第9話 TS女騎士、学園寮で悪役令嬢達と会う
「こんなに買って貰って申し訳ないです……」
「良いんだよ、俺の見栄と面子の問題だからロベルタは気にしなくてさ」
マダム・カルメンの店で王都用の服を買い漁った主従はポリナ聖光学園の女子寮の前へと辿り着いた。
ここも近代的な建築様式で何故こんなに学園周りが優遇されているのかが不思議で仕方なかったのだが、正面入り口近くに黒塗りの高級馬車が数台止まっているのを見つけると足が止まってしまった。
「馬車使えるほどの貴族が来ているのか、面倒に巻き込まれるかもしれんな。壁よじ登ってから入るか」
「え?良いんですか、それ?」
「いや、知らん」
えぇ……と困惑した声を上げながらもロベルタはエレウノーラの後ろを歩いて行く。
壁に辿り着くとエレウノーラは背中を壁に付けてぐっと腰を落とし両手を合わせて器を作った。
「ロベルタ、走って俺の手に足乗せろ。勢い付けて上にあげるからちゃんと捕まれよ」
「お嬢様何言ってるんですか!?」
「こう……、ほら、ぽーんと持ち上がって壁の上の部分に乗るだろ?そんで手を伸ばして俺がそれを握ってだな、お前さんを軸に俺も上に登る訳よ」
「私がお嬢様支えれる訳ないじゃないですか!?体格差考えて下さいよ!」
ロベルタは160cmほどで、エレウノーラとは30cm差があるのに加えて力仕事と言えば井戸の水を汲んだり薪を背負ったり程度の村人生活を送っていた少女と、領内を逃げ回る山賊を追いかけては仕留めていた
「煩いですわね、何をそんなに揉めているのかしら?」
そんな煩い2人に声をかけてきたのは、ドレスに身を包み長い金髪をアップにした美しい少女であった。
その少女の周囲には取り巻くようにして4人の少女が付き従っていた。
合計5人の視線を浴びながらエレウノーラは髪を掻きむしり、所在なさげな声を出した。
「いやー、すみません。正門をなんとも高貴なお方が使うであろう馬車が止まっていたもので……、なんとか正門以外から入れないかと試行錯誤しておりました」
「何をしているんですの、貴女……。学園の制服を着ているという事は生徒ですわね?何年生?」
「はっ、今年入学予定です」
「その身長で16歳!?」
長い金髪の少女が驚いて聞き返したのに対して、頷いて肯定するエレウノーラに取り巻きの赤い髪をポニーテールにした少女が咎めた。
「貴女、ヴィットーリア様にそんな態度を取って良いと思っているの?カスーナト大公家の御令嬢なのよ!」
(うーわ、大公家かよ。もろ王家の血筋じゃねえか、今からでも頭下げとくか)
「失礼致しました、私はカミタフィーラ騎士爵代理のエレウノーラ・ディ・カミタフィーラと申します。ポリナ聖光学園騎士科へとこの度入学する運びとなりました。
卑小の身ではありますが、お見知り置きを」
その言葉に令嬢方が少し怯んだ。
基本的に法律の上では、【貴族の令嬢】と【爵位継承した貴族】では後者の方が上である。あくまで爵位継承者の娘・妹などに過ぎない女性への配慮としてその爵位に基づいた敬意を払われているだけなのだ、慣例的なものとして。
となると、法律的には代理とは言え騎士爵を継承しているエレウノーラの方が立場は上なのだが慣例に従い敬意を表しているため、問題にはならない。
「失礼しましたわ、カミタフィーラ騎士爵代理。彼女たちはてっきり令嬢だと思ったの、許して下さる?」
「いえ、カスーナト大公令嬢。私は何も気にしておりませぬ」
ヴィットーリアが鷹揚に謝罪し、エレウノーラが畏まってそれを受け入れる。
下級貴族に対する上級貴族の謝罪に則り、それで全てが終わりである。
「お騒がせして申し訳ありません、皆様。宜しければ、荷物が有りますので従者共にお暇しても構いませんでしょうか」
「ええ、また入学式で」
そう言って別れ、きちんと正門から寮へと入る。ふと、後ろを見ると真っ青な顔でロベルタが震えていた。
「大丈夫かよ、ロベルタ」
「お、お、お嬢様!!大公様って国王陛下の
「向こうが謝って、こっちも受け入れたからそれで御終い。そもそももう、向こうはこっちの名前を覚えてもいないだろうさ。たかが騎士爵家がこのアシリチ王国にいくらあると思っているんだ?」
「そ、そうですよね……」
ぽんっと、ロベルタの肩を叩くとエレウノーラは部屋のプレートを探し、自室を見つけるとその中へと入っていく。
中はそこそこ広めで、ベッドは2つ。
「俺は右側の使うわ、とりあえず買った服をクローゼットに入れてメシ食いに行くか」
「はい、お嬢様」
きっと彼女の魂が前世に少しでも乙女ゲームをしていれば、カスーナト大公家令嬢ヴィットーリアと聞けば目を見張ったのだろう。
メインシナリオである王太子ルートの悪役令嬢だ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます