第12話 TS女騎士、いきなり決闘する

「獲物は好きな物を選びな、と言っても全て木製だけどな」


「ふーん、色々あるもんだねぇ。まぁ、俺長剣しか使った事ねえからこれでいいや」


 エレウノーラはそう言うと、両手剣を模した木剣を手に取る。

 芯に鉄が入っているとはいえ木製の剣だ、当たれば痛いが頭に当って運が悪すぎなければ死ぬことは無い、運が悪い奴は死ぬが。

 ビュンビュンと素振りをして感触を確かめると、それを肩に乗せる。


「……防具は、本当にそれでいいのか?」


 グスターヴォの言うそれとは、実家から持って来た革鎧である。

 煮固めたとはいえ、革製だ。

 板金鎧プレートアーマーとは比べるべくもない防御性能である。


「貧乏だから板金鎧なんぞ着たこともねえよ、こっちが慣れてて扱いやすい」


「……それで怪我してもお前の責任だぞ」


「何当たり前の事言ってんだよ」


 対するグスターヴォは板金鎧に身を固めると、左手には盾を右手にはバスタードソードと呼ばれる両手、片手のどちらでも扱える剣を握っていた。


「最低限の心構えは有るようだな、猶更許せねえぜ、体を見りゃ分かる良く鍛え抜かれて闘いも経験してるんだろう。どこの流派だ?」


「教わる前に親父が死んでね、全部我流だ」


「……それ聞いてなおの事負けられねえわ、ちゃんとした師に学べば大成しただろうによ」


「10年後には冒険者でもやってるんだ、必要がねえんだよ」


 その言葉を皮切りに2人は構えを取る。

 最初に仕掛けたのはグスターヴォからだった、一気に踏み込むと水平に剣を振りかざす。

 バックステップで避けたエレウノーラへと更に踏込み、盾を構えたまま突っ込んだ。

 その盾ごと長剣で右に払いのけるとグスターヴォは体勢を崩し、スピンしかけながらも踏みとどまり正面にエレウノーラを見据えた。


(なんて馬鹿力だ!俺が盾毎持って行かれるかと思った!)


「根性あるよな、俺と殺りあう奴は大抵軽い一撃入れたらそのままとんずらするから新鮮だわ」


「そうかい、だが楽しむ暇なんかやらねえぞ!」


 逆袈裟に斬りかかり、相手が対処したかを確認する間もなく盾を叩きつけるコンボを行うと後ろへ飛びのいた。

 確かに盾に肉の感触はあったのだが、エレウノーラは左肩を回すとニヤリと笑った。


「なるほど、お上品な剣術堪能させて貰ったよ。次は俺の野蛮な剣術を披露しようじゃないか」


 そう言うと丸太の如く太い脚に力を籠めると一飛びでグスターヴォに接近し、掬い上げるように長剣を振るう。

 防ぐ為に前に突き出した盾が掬われ左手ごと上に持ちあがった所、曝け出された腹目掛けて膝が叩きこまれた。


「ごおえ!?」


 ベコリ、と音を立てて凹んだ板金鎧に腹を押されて潰された蛙のような声が出てしまうグスターヴォ。

 くの字に折れ曲がった彼に、上空から長剣を突きさすように振りかざす。

 体勢が悪い状態で衝撃を受けてしまい、グスターヴォは四つん這いになる形で大地に手を突いた。


「使えるモンは全部使うんだよ、馬鹿正直に両手だけ使ってるからそうなる」


「て、てめぇ……」


「そもそも板金鎧に剣でダメージ与えられんのだから、中身に効く衝撃を与えてやりゃあ良い訳だ」


 だからと言って金属の塊に膝蹴りする馬鹿が何処にいる!

 思わず叫びたくなる喉に酸っぱく熱い物がこみあげてくるのを飲み込んだ。

 こちらへの配慮か、少し距離をあけるエレウノーラに勝利を得るには質量を使うしか無いと判断するグスターヴォ。


(こっちは板金鎧だ、タックルだけでも俺の体重と合わさればかなりの物……幾ら体格が良くたって痛みはあるはず!そこを組み打つ!)


「おおおおおおおお!!!!!!!」


 雄叫びを上げながら盾を構えて走り出す、鎧の重さと己の体重を乗せたシールドバッシュは骨の1つは折れるはず。

 武門の一員として負ける訳には行かなかった、先祖代々に伝えられてきた剣術に土を付ける訳には行かなかった。

 だから、グスターヴォは理解できなかった。

 騎士たる者が、己の剣を投げ捨てるなどと。


「は!?」


 思わず足が止まり、反射的に盾を振って剣を落とす。

 その一瞬だけ、視界が盾で塞がり剣を叩き落として開いたそこには。

 右手を振りかぶったエレウノーラが居た。


「しゃあっ!」


 真っ直ぐ伸びた拳が、グスターヴォの顎を捉える。

 顎が外れる感覚と、頭蓋骨の中で激しくシェイクされる脳が彼に立つことを諦めさせた。

 縺れた足のせいであおむけになると、自重と鎧がそのまま大地へとエスコートだ。

 ドサリと重い音を立てて、攻略対象者であるグスターヴォ・ディ・レトントの意識は闇へと落ちて行った。

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