第39話 TS女騎士、トーナメントに出る
「カミタフィーラ、今回のトーナメントに学園代表として出てくれ無いか?」
「嫌ですが?」
冬の寒さがナーロッパ全土に到来しそうな気配が漂う中、ロベルタとヨアシュの結婚騒動に疲れていたエレウノーラに教員が話を持ってきたのはアシリチ王国で行われる定例冬季トーナメントにポリナ聖光学園代表として出て欲しいという内容であった。
「私なんぞよりも、3年から出したほうが宜しいかと」
「その3年はお前を出せと言っているんだよ、秋の1件で1年の破茶滅茶に強い女騎士を出したほうが勝率が高いと」
舌打ちしたくなる気持ちをぐっと堪えると、エレウノーラは問いただした。
「しかしながら、私には領地に戻って溜まった仕事をせねばなりません。トーナメントに出るメリットは?」
「優勝したら賞金と副賞も出る、うちはトーナメント優勝者輩出の名誉が得られる」
賞金と聞くと心が傾く音が聞こえたようだった、領内整備には金がかかる。
「ちなみに、どれ程の額で?」
「金貨300枚と副賞が軍馬だ」
「出ましょう、このエレウノーラに委細お任せ下さい」
エレウノーラ・ディ・カミタフィーラ騎士爵代理、合法で大金が得られるのであれば書類仕事は後回しにする程度には融通が利く女であった。
「カミタフィーラさんトーナメントに出るって本当!?」
「事実だ、教員から頼まれた」
「すっげぇ!本職の近衛や遍歴騎士、腕自慢の傭兵も出るのに!」
「まぁ、どっかで落ちるだろうさ。学園の名を貶めない程度までは勝ち上がりたいね」
「いやいやいや!カミタフィーラさんなら優勝行けるって!」
「カミタフィーラさんに賭ける奴〜」
教室で噂好きな生徒に聞かれ、素直に答えたエレウノーラだが普段の教練での強さを知っている同級生らはトトカルチョを募集しだした。
当日に賭けも行われるので、そこへ纏めて持っていくのだろう。
「カミタフィーラがトーナメントに出るのか」
「よう、グスターヴォ」
「ボゴミール、俺もカミタフィーラに金貨2枚だ」
キラリと光る金貨を胴元の学生に渡したグスターヴォはエレウノーラへと話しかける。
「実際、どれだけ行けそうだ?」
「知らんよ、相手が誰かも聞いてないのに」
「確かに早計だったか」
「やるからには全力でやるがね、金貨300枚だぞ」
「副賞の方は良いのか?」
「軍馬なんぞうちでは飼えん、売る」
バッサリと切り捨てたエレウノーラにグスターヴォは苦笑する。
「騎士ならば上等な軍馬は欲しがるだろうに」
「経済状況を考えろよ、軍馬1頭養う金で領民何人食わせれる?」
「領主の仕事をしている人間は視野が広い」
「お前も伯爵位継いだら同じ事言うだろうよ」
ニヤリと笑ったグスターヴォが答えた。
「そんときゃお前の仕事を真似するさ」
「カミタフィーラ卿はトーナメントに参加されるとか」
「まあ、彼女ならもしかすると優勝するかもしれませんね」
淑女の茶会と称するヴィットーリア主催の集まりでも、冬の興行として人気のトーナメントが話題に上がる。
やはり学生が出場するとあって注目度は高かった。
イターリアが出した話題にクラリッサも楽しそうに答え、ヴィットーリアも彼女ならばと思う。
「しかし、今年は中々粒揃いと聞いています。当家もニコデモを出そうかと思っていたのですが取りやめました」
「そんなに強い騎士が出るの?」
ヴィットーリアの問いにイターリアは頷き、出場する騎士の名を上げる。
「近衛第2騎士団団長のオルランド・ディ・ファーゴ殿、ロリアンギタ帝国ランラモンシー男爵が4男フランソワ・ド・ランラモンシー、遍歴騎士で西ナーロッパのトーナメントを勝ち続けているアルブレヒト・ツー・レイオンブルク、この辺りが優勝候補と見て宜しいかと」
「勝てますの?」
「いや……私からは何とも。何れも名のある剣士、カミタフィーラ卿もニコデモとの戦いを見るにかなり実戦慣れはしているので」
「機はあると」
「少なくとも私はそう見ております」
目を瞑り何度も頷くイターリアにヴィットーリアも目を細めた。
クラリッサは特に気にすることもなく茶を飲み、菓子を口にする。
「もしカミタフィーラ卿が優勝したらトーナメント初の女性が優勝となるのでしょうか」
「そうなりますね、というより女性が参加した例など殆ど有りませんので」
そんな2人が会話している中でヴィットーリアは顔を赤らめていた。
(フランソワとアルブレヒト!センキミ2の人気サブキャラじゃないの〜!え、若い頃の2人が見れる……ってこと!?)
現在はシリーズ1作目の時代だが、今から12年後が舞台の第2作目は北方にあるマゲルン諸国がクローズアップされ小国の姫である主人公が苦難の末にマゲルン統一を果たすというストーリーで1作目よりも大分シミュレーション寄りになっていた。
それでも人気声優や大御所声優を採用し、女性人気も高かった事は明記しておく。
(いや~ん!30台の色気たっぷりな感じも好きだけど、20台のフレッシュな2人も見たい〜!)
「ヴィットーリア様は観覧されるのですか?今年は天覧試合だそうですが」
「……ファビアーノ様からは誘われていませんわ」
「それは……」
「殿下は何をお考えになってるのかしら……」
(何も考えてませんよ、アイツ)
主人公なら根気良く向き合ったのだろうがヴィットーリアは主人公ではないし、処刑する相手なのだから極力避けたかった。
それが更に溝を作ることとなるのだが、死の運命さえ避けられればどうなろうが別にいいと開き直ったヴィットーリアからすればどうでも良い事である。
冬の香りはすぐそこまで来ている、即ち貴族社会における社交の季節でありトーナメントはその先駆けとなるのだがこのトーナメントこそがアシリチ王国にてエレウノーラの名を広める第1歩となるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます