第13話 TS女騎士、攻略対象者の婚約者に泣かれる

「カミタフィーラァ!今日こそてめぇのツラぶっ飛ばしてやるぜ!」


「おう、やってみろよ」


 入学式初日で行われた決闘から1ヶ月たった。

 あの日以来グスターヴォはこんな風にエレウノーラに絡んでくる。

 その度に決闘を行ってはエレウノーラがボコボコに打ちのめしているため、クラスでも最早誰も反応しなくなっていた。


「またグスターヴォがエレウノーラさんに突っかかてるぜ」


「毎回負けるのに良くやり続けれるよな」


「うるっせえ!今回は勝てる可能性だってあるだろうが!最初から諦めて受け入れてるお前らより俺の方が上だ!」


 額に青筋を立てながらグスターヴォがキレ散らかす。

 実際、腕前は上がってきているのでエレウノーラの制服の下は内出血で青くなっている場所が多くなってきた。

 もっとも、グスターヴォはそれ以上に青痣だらけになっているのだが。


「おらぁ!準備しろ!俺ぜってぇ負けねえから!」








「まぁ、頑張った方だよな」


 ボコボコになったグスターヴォを放置し、エレウノーラは廊下を歩いていた。

 ようやく授業も終わり、この後は完全にフリーだ。

 図書館で何か本でも探そうかと思っていると、2人の人物がエレウノーラの前に立った。

 1人は以前、校門前で出会った大公家の令嬢ヴィットーリアで少し困ったような顔をしている。

 もう1人はとても小柄な可愛らしい女生徒で、青い髪を肩口まで伸ばし良く手入れがされているのが見て取れる。

 その女生徒はウルウルとした涙目を浮かべながらエレウノーラを睨みつけ―垂れ目なのでなんとも可愛らしいとエレウノーラは感じていた―、決意を秘めた表情をしていた。


「御機嫌よう、エレウノーラさん。今、宜しいかしら?」


(大公令嬢に今良いかって聞かれて断れる奴居るのかよ)


 そんな事を考えたが、にこりと笑みを浮かべエレウノーラは返答した。


「勿論、ヴィットーリア嬢。こちらの可愛らしいお嬢さんはどなたですかな?」


「こちらは、アヴェネツィ侯爵令嬢のクラリッサ嬢ですわ」


「あの、その、あ、アヴェネツィ侯爵家のクラリッサと申します、カミタフィーラ騎士爵代理に置かれましてはご機嫌麗しく……」


 敵意を感じはするが、それはそれとして礼儀はしっかりと払う少女にエレウノーラは好意を抱いていた。

 元々前世が男だからか、そもそもの話美少女と言う時点でかなり好感度は高いのだが人としてきっちり挨拶出来る少女は嫌いになれなかったのだ。


(日本のガキより可愛くてしっかりしてる時点で大抵の事許せるんだよなあ)


 にこりと笑みを浮かべると、膝を突きクラリッサと目線を合わせるとエレウノーラは話の続きを促した。


「どうやら何か真剣なお話がある様子、このエレウノーラが何かクラリッサ嬢の御心を乱すような愚行を知らずに冒していた様子。改めるためにも、お話をお聞かせ願えますか?」


「わ、わ、私の婚約者のグスターヴォ様をカ、カ、カミタフィーラ騎士爵代理は不義の関係なのですか……?」


「不義、と」


 チラリとヴィットーリアを見ると苦い顔をしながら首を振る。

 友達に付き合っただけなのだろう、まあ、婚約者が別の女と長い時間を過ごす……言い方はアレだが確かに自分とグスターヴォは事実そうである。

 これが甘い恋人の時間ではなく、騎士団の訓練でもやらないような実戦さながらのなんでもありルールのど突き合いでなければの話だが。


「どうやらこのエレウノーラ・ディ・カミタフィーラ、可愛らしい御令嬢に疑心を抱かせてしまったようだ。申し訳ありません、クラリッサ嬢。しかしながら、彼と私はそのような関係では御座いません。むしろ、仇敵の如く憎まれております」


「で、で、ですが、グスターヴォ様は私とお会いする時もいつもいつもカミタフィーラ、カミタフィーラと……」


「まあ、治癒魔法で癒されるとは言え頬骨が折れるほど殴られれば寝ても覚めても頭に浮かぶでしょうな。誓っても宜しいが、私は弟の継承権の為にも男とねやを共にすることはありませぬ」


 ぽろり、とクラリッサの目から零れた涙をハンカチで拭うとエレウノーラは微笑んだ。


「このような可愛らしい御嬢さんと婚約を結びながら、別の女の名を呼ぶとはレトント伯爵令息は何を考えているのやら。では、こうしましょう。次の決闘の際はクラリッサ嬢もおいで下さいませ、そうすればあの朴念仁めも真に見るべき女性は誰か深く理解する事でしょう」


 理解しないようなら理解するまで木剣を叩きこめばいいのだ。

 そう含むと、ニヤリと笑いかけた。

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