第17話 TS女騎士、2度目の男女の縺れを聞く
「婚約者はテオドージオ・ディ・カッル子爵令息と言う方です、わがヴィディルヴァ男爵家とは少しばかり因縁のある家なのです」
「因縁と言うと?」
エレウノーラの問いにイターリアは俯きながら答えた。
「ヴィディルヴァ男爵家は騎士として王家に代々仕えて参りました、そしてカッル子爵家は宮廷魔術師として王の相談役を」
「ああ、もう軋轢が起きるのが目に見えた」
焚火が弱らぬように小枝を幾つか投げ入れると目を伏せる、要するに体育会系と理系の争いだ。
ヴィディルヴァ家は体張って仕えているのに、横でボソボソ言ってる奴が重用されるのが気に食わない、そしてカッル家は声が大きくて戦働きしか出来ない猿がと下に見ている……、そんな所だろう。
「それで、そのテオドージオって奴とどう反りが合わないんだ?」
「彼は次男でヴィディルヴァ家は私しか子が居ないので、入り婿になると決まったのですが……それが気に食わないのでしょうか、私に暴言を言うのです」
「暴言、例えば」
「【こんな簡単な事も知らないのか、これだから女は】とか、【女なのに背が高くて生意気だ、入るドレスがあるのか?】と……」
「1つ聞くが、その婚約者は背が低いか?」
「私よりも低いです」
昼間の行軍で見た彼女はエレウノーラよりも頭1つ分は低かった、と言う事は身長は175cm辺りだろうか?女性なら確かに高身長な方だ。
悪口には人の本音が出てくるという、なら彼の本音……と言うよりコンプレックスが如実に表れているワードは後者の【女なのに背が高い】では無いかとエレウノーラは考えた。
「なるほど、婚約者は自分のチビさが嫌らしいな。それで卿に八つ当たりをしている……、そんな所だろう」
「いや、まさかそんな事が」
「身長170cm以下は人権も無いからな」
「えっと、カミタフィーラ卿?ジンケンとは一体……」
さて、どう説明したものかとエレウノーラは頭を悩ませることとなった、何せ地球世界では凡そ4~500年は先の時代に生まれた概念だ。
今の時代では、人扱いされるのは貴族の男だけと言っても過言ではない。
流石に王族の女なら扱いは上だが、結局のところ政治の道具としてしか認識されていないのでそう大した違いではないだろう。
やがて市民革命を経て、平民の男に人権が最後にフェミニズム運動に寄り女性へと参政権が生まれ完全な男女平等、人の上に人を作らずと言った思想が人々の間に広まるのは更に200年は掛った。
イターリアに理解できるかは分からない、だが知りたいと思ったその気持ちには答えたかった。
「人の権利と書いて人権、人は誰しも生まれ落ちたその瞬間から人として人らしく生きる権利を有する。そして、国家はそれを認証し守らねばならない」
「人らしく生きるとは?」
「人だけが言葉を喋り、意思疎通を行う。であるならば、だ。人は言葉を用いて相手を知り、尊重し合わねばならない。相手の肌の色、瞳の色、話す言葉、生まれた国に男と女、全てを受け入れ同胞として抱き合う。それが【人らしい生き方】だ」
もっとも、今から1000年立とうが誰もそんな事は出来ていないんだがね。
そんな言葉は飲み込んだ、この純朴そうな少女に辛い現実を教えるのは気が咎めたからだ。
「カミタフィーラ卿――――」
潤んだ瞳からポロリと涙が零れ落ち、イターリア嬢は手で顔を覆った。
すんすんと啜り泣きが闇夜にやけに響いた。
「泣くような話などしたつもりは無いんだが……」
「いえ、いえ。そのような考えを初めて聞いて蒙を啓かれる思いでした。人が、人らしく生きる。当たり前の事ですよね」
「まあ、そうなんだが」
それが出来ないのが人類だ、その業は形を変えてあらゆる時代に差別として現れている。
「それでこのような事を言うのは
少し俯き、決意したようにイターリアはエレウノーラの目を見つめると言った。
「私に勉学を教えて頂けませんか?」
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