第5話 北の海を渡ったスーノ人達
「頭領!暖かな
「進路そのままァ!」
雪の
2年前、俺の親父が死んだ土地だ。
だが、恨みはない。
あれほどの強い戦士と相討ったのだ、ヴァリヤーグの戦士として素晴らしい死に様だった。
恨みが有るのはマクーデン部族共だろう、偉大な戦士【赤シャツ】のダンルーハヴが死んだと知った連中は力を失った俺達へと襲い掛かった。
皆勇敢に戦った、素晴らしい戦士達だった。
彼らが無事にハルヴァラの門を潜り、永遠の宴と闘争を楽しんでいることを切に願う。
生き残り、ダンルーハヴの子として皆を導く責任のある俺は戦える力がある内に南へ下る事を決意した。
ボンディ(軽い鎧等で身を固めた水兵)、ヴィグメン(盾持ちと弓兵の2人組み兵士)、ハスカール(重装甲に盾を持った従士)ら80人と部族の女子供年寄りが200人。
族滅せずに動けるのはこれが最後だっただろう、まだ戦える戦士が居るならどうにか再起は出来るのだ。
子が育てば戦士となり、また子を設ける。
先祖が切り開いた土地を捨てる哀しみは有った、だが我々スーノ人は誇り高き冒険者であり利に敏い商人でありそして何より、戦いに生きる戦士だ。
豊かな土地でやり直すのだ、そして数を増やして恨みを晴らすためにもう一度雪の大地へと舞い戻るだろう。
まずはこの緑豊かな大地を制する所から始めなくてはならない、ダンルーハヴの
見えてきた海岸線には漁村がある、そしてその砂浜には1人の女が立っていた。
いや、女か?背がスーノの戦士並みに高く髪は短く刈り込まれている。
身に着けた革鎧は堂に入った姿だ、腰に佩いた長剣も使い込まれ手に馴染んでいるのが見て分かる。
良き戦士だ、性別など関係無い。強ければそれで良いのだ、そして彼女がここに居る理由は1つしか考えられない。
「我が名はエレウノーラ!当地カミタフィーラの領主代理である!スーノ人達よ、此度は何用で参ったのか!」
「我こそは赤シャツのダンルーハヴの子、エイリーク!雪の大地を捨て、暖かな大地を望みし者!エレウノーラよ、我が軍門に降り土地を明け渡すか!」
「否!この地は我が父が戦乱を戦い抜き国王陛下より賜りし土地!戦わずして明け渡す事等あり得ぬ!」
「ならば決闘にてどちらの主張を通すか決めよう!」
腰までの高さの海へと飛び込み、斧を右手に盾を左手に掲げる。
ハスカールとして戦う相手に不足なし、一角の勇者との闘いは胸が躍る!
「我が勝利し時は、この地を貰い受ける!」
「私が勝利した暁には、お前達を我が物とする」
顔の辺りまで剣を上げ、切っ先をこちらに向け体は左に捻じれている。
そして、少しずつ移動し俺の側面を取ろうとしている。
こちらも、それに合わせて盾を構えて摺り足で正面に迎えるように体勢を変えていく。
その瞬間に仕掛けてきた!
素早い突きをラウンドシールドを押し出してはじき返すが、信じられない程早い速度で切り返してくる。
ハスカールとして幾度も戦や略奪に参加してきたこの俺が防戦に立たされるとは!
だが、ヴァリヤーグ戦士は盾の扱いこそが本領!
袈裟切りを仕掛けてきたエレウノーラの長剣を内側から外へと叩き返して、戦斧を奴の腹へと切りつける。
しかし、流石にこれは見切られていたか奴は後ろへ飛びのくと先ほどと同じように剣の切っ先を俺に向けた。
短い時間の攻防で俺と同じ程度の力量だというのが分かる、ウォームラントの戦士は弱兵が殆どだ。
奴らは長い槍を主に使い馬にのって突っ込んでくるが故に、接近戦には弱い……と、今まで思い込んでいた。まさかこれ程の使い手がこの若さで居るとは、なんという幸運か!
強い戦士との闘いほど己を高め、糧となる物はない。
「素晴らしい強者だ!決めたぞ!お前に俺の子を産ませる!強き者の血は掛け合わされねばならぬ!」
「馬鹿な事言うんじゃねえ、俺は継承の問題で貴族籍抜くまでは結婚も出来んわ」
心に決めた事は必ずやり遂げねばならぬ、強さはスーノ人の精神の柱だ。
ウェデンスーの長として強き者の在り方を曲げる訳にはいかぬ。
「今度はこちらからだ!」
そう叫ぶと戦斧を掲げ、上段からの打ち下ろしを見舞う。
女騎士は長剣を巧みに操り、斧を打ち払うが本命は盾の
ラウンドシールドを胸に叩きつけると一瞬息が出来なくなったのだろう、くぐもった呻きと共に体勢が崩れて倒れた。
好機!このまま上を取って勝負をつける!
そう思い、走り出した時には既に片膝をつくほどに体勢を持ち直していたが、こちらの方が突っ込むのが早いだろう。
そう判断した瞬間、女騎士は自らの獲物の長剣を俺に向けて投げつけてきた!
反射的に左の盾を使い弾き飛ばすが、その一瞬で懐まで一気に詰め寄ってきただと!?
「うるぁぁぁ!!」
恐らくは魔法で強化しただろう右拳が腹へとめり込む、防具のホーバークが幾らか衝撃を吸収したとは言えその衝撃は凄まじく胃液が逆流し止める間もなく口から吐き出される。
だがこれが逆に幸いするやもしれん、このまま顔にかかれば目潰し代わりになるのではないか。
しかし、女騎士はひるむことも無くこちらを睨みつけたまま吐瀉物をかぶりそして俺の首目掛けて腕を伸ばしてきた!
がっしりとした筋肉の腕が首を締め上げるが、魔力を首に回し防御を試みる。
が、驚いたことにその状態で俺の体が持ち上がった。
一気に首に負担が掛かり、視界が黒くなる。
不味い……、このままでは落とされる!
そう思った瞬間、サムズアップの形に右手を握ると位置の確認もせずに女騎士の目に当れと振り上げた。
が、目が潰れるような柔らかい感触はなく逆に親指に激痛が走る。
(こいつ噛んで防ぎやがった!)
次の一手を感じる間もなく、気道が更に狭まり俺の意識は闇へと落ちた。
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