第29話 TS女騎士、呆れる

「納得いかん!」


 バン、と机に拳を叩きつけてグスターヴォが吠えた。

 ビクリ、とクラリッサが体を竦めてヴィットーリアが肩を擦ったので落ち着いたのだろう、礼を言うと服を改めた。


「殿下は何をお考えだというのだ、奇襲を成功させたというのにも関わらず勲功を褒めずに3年との戦いでは遠ざけて敗北したとは……」


「いやー、俺が居ても勝てなかっただろ。3年は無条件で偵察完了してたようなもんだし、手堅く纏まって押し引き繰り返されてさ」


 2年軍との戦いには勝った1年軍であるが、続く3年軍との勝負に敗北し今は決闘の競技時間であるがその観覧のために4人は席についていた。


「そもそも何故ファビアーノ殿下はエレウノーラ様を軍団から除外なされたのですか?」


「表彰される場で女を台に上げる訳にはいかないからと仰ってましたね」


 ハァ、とヴィットーリアの重い溜息が漏れ出てしまった後に彼女は眉間の皺を揉み解すと、謝罪を行いエレウノーラも苦笑をもって受け流した。


「一番不味いのは殿下は現状を分かってらっしゃるのかと言う事だ、つまりこのままでは将来の近衛騎士らの忠誠が得られない可能性がある」


「殿下がエレウノーラ様をお褒めになられなかったからですか?本人を前にして言うのは気が引けますが、極論的に彼らに関係の無い話では無いのですか?」


「【将来王となる存在が論功行賞ろんこうこうしょうを拒否した】と言う前例が出てしまいまして、私の立場に何時自分が立つかと考えると無視出来ません。功を上げても王が拒否したならば御恩無くして奉公無し、封建制度の前提が崩れて最終的に反乱の可能性も高まります」


「反乱!?」


 思わず大声が出てしまったクラリッサに周囲の注目が集まり、顔を赤くした彼女は扇子で顔を覆い隠し、頭を下げた。

 ヴィットーリアの眉根に更に皺が強まり、苛立ちを表すかのように人差し指がテーブルをトントンと叩いた。


「褒美無くして王を奉公する理由は騎士には有りません、また王も有力諸侯を従えるには手っ取り早い方法が物の下賜や領地を任せる事です。これを怠れば反乱を起こしてもむべなるかなと周りは思いますので」


「それを多くの面前で瑕疵も無いのに褒めることも無く報酬も渡さず、下がるように言うどころか以降の軍事作戦から遠ざけたという事はこれ以上の出仕を求めないという事でもある。殿下は徴用したのだから、これは不味い」


 かぶりを振ったグスターヴォに、エレウノーラが次の言葉を続ける。


「扱いが徴集兵だからな、平民への対応ならギリギリ容認はされる」


「でも、エレウノーラ様は」


「騎士爵代理……、難しい所ですね」


 クラリッサとヴィットーリアが顔を見合わせて呟いた、返す返すもエレウノーラが男で正式な騎士爵ならば王太子もまともな対応をしていただろうと分かるだけに苦慮している。


「とはいえ、一国の次期国王としてアレは無いですわ」


 原作主人公が心を溶かしたのは奇跡としか言いようがないなと思い返しながらヴィットーリアが紅茶を飲む。

 そんな彼女の言葉を否定も肯定もするのは不味いと誰もが疲れた笑いを浮かべていた。


「まあ、被害としては無いに等しいので構いませんよ」


「本来は貰えるはずの報酬や名誉が不意になったのはどうする?」


「仕方ない、これ以上殿下の勘気を賜らなかっただけ良し、だ」


 ただ、と天を仰ぎながらエレウノーラは呟いた。


「今後、俺は王太子殿下に協力はしない。それだけ」


 その言葉に口元をひくつかせながらヴィットーリアが質問をする。


「その……、もし戦争となって殿下が軍を率いられたとしたら?」


「それは参戦しますよ、大公令嬢。それとこれとは話が別なので」


 グッと背伸びをすると滔々とエレウノーラは自己の認識を話し始めていく。


「そも、現在の戦争は王同士のやり取りで決まるのでありいかな王太子殿下と言えどもあくまで総大将止まり、陛下より召集されるのらばノーなどと言う答えは無い」


「では、その時に今回のような意図した形での褒賞取り上げがあったら?」


「ご存知でしょうか、指揮官の戦死理由割合というのを」


 ニコリと笑ったエレウノーラだが、瞳は怒りの炎を確かに宿していた。


「混戦や流れ矢というのは人の手ではどうにもなりませんので」

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