第27話 TS女騎士、大暴れする

「これより、大演習祭を執り行う!」


 剥げ頭をキラリと太陽光に照らされながら、ポリナ聖光学園の学園長が宣言を行う中でエレウノーラの気分は地の底の如く絶不調であった。


(あーんな高慢ちきな王子様の指揮で戦うたぁねえ)


 プログラム通りならば学年対抗の軍勢演習は昼からである、午前中は女子の知恵比べや男女混合のチェス勝負、あるいは美しく讃美歌を歌えるかの喉比べが行われる。

 午後にはエレウノーラが出仕する軍勢演習の他、決闘とジョストの見るからに派手なメインイベント盛り沢山な進行となる。


「カミタフィーラ、軍勢演習の事で相談が有るんだが」


「どうしたグスターヴォ」


 エレウノーラに声をかけてきたグスターヴォが、持って来た地図を机の上に広げながら駒を置いていく。

 どうやら、事前のブリーフィングのようである。


「まず、俺達1年と相手の2年の布陣が相対しているところからスタートになる。ここで勝った方が3年と戦うんだ」


「3年有利だな、優先枠シード権に加えてどっちが勝とうが情報を得ることが出来る。兵の割り当てはどうなっている?」


「人数は50人で基本的に歩兵と弓兵のみ、騎兵は危ないから禁止。弓も訓練用のやじり無しの棒矢で当たった者はヒットと叫んで演習場から抜ける」


 コトコトと駒をそれぞれの陣に5つ置き、白と黒の駒が対峙しているのを上から覗き見てふーんとエレウノーラは頷いた。


「お前ならどうする」


「基本的な案として2つある、50の兵の比率を歩兵偏重か弓兵偏重かにするかだ。それぞれのメリットとデメリットがあるので一概にこうしろとは言い切れない」


 エレウノーラは自分の側にあった黒の駒を手に取り、前に3つ後ろに2つ駒を動かした。


「これが歩兵偏重、メリットとして防御力が有るので押し込まれてもまぁ時間稼ぎも出来るし押し返せばそのまま本陣へも突っ込める」


「デメリットは?」


「射撃戦が数が少ないから射掛け負ける、盾の守りをすり抜けて当たったら実戦では死んで無い場所でも抜けなきゃならんから兵数も減る」


 次は逆に前2つ後ろ3つへと駒を動かした。


「弓兵偏重は先ほどのと逆、射撃戦で勝てるだろうが歩兵が突撃してきた場合守りが突破されてそのまま蹂躙される」


「一長一短だな、どうするか」


「基本方針ではあるな、想定が真正面から正々堂々とやってるからな。少数の兵で側面を衝いてかく乱、一斉射のあとで歩兵を前に押し出す」


 新しく駒を1つ取りだしたエレウノーラは、その黒駒を白軍の中心へと進ませて前線の歩兵を表す駒が取り乱したようにバラバラに配置しなおすと、黒駒歩兵を整然とした様子で動かし白駒歩兵の後背を衝かせると白駒を倒していく。


「後は王様とっ捕まえればそれでゲームセット」











「って言いはしたけどお前がやれと言われるとは思わないじゃん?」


「言い出したのエレウノーラさんなんだから責任取って貰わないと」


 エレウノーラは自身を含めた5人で、藪の中に潜み愚痴を零していた。あの後、総大将となるファビアーノ王子へと報告をするとそのかく乱役にエレウノーラが着くようにと命じられたのだ。


「それで、突撃のタイミングは?」


「矢合戦で打ち終えた瞬間、まずは弓兵に突っ込んで遠距離脅威を潰す。殿下は兵を半々に分けたから少しでも弓兵潰してその分こっちの歩兵の負担を減らす」


 すっと細めた目で見つめる先には弓の準備をしている上級生らの姿があったが、この軍勢演習が始まる前から潜伏しているエレウノーラ達には気付いた様子はない。

 氣勢の声を張り上げると両陣営から訓練用の矢が撃ち出されたその時、予め強化していた脚力をもってエレウノーラ隊が不意をついた。


「て、敵しゅ」


 最後まで言い切ること無く男子生徒の1人を跳ね飛ばすと弓をつがえたままの弓兵生徒らに木剣をバシバシと当てていきながら前進をひたすらに続ける。

 倒し残しが居たとしても今はどうでもいい、前進しながら中央陣へと斬り込みつつ大将を探す。


「伏兵!?いつ配備したんだ1年!」


「試合始まる前からだよ!」


 混乱状態になった2年軍にさらなる駄目押しが伸し掛る、つまりは正面歩兵隊の横列突撃とその支援射撃である。

 突然の後方撹乱に驚き、状況確認しようと振り向いたりしていた2年生が討死判定を喰らい退場していく中でエレウノーラ隊も被害が出ており2名の男子生徒が退場と相成った。


「被害だけで言えば引き時なんだが!」


「周り敵だらけで撤退なんか無理だ!」


 勇猛果敢に奮戦を続けたものの、周囲を囲まれつつある状況であり動きを止めたらやられるのが明らかだ。


「見えた!総大将!」


 中心部に護衛を3名ほど配置し、指揮を執っている学生がおりエレウノーラは拾った矢を素手で投げ放った。

 残念なことに当たることは当たることは無かったのだが体勢を崩して転けてしまい、護衛が起こそうとしているのだが、そこが獲物として狙い目であった。


「貰った!」


 護衛を先に斬り付けた後、指揮官役の上級生の腹目掛けて木剣を打ち下ろすと、審判の教師が1年軍の勝利を告げた。



「グスターヴォ・ディ・レトント伯子、この度は卿の作戦立案により勝利する事が出来た。斯様な軍才、これからも期待する」


「はっ、有難き御言葉」


 グスターヴォは次の言葉を待った、色々と諍いは有ったものの雪解けの訪れた女友達

 であるエレウノーラにもお褒めの御言葉があると思ったからだ。

 だが、次の王太子殿下の言葉は彼が思っていたような言葉ではなかった。


の活躍無くして勝利非ず、他の者たちも奮戦により勝つことができた。感謝する」


 一纏めはまだしも、奇襲隊とエレウノーラの名を出すことすら無かった。

 本来の歴史では忠実に王家に忠誠を捧げていたはずのグスターヴォ青年が少しばかり歪みが生まれた瞬間であった。

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