第41話 TS女騎士、帝国の騎士と戦う
「エレウノーラ選手、次の試合の時間です」
「おう」
1回戦の腕自慢の傭兵とやらを2撃で落とし、別段疲れもない。
そのまま連戦でも良かったのだが他の対戦カードの兼ね合いもあるので他の試合を見ていたが、心躍るようなことは無かった。
(金貨金貨金貨金貨金貨)
頭にあるのは優勝賞金のことと、それを使った領内整備だけだったエレウノーラは相手が何処の誰など全く聞いていない。
纏まった金が欲しい!と領主代理についてから何度考えたことか、今まさに夢を駆ける一陣の風がエレウノーラである。
「2回戦は先程圧倒的な暴力を見せつけた女騎士エレウノーラ卿対ロリアンギタ帝国からの伊達男フランソワ卿!」
ワァと歓声が上がり、舞台を登った先に居たのは観客席へ向けて愛想と手を振る舞う美形の騎士だった。
「マドモアゼル!先程の試合見ておりましたぞ!吾輩斯様に圧倒する試合は初めてのこと!」
「あ、そう」
「つれませんなァ!」
呵々と笑うとその騎士、フランソワは名乗りを上げる。
「吾はロリアンギタ帝国が臣下ランラモンシー男爵が4男フランソワ也!いざや尋常に勝負致せませい!」
「暑苦しいのが来たな……」
両手剣を天高く掲げて宣言したフランソワはそのまま上段の構えを取る、攻撃的なスタイルだ。
「キェェェイ!!」
気合の声を上げ、右足を一歩ダン!と踏み出すが攻めることはなかった。
脅しのテクニックでこちらが竦んだ所を一撃と考えていたのだろう。
「賊の断末魔の方がまだ綺麗に唄うぞ」
「いやはや、実戦慣れしている相手は面倒ですなァ」
そう言うと今度は剣を横に寝かせるように胸と肩の中間辺りで止める、手慣れた動きだったのでこちらがフランソワの本来のスタイルなのだろう。
(カウンターで決めるタイプだな、こういう手合いは自分からは手を出さん。ケリ付けるなら俺から攻めるしか無いか)
とはいえ、カウンター戦法の相手に自ら打ちに行くのは下策だが、これが団体戦なら自分に注意を向けてる所で仲間に背中から襲いかからせ迎撃した所を更に背打ちしていた。
それも出来ないのであればなんぞ不意を作るのがセオリーではある、しかし……
(規則で武器手放したら失格なんだよなぁ)
上品なトーナメントはこれだからと舌を出す、やるしか無いのならさっさとするべきと判断したエレウノーラは真正面から突っ込んだ。
(カウンター狙いならカウンター出来ない手数で攻めるしか無い)
意向返しで上段から切り下ろしをするがフランソワの剣が当てられ剣筋を反らされる、手首の引きで完全に反れる前に戻し次は正面から正中線に沿って打ち込む。
これは弾かれ、その勢いを殺しながら突き入れると軸足を残しながらクルリとフランソワは回転し、剣をその勢いに乗せて振り込んできた。
今度はエレウノーラが防御する番となり、長剣を叩きつける。
剣と剣がぶつかり合う甲高い金属音が鳴り響く事5回、エレウノーラの顔が険しく歪む。
(俺の剣戟受けてここまで持つとは)
フランソワもまた、秀眉を顰ませると考え込む。
(吾輩がこれほど押し込まれるとは)
((強いな))
1合剣を合わせるのは武人にとって、100の言の葉を交わすよりもよほど明確に相手を推し量れるという。
両者は眼前の相手が強者であると認識すると剣の柄を更に強く握りしめた。
先に仕掛けたのはエレウノーラで、またも突き入れる構えであり初撃をフランソワは楽に往なした。
しかし、次は素早く引きまた突き入れるがこれもまだフランソワは往なせた。
しかし、それが3度4度と続くとあることに気付く。
(どんどん速度を上げている!)
魔力で補助させた筋肉によって無理矢理速度を早めていくエレウノーラの突きは同じように強化を施し始めたフランソワを持ってしても威力は絶大だ。
(どうする、こちらから攻めるか)
このまま防御に回った所で決定打はない、幸い先程の剣戟で分かったが攻めは凄くとも守りは並か少し上程度。
兎角、攻撃は最大の防御を地で行くのだろう。
ならば一撃自分から行かねば、決着は付けられぬ。
「シェイヤァ!」
横薙一閃、左から右へと振るった剣をエレウノーラは彼女から見て右斜前、ガラ空きとなったフランソワの懐へと飛び込んだ。
瞬間、人生で感じたことのない衝撃がフランソワの腹部を走る。
エレウノーラの剣のポメルがフランソワの腹へとめり込み
くの字に折ったその背中に刃引きされた剣が振り下ろされ、メキリと骨の軋む音が鳴り響いた。
「勝者、エレウノーラ選手!」
歓声が上がる中、フランソワの従者の少年が舞台へと駆け上がり声をかける。
「フランソワ様!お気を確かに!」
「うっ、ぐ……。だ、大事無いさ」
少年の肩を借りて立ち上がったフランソワは、エレウノーラを見やる。
「マドモアゼル、凄まじい一撃だったよ。我が祖国の12宝剣次席殿と同格ではないか?」
「そう言われても他流試合はこれが初でな」
「いやさ、在野でこれ程の使い手が居るとは。ナーロッパは広いな」
フランソワはハハハ、と笑うとその笑いが痛みを引き起こし顔を顰めた。
「こりゃ肋がイッとるな、吾輩もまだまだ鍛え方が足りん」
「治療が出来る司祭様の下まで参りましょう、フランソワ様」
「そうだな、申し訳ないマドモアゼル。どうやら貴殿が優勝する瞬間は見れなさそうだ」
「優勝するかは分からんよ、名うての騎士はまだまだ居る」
「吾輩に勝った相手に優勝して欲しいのが人情だろう、本格的に傷んできたから行かせてもらうよ。オ・ルヴォワー、ア・ビアント」
「養生しなよ」
舞台を降りるフランソワへと拍手が送られる中、エレウノーラは視線を感じそちらを見ると王族の観戦席で小学生か中学生になり立て位の少年が彼女を見つめていた。
王族が見ているならばと頭を下げたエレウノーラは見えなかったが、その少年こと第3王子ホルテス・モレノ・ディ・アシリチの口はこう動いていた。
「神も知らない貴女は誰?」
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