で嫌い合っている証拠でもあった。
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