第4話 TS女騎士、行商人に手紙を託す
「王都までの手紙の配達ですね、承りました」
「すまん、頼む」
エレウノーラはそう言うと、代金として銀貨2枚を行商人のビアッジョへと手渡した。正規の荷運びの代金として銀貨1枚と手間代としてもう1枚を包んだ。
「しかし、エレウノーラ様も学園に通う御年ですか。ランベルト様がご存命ならば、さぞやお喜びになられたことでしょうに……」
「名誉の戦死だ、仕方ないさ」
「ランベルト様が傭兵団を率いていた時から酒保商人としてお付き合いがありました、多少の骨折りは構いませんよ。何か王都で欲しい物は御座いますか?」
「なら、ライ麦と燕麦を買ってきてくれ。安いのな」
「承知しました」
カミタフィーラ領の領民の主食は大麦かライ麦、家畜には燕麦である。
領内で作っている小麦は王家への納税作物で、食べる事は領主一家含めて無い。
マチキ村に1つだけある風車を使って、粉挽き職人一家で特権を与えられたエリヤの家族が挽いた粉の十分の一を粉引き代として受け取っている。
挽かれた粉は各家庭の窯でパンとして焼かれるのだがまぁ、ボソボソとした触感で口の中の水分が持って行かれる。とは言え、安い値段で沢山食べれるので文句は言えないのだが。
そこへドマロ村の魚の干物や自家製のワインに野菜や豆が、通常の村人たちの食事である。カミタフィーラ家はそこに猟で獲れた兎や猪、鹿の肉が多少つく。
ビアッジョはマチキ村からオリーブやワイン、ドマロ村からは魚の干物を買って他の街へと売りに行き、帰りに鉄や銅と言った金属や水瓶や皿と言った食器を積んでくる。
以前に、剣や槍に鎧はと問われたがそもそも使う相手が山賊程度なので既に討伐した山賊の装備を流用して事足りているので断った。
田舎領主など体面気にしなければ金をケチれるのだ、繋ぎの女当主代理だから出来る手段とも言える。
「これで、一応の準備は終わったかね。ちょっと休憩でも入れるか」
腰に付けた小袋から干し果物を口に含め、太陽を見上げたエレウノーラは首の骨を鳴らした。
なんとか3年間の留守をしても大丈夫なように手配はしたものの、果たしてそれが本当に大丈夫かと言うのは神のみぞ知るところであり、正直な所エレウノーラも代官が横領するであろう金額や山賊が出た際の被害をジョン達は抑える事が出来るのかと不安で仕方がなかった。返す返すも、学園進学等と言う意味の無い行為にここまで金と手間暇をかけねばならない現状が不満であった。
自分の居ない3年間は領民達も治安面では不安にもなろう、これでもあの1件以外は山賊は慈悲なく処し平穏を守ってきた。ただ弟の成人まで可もなく不可もなく領を運営し、引き継げればそれでいい。
そんな人間が社交界だの、派閥だのとなった所でだ、弟がやれとしか言いようがない。
そもそも、時間が経てば消える人間とコネを作った所で相手方も迷惑甚だしいだろうに、なんで来たと言われるのがオチである。
だが、自分の行動であれこれ難癖つけられると言うのは父の死後に経験した横領未遂の小競り合いでエレウノーラは学習していた。
不安が有っても、まだなんとかなるかもしれない未来と確定で乱闘が起きるであろう未来、天秤にかける必要すらなかった。
「御嬢ー!ドマロ村にスーノ人の船が来た!」
その知らせを聞くと、エレウノーラは足に魔力を回し強化すると領主館に置いてある愛用の革鎧と長剣を確保するために走った。
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