第18話 TS女騎士、出来る事と出来ない事を分ける

「勉学に関して教えれる事と教えれない事がある」


 野外露営訓練が終わり1週間が経ち、イターリアの勉学を見るという約束を果たしているさなかにエレウノーラは言った。

 四則演算、アシリチ王国の歴史、剣技や格闘技は基礎と体幹の鍛え方を教え始めると乾いた砂に水が染み入るようにイターリアは吸収していく。

 が、エレウノーラが教えられない分野も又存在する。その代表が3つ有り、宗教・魔法・宮廷礼節である。

 宗教に関してはマチキ村とドマロ村に教会は漁村のドマロ村にしかない、船で来れるのがまだマシだからという理由だ。そこに居る司祭はヨボヨボのお爺ちゃんと修道士・修道女2人と下男下女が2人、説法もフガフガとこもりがちで聞き辛く正直、転生する際に神と名乗る存在と出会ったりもしなかった為エレウノーラは前世同様に神と言う存在を心から信じては居なかった。

 日本人的感性で【まあ、お天道様に恥じない様に】程度の認識である、総本山のマーロ大聖堂に知られれば異端認定待ったなしである。

 そんな訳で、末端とは言え貴族階級であるにも関わらず正直教義はうろ覚えで食前の御祈りの言葉は知っている程度。

 次に魔法だが、エレウノーラは身体強化系の魔法が得意……というよりそれしか知らない。更に言うのであれば、その身体強化も系統だった物ではなくただ単に無理矢理体中の魔力をフルに回して筋肉の強化に回しているだけで専門家の魔術師から見れば非効率極まりないと評価する事だろう、最も実践で使えるのであれば本人は気にしないだろうが。

 宮廷礼節……、そもそも成り上がりの傭兵騎士の娘に何を期待する?田舎訛りの男言葉使いも古式ゆかしい貴婦人からすれば卒倒物である。


「そこらを知っている相手ってなるとなあ……」


「あのう、御嬢様。何故私も勉強しているのでしょうか?」


「馬鹿、ロベルタ。学は積んでおいて損は無いぞ」


 ついでとばかりに文字から足し引き算を教わっていたロベルタが疑問の声を上げるが、エレウノーラがばっさりと切り捨てた。


「文字が読めて、計算が出来れば商家の嫁だって芽があるぞ。身に着けておいて損はない」


「農民の娘が商家に嫁ぐなんて無理ですよ御嬢様」


 ロベルタはそう言うと机にぺたりと額を付けた、そんな後頭部にエレウノーラは軽くチョップを当てる。


「そうやって諦めてっと最初からチャンスは来ねーよ」


「それで、その3つはどうすれば……」


 イターリアのおずおずとした質問にどうすれば良いのかの答えは1つしか思いつかなかった。








「それでわたくしの所へ来られたのですか?」


「申し訳ない、ヴィットーリア嬢。私だけでは出来る事は全力で教えれるが無理な範囲があるのでな」


 カスーナト大公令嬢ヴィットーリアの元へと講義の依頼を出すというのが解決策であった、教養は勿論の事学力も有るだろうと推察しての事だ。

 そもそも学のある層とは、上層階級ハイソサエティたる貴族と僧侶プリーストに限られており、その中で伝手があるのはヴィットーリア嬢とクラリッサ嬢なのだが正直クラリッサ嬢には度々婚約者に決闘中過剰にボコった事で恨まれている自覚があるのでお願いしにくく、大公令嬢の立場でありながら柔和に接してくるヴィットーリア嬢の方が声をかけやすかった。


「ですが、わたくしに対価が無いと」


「なるほど、道理だ。だが、支払える物で頼む」


 その言葉に、ヴィットーリアは顎に指をあてて少し悩むようなポーズを取った。

 田舎の騎士からとれる物など殆どない、金も無いだろうし忠誠を誓わせるにはあまりにも軽いお願い。

 となると、こちらも軽いお願いにしておくべきか。


「では……、わたくしが困った時に1度だけ味方になって頂けるかしら?」


「貴女がそれを願うというのであれば、承知した」


 1年後のヴィットーリアはこの時に、ただ1度だけとはいえ味方になるというこの約束をしておいて良かったと強く思った。


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