第16話 TS女騎士、他の女騎士と会う
「カミタフィーラ卿、今度の共同野営訓練なのですが我々と一緒に行動して頂けませんか?」
「私が、卿らと?」
グスターヴォとの
近々予定されている共同野営訓練、騎士養成課の学生が都市外部でもきっちりと休息が取れるように体を慣れさせる為の授業の一環で、田舎出の騎士爵の子なら兎も角大貴族の三男四男となるとそういう経験も無いのでやる必要が出てくる。
それは勿論、騎士を目指す女子生徒も例外ではない。
エレウノーラは何度も経験済みであるが、学生と言う身分である以上やった事があるからと免除にはならない。
適当に1人で布に動物の皮を張ったテントを建てて、火を起こして不寝番でもしようかと思っていたが、複数人、しかも素人連れとなるとしっかりとした準備が必要になる。
自分はまだしも、彼女たちはそういった知識がちゃんとあるのだろうか?
そう考えると、自然と答えが口から出ていた。
「構わない、ただ準備はしっかりしないと厳しい。何が必要かは理解しているかを教えて欲しい」
「教官から一応聞いてはいるのですが……」
「まあ、私が言う物を持ってくればとりあえずは何とかなるだろう」
エレウノーラは野営に必要な物をリストアップすると、女生徒たちに紙を渡した。
とりあえず、これを持って行けば間違いないという物であり鍋やらは1つあれば十分なので金を出し合って共同で使えば良いとアドバイスをしておく。
過ぎる日は早い物で、共同野営訓練の日にエレウノーラは誘ってきた女子生徒達と共にひたすらに歩いていた。
学園を出発し、道中に有る森の中で一泊し隣町で補給を行いまた同じルートで帰ってくるという都合森の中で二晩を過ごす事となる。
最初は楽しくおしゃべりをしていた女子生徒達も徐々に口数が少なくなってきた頃、エレウノーラは休憩を宣言した。
「兵は歩くのが仕事の大半だ、指揮官たる騎士も歩くのがほぼ全てだ」
「しかし、騎馬突撃をするのも騎士ですが……」
「あれは金が掛かる、怯えない様に調教した馬だけで大分金が飛ぶ。それなら、農民や都市の乞食を徴兵して突撃させた方が安く済む」
休憩の最中、髪をポニーテールにまとめ上げきりっとしたツリ目の少女が色々と質問を投げかけてきたのでエレウノーラもそれに対し、1つ1つ自分の考えを話していく。
最も、その内容が視点で言えば元世界のイギリス王のような物なのでかなり引かれていたが合理性を突き詰めればそうなるのだから仕方ない。
「そろそろ足の痛みも薄らいだか?それじゃあ出発するとしよう」
そのエレウノーラの声に、少女騎士達も脱いでいたブーツに足を突っ込み出発の準備を始める。まだまだ旅程は長くここで足を揉んでいるようではこの先辛くなることだろうと眉をひそめた。
ようやく森の入り口が見えた頃、すっかり少女達の息は上がっていた。
「またここで休息を取る、森に入ったら今夜の野営に出来る場所を探すことになるが一番見つけるべきは小川だ、湧き水なんて無いから火種を準備して小枝を拾うのも忘れないように、じゃないと今夜は飯抜きになる」
うへぇっと、声を上げて不満げな声が漏れた。だが、それが現実である。
持って来た食料を使えるだけまだマシと言う物、これで獲物を狩るところからと言われたら今までの休憩時間も無かっただろう。
「なぜ、森に入る前に休憩を取るのですか?」
「森の野盗とやり合うのに疲労困憊は不味いだろ?危険なのは入り口でも出口でも無く森の中だ、入り口出口は最悪何もかもを捨てて走れば助かるが中で襲われたら殺し尽くすしか助かる術はないぞ」
「良くご存じなのですね……」
「そりゃあ、賊を60人殺せば誰だって学ぶものさ」
そう言うとエレウノーラは森の中目掛けて叫んだ。
「教官方もそう思うでしょう!」
「カミタフィーラ……、分かっていても言わんでくれ」
鬱蒼とした木の陰や、藪の中から革鎧を付けた学園の剣術教官らが姿を現して嘆息した。気配を感じなかったのか少女騎士らはぎょっと驚いた顔を見せている。
「道中で襲う気だったんでしょう?なら、
「元々試験内容の一環でどう対応できるかを見るのが要綱の内なんだが……、まあ見破ったなら有利に戦えたと判定して良いだろう」
教官はそう言うと、親指を向けて森を示した。
「休憩が終わったら野営を始めるように、お前達の組は戦闘は勘弁してやる」
パチパチと薪の枝が爆ぜる音がする中、交代で火の番を行う。
仮眠は合計で6時間になるように3組に分かれる、エレウノーラはその中でもキツイ中番だ。(3時間寝て、起きて番をして、また3時間寝る。前番と後番は連続で6時間寝れる)
相方はあのツリ目の少女騎士である、じっと火を見つめては眉間に皺を寄せている。
「カミタフィーラ卿は何故、そんなに御強いのですか」
「強くなければ生きるのが許されないからだ」
「……強ければ生きられるのですか」
「強いだけではただ生きれるだけだ」
「……私は、カミタフィーラ卿がレトント氏に勝ち続ける所を見て凄い人が居ると思いました。女の身で、男に勝つ。非難をされようとも気にも留めない。私とは真反対です」
「卿の名を聞いていなかったな、教えて貰っても?」
そう聞かれたツリ目の少女は顔を上げた、眉は先ほどよりも深く溝を刻んでいる。
「イターリア、イターリア・ディ・ヴィディルヴァと申します。父の爵位は男爵」
「イターリア嬢、何故私と比べるのだ?人は皆、他人と違う物だ。一々比べていたところで肩が凝るだけだぞ」
「……婚約者と折が合わないのです」
エレウノーラは思わず、またかと声が出てしまいそうになった。
ここ最近、色恋の話について巻き込まれることが多いな、とも。
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