第3話 TS女騎士、マチキ村のロベルタを侍女に任命する

「えぇ!?わ、私がですか!?」


「そう、1年後の俺の学園入学に御付きで王都までだ。3年間な、その分の給金と週2日休みは保証する」


「で、でも私は御貴族様の侍女が出来るほど家事が出来る訳では……」


「別に毎日料理作れって訳じゃない、向こうでメシは出る。やって貰うのは部屋の掃除と服の修繕、身だしなみを整えるくらいか。部屋も金がないから俺と同部屋になるが」


「ひぇ……」


 農村であるマチキ村に到着してロベルタを探し出すと、来年の入学に関しての流れをエレウノーラは話した。住み込みになるのと、働く際の服は学園から支給される事、給金に関しては主人持ちなので自分が週給として払う事、息災日は当日と前日か後日どちらか休みを選べる事、王都までの旅費も出すという事。


「私、都会に行くの初めてで……、ふ、服はこれでも笑われないでしょうか?」


「知らん、俺も王都に行くのはトッチャマの後継ぎの許可貰いに行った1度だけだ。そん時は革鎧だったし」


「え、あの革鎧で?おにい達と一緒に居る時の?」


「おう、めっちゃ笑われてたわ。まぁ、俺は代理だから別にどう思われようと良いし、成り上がりの騎士爵に板金鎧プレートアーマー持ってこいとか考える馬鹿の相手もしたく無い」


「あのぅ……、参考までにおいくら位かかるので?」


 ロベルタの質問に、エレウノーラは顎に手を当てると考えた。

 魔法が付与されてない状態でも板金鎧は高価だ、それこそ先祖伝来の財産として後生大事に子々孫々に至るまで使い続けられるほどには。


「大体リタ金貨で500枚くらいだな、カミタフィーラ家の年度税収は金貨6枚だ」


「私達が生きてる間に、御嬢様が身に着けている姿を見る事は無さそうですね」


「戦争起きて、相手の騎士から身包み剥げばワンチャンあるぞ」


「ワンちゃん……?え、犬が何か関係が……?」


「忘れろ、お前が一生知らないネタだ、とにかく来年の春に王都に着くように年が明けたら移動する」


 ロベルタへとそう伝えると、村を一望できる丘へとエレウノーラは向かった。そこから、村民が牛や羊を放牧していたり、近くの川で魚を釣ったりしている。川の漁業割り当ても月毎に家族順に回っている。今月はヨセフの家族だ、漁村があるので比較的簡単に魚は手に入るが塩漬けか天日干しの保存食なので焼き魚を楽しみたければ漁業権が回る月まで待たねばならない。

 畑では小麦とライ麦、他には野菜類でキャベツ、ビーツ、玉ネギ、ニンニク、ニンジン、ソラ豆、オリーブや葡萄が育てられる。

 近くの山と森にはカミタフィーラ家から認可を受けた御用猟師の一家が管理しており、林業・狩猟監督権を有している。

 ここが、ジョンの父が家長の家で秋の狩猟期には猪や赤鹿を落とし穴や括り上げ罠を使って獲物を狩っている。

 農村マチキ村はそんな牧歌的な村で、漁村のドマロ村はドアリア海に面しておりイワシとタコを主に獲っている。

 総合して戦争で成り上がった傭兵の男に与えられる村としては中々上位になるのではなかろうか、父ランベルトの部下だった傭兵団も帰農しておりその子息らに多少の軍事訓練と体力錬成を行っているのが関の山だ。とは言え、やっているだけ他の騎士爵領よりマシと言えるか。


「帰って手紙書かんとなぁ、俺が居ない間の統治で好き勝手にされても堪らんが、多少の役得も認めんと何されるか分からん。初夜権とか主張してきたら追い返したいが、レリ銀貨数十枚なら許容範囲か……」


羊皮紙もインクも高いんだよなぁとボヤキきながらエレウノーラは領主館へと足を向ける、その足取りは実に重かった。


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