第6話 TS女騎士、決闘の後始末をする

「ぐっ……、くぉくぉは……」


「目が覚めたか」


 スーノ人戦士エイリークを裸締めで落とした後、決闘の宣言の際に則ってすべてのスーノ人を有する事となったエレウノーラはまず彼らにドマロ村から離れた沿岸部にテントを建てるように指示をした。

 その上で、エイリークを運び寝床を作らせそこに寝かせてから5時間。

 もう夕方に入った頃にようやくエイリークは意識を取り戻し、その様子をエレウノーラは眺めていた。

 頭に被った吐瀉物は海水で洗い流した為に、ゴワゴワとした塩が吹いているが我慢するほかなかった。

 300人近い人間が増えた以上、やるべきことは山積みであったがやる以外に道は無かった。スーノ人戦士……しかも、装備は自弁で既に用意していたのだから逃すのはあまりにも惜しい。

 彼らを軍役に組み込めるならば、元々の村民らを徴兵する必要は無くなりこの時代には珍しいほぼ常備兵たるハスカールは東にある十字東方聖教を信ずるツビンザ帝国皇帝の親衛隊にも採用されている。

 それこそ自給自足の体制が出来上がるまではこちらの持ちだしでも良い、【スーノ人戦士団】のネームバリューはそれだけ大きいからだ、それこそそんな連中を抱え込んだとなれば周囲の貴族が尻込みする程には。


「負けて生き恥は晒したくない、殺せ」


「断る、お前は既に俺の所有物だ」


 そもそもエイリーク本人も経験豊富なハスカールだ、何より指揮経験があるというのがとても大きかった。

 女に命令をされるよりも、負けたとはいえ族長の彼に率いられた方が他の戦士達もやりやすかろうと判断もある。

 今ここで上下関係を仕込まなければ不在の際に何をするか分からないというのもあった。


「スーノ人にとって決闘は神に判断を委ねる神聖な行為だったな?お前は我が領地を望み、俺はお前を含めたスーノ人を求めた。ならば、勝った俺の意見が神が正しいと言った事になる。お前、神を裏切るのか?」


「むむむ……」


「何がむむむ、だ」


 腕を組んで考えるエイリークの前にドッカとエレウノーラは座り込むと顔を覗き込んだ。堀の深い顔立ちと青い瞳が重なる。


「……確かに、お前の言葉は俺達を貰うという物だったな。ならば、俺もその中に含まれているのは自明の理か」


「そもそも、何故お前達はカミタフィーラ領を求めたんだ?」


「全てはマクーデン族が攻めてきたからだ、我が父ダンルーハヴがこの地で討ち死にしたと聞いた奴らは村を襲い、女を攫い、船を燃やした。残った船でなんとか旅に出れたが温暖な地で再起を図りたかったのだ」


「……俺からすれば、お前達が俺達を襲ったから連鎖反応にしか思えんのだが確かにその状況なら逃げるしか無いわな」


 エレウノーラは頭を振るとエイリークの目を真っ直ぐに見つめた、その顔が苦々しさに歪むのを見ながら話を続ける。


「まず、メシの心配はするな。こっちの余剰分を出す、元の村の連中が反発するだろうがその分、荒事になった時にお前らが血を流すと説得する。税の建て替えだ、カミタフィーラの村は農業と漁業に専念し、お前達は戦争が起こった時の軍役に着く」


「……もう1つ追加だ、交易特権を我々に認めろ」


「ヤバい品に手を出さないなら認めんでも無いが……、当てはあるのか?」


「テブリン島の北部のクトピ人に伝手がある、良い木材が安く手に入る」


「それなら良い、お前にウチのワインとオリーブ油の専売権をやろう」


 元々商人としてもやっていたスーノ人に交易関係は委ねた方が良いと判断した、特権なので税を取ることは出来ないがそれで優秀な戦士の供給源が出来たなら仕方がない出費だと考えた。


「まずはお前らの住む場所だ、何時までもテント暮らしは無理だろう。マチキ村の連中に木材のストックを持ってくるように伝える、それを使って家を建てろ。船が有るんだから漁で多少なり養え、麦は出すが皆と同じライ麦だからな」


「食えるだけマシだ、なんとか生活を立て直したら俺がハスカールの軍を形成しようじゃないか、俺含めて20人だがな」


「馬鹿みたいに多くても金が掛かる、その位が騎士爵に求められる人数だし構わないさ」


 マチキ村へと木材と食料の運び出しを伝えにエレウノーラはテントを出た、荷車の準備をしなければ、それから荷引きのラバも数頭要る。

 全てを手配して、スーノ人達が家を半分建て始めた頃に行商人のビアッジョが手紙の返事を携えて戻ってきた。

 その手紙には、年の暮れには代官を派遣すると学園長と文部卿の連名でサインが入っていた。

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