第8話 TS女騎士、学園都市で準備する

「接舷準備ー!」


 春を前にした頃合いで、エレウノーラはメイドのロベルタと共にスーノ人達が操るロングシップに乗り込み王都の港へと降り立っていた。

 周囲は珍しい船と、そこから降りてきた長身の若い女を見てどよめいている。


「お前達、帰りに遊んだりするなよ?」


「へい、お頭。心配なさんねえでくだせえ、お頭の面子を潰すような真似はしやせん」


「頭って言うな、賊に見えるだろうが」


 齢16にして蛮族と言われる連中をまとめ上げている時点で、賊の頭のようなものとは命が惜しいなら言ってはいけない。

 ノシノシと大股で歩くエレウノーラの後ろをキョロキョロと御上りさん丸出しでロベルタが付いていく。

 まず、彼女たちが向かったのはリオマアンドジルーイ書店と看板が掲げられた店だった。


「いらっしゃいませ、お客様はポリナ学園の新入生ですかな?」


「ああ、リストにある教科書をくれ」


 エレウノーラはそう言うと羊皮紙に書かれた本のリストを赤い帽子を被った店主のリオマへと渡した。


「おお、今年度の生徒さんは目立つ方が多いですな。おおい!ジルーイ!新入生用の本を持ってきてくれ!」


「分かったよ兄さん!」


 緑の帽子を被った店主の弟、ジルーイが他の生徒達が買ったのと同じ本を見繕っていく。


(それにしても、教科書とはね。中世っぽいのになんだか現代的だな)


 普通は本は高い物だ、それなのに教科書は変に値段が安い。活版印刷でもあるのだろうが、生憎辺境の騎士爵家には印刷機などという機械は有った所で無駄なので一生見る事等無いだろう。


「今年度は王太子殿下とその御友人方も御入学なされるそうで、早めに寮に入られる生徒さんが多いんですよ」


「へえ、そうなのかい。まぁ、俺には関係無い話だね」


「お、俺?ああ、いえその、関係無いとは?」


「貧乏騎士の当主が討ち死にしたから代理で付いた娘だからさ、弟が成人するまでの繋ぎにすぎん」


「ははあ、左様で……」


 あえて貧乏騎士と言ったのが効いたのかリオマはそれ以上何も話す事もなく、弟の手伝いに立ち去った。

 金の無い相手には早々構ってられないのである。

 代金を支払い、次に向かったのはプカア男爵に薦められたマダム・カルメンの服装店であった。

 ここでも、入店の際に驚かれたがそれでもプロの対応でにっこりと微笑まれる。


「いらっしゃいませ、お客様。本日は何をお探しでしょうか?」


「ああ、マダム。ポリナ学園の女子制服とやらを欲しいんだが」


「まぁ、新入生さんね!けれど、その身長だと……ねえ」


「はは、分かっちゃいるさ。どうにもタッパがデカくなっちまってねえ、一番デカい服で行けるか?」


「うーん……、ちょっと手直しする必要があるわね」


 その言葉にエレウノーラはため息を1つ吐いた。

 無駄に金が掛かるこの生活が本当に必要な物だとはどうしても思えなかったのである。


「オーケイ、仕方ない。無いと暮らせないんだからな」


「それじゃあ、寸法を測るから奥へどうぞ。夏と冬服で替えを含めると全部で6着になるかしら」


「うへえ……、女の服の買い物は長げえから嫌いなんだよ」


 ブツブツと言いながらエレウノーラはマダム・カルメンに連れられて奥の部屋に向かう前に、ロベルタに向き直った。


「ロベルタ、お前も好きな服何着か見つけておけ。休みの日に王都見物するのに村のワンピースじゃ気後れするだろ」


「い、良いんですか?」


「俺だけ買って、お前だけお預けは可哀そうだろうが」


「え、えへへ……お嬢様のそういうところ大好きです」


「馬鹿言ってんじゃねえよ、さっさと選んで来い」


 店員たちが群がり、スケールを体中に当てられて寸法を測り靴のサイズも確認されて、サイズの合ったローファーを持ってこられた時にはついにエレウノーラは変な笑いが出てしまった。

 村の連中は木靴でいてえいてえと言ってるのに、このローファーはアーチがあって柔らかな毛皮のインソールが敷かれており膠できっちりと固定されているのである。


(なんか、学校周りだけ技術レベルおかしくね?何、俺より昔に転生者居たの?それにしては発展具合が王城じゃなくて学園って何なんだよ)


 たっぷりと時間をかけられただけあって出費も痛かったが、最終的に身長と髪型に目を瞑ればポリナ聖光学園の女子生徒となっていた。


(なんでセパレートタイプなんだよ、この時代相当の地球には存在しなかった服装のスタイルだろうが)


「ったく、分かんねえこと考えても仕方ねえか。ロベルター!お前は終わったかー!」


「お嬢様!は、はい!選びました!」


「……お前、金払うの俺だぞ」


 ロベルタは1着だけ手に取っており、それがエレウノーラを苛立たせた。


「こういう時は好きなだけ持ってこいや!俺が吝嗇ケチだと思われんだろうが!」


「ひいい!ごめんなさい!選んできます!」


 ぴゅーんと音が聞えそうなくらいに走って服をもう一度、見繕いに行ったロベルタの背中を眺めてまたエレウノーラはため息が出てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る