乙女ゲームを1mmも知らない男がTS転生した結果www
うっかり一兵衛
第1章 タイリア半島編
第1話 TS女騎士、山賊をぶっ〇す
「助けてくれ!頼む!山賊家業からは足を洗う!神に誓ったって良い!」
みすぼらしい風体の薄汚れた革鎧を着た男が血塗れの女に跪いて命乞いをしていた。
周囲には男と似たような恰好をしている死体が3体、革鎧諸共に剣で切りつけられて半ば断ち切られるようにして転がっている。
それを成した女はと言うと、身の丈は190cmの長身にゴツゴツとした鍛え上げられた肉体であり、髪は短く刈り上げられて男のような見た目に油で煮固められた硬い革鎧を身に纏っていた。
女はチラリと男を見ると、また右手に握った長剣に視線を戻した。剣は切り捨てた男たちの血と脂でテラテラと光っていた。
「俺達が山賊になったのも仕方なかったんだ!子爵領の税は重くて払えねえってなると罪人として鉱山送りだ、死んじまうよ!」
「前に」
ゆっくりと女が男を見据える、その目は鋭く冷たかった。
「お前と似たような事を言っていた賊が居た、俺は情けをかけて見逃してやった。そしたらそいつ、何をしたと思う?」
男はパクパクと口を開けては閉じるを繰り返す、話しの流れが明らかに自分にとって良い物では無い事を感じ取っていた。
「村に来ていた行商人襲って殺した挙句に、荷物毎荷馬車で逃げやがったよ。その話が広まって暫くの間、村に商売で訪れる商人は誰も居なかった。それからだよ、お前らみたいな山賊を56人殺してきた」
ギラリと光る剣に男の顔が映る、その表情は引き攣って己の未来を悟っていた。
「お前で丁度60人か、覚えやすくなる」
地面に転がる死体が1つ増えた。
「御嬢!1人で走らないでっていつも言ってんじゃねえですか!」
「悪い、ジョン。だが、俺が走った方が早いだろう?」
「そりゃあ、御貴族様で魔法が使える御嬢が身体強化して走りゃ俺みたいな平民は追いつけませんぜ」
女の元に走り寄ってきた5人の男達は地面に転がった死体を一瞥すると顔を顰めた。
「御嬢、もちっと綺麗な殺しは出来ねえんですかい?」
「十分綺麗だろ?人だって分かるんだから」
その返答にジョンと呼ばれた男は呆れたように首を横に振った後、残りの4人に死体を埋めるように指示を出す。
「穴は深めに掘ってくれよ、獣が掘り返したら面倒だからな。それと、穴に捨てる前に武器と防具は剥いでおけ。直せば売れるか使える」
へーい、とやる気なさげな返答をしてジョン達は山賊の死体から装備を剥ぎ取っていく。
(思えばいつの間にか死体から剥ぎ取るのも慣れたもんだ、日本じゃ絶対に有り得ない状況も数を熟せば慣れちまう)
かつての頃の感覚で左胸のポケットを探ろうとして、そもそも胸ポケットなど存在せず同じくそこが定位置であった煙草とライターも存在していない。
「……癖ってのは、生まれ変わっても抜けねえもんなんだねえ」
彼は前世の日本で警備業務に付いていた青年、
最早人を殺す事に何も感じなくなった女騎士として今を生きていた。
カミタフィーラ騎士爵領は2村(農村・漁村で1つずつ)を有し、アシリチ王国の南部タイリア半島にその領地を構えている可もなく不可もない一般弱小貴族である。
何故騎士爵代理との地位についているかと言うと、2年前に沿岸部を北方の島々に住む野蛮な異教徒達の襲撃が有った。彼らはスーノ人と呼ばれ、時には商人、時には漁師、そして時には略奪者となりこの年はスーノ人の土地で食料不足が起こったせいで温暖なアシリチ王国へと略奪行へと訪れた。
【赤シャツ】のダンルーハヴに率いられたスーノ人戦士達はカミタフィーラ領を襲い、エレウノーラの父である先代騎士爵ランベルトとダンルーハヴが相打ちとなりスーノ人達は撤退した。
さて、ここで問題となったのは騎士爵領の後継ぎ問題である。
元は戦乱の中成り上がった父ランベルトは結婚するのが遅かった。
迎えた妻はエレウノーラを産んだ後は長く不妊で、漸く孕んだ跡継ぎの息子は当時2歳で現在4歳、堅信式を結ぶまであと8年で成人までは12年である。
流石にこれ程の長期間当主不在は不味い、ランベルトの妻フィリスは豪農の娘であり領地経営など出来る訳もなく。どう考えても近隣貴族が保護と称して領地横領する流れであった、と言うか来た。
それをはじき返したのがエレウノーラである、当時まだ13歳の彼……、否、彼女は革鎧に身を包むと村の男手を動員して迎撃戦を開始。
魔法で自分と長剣を強化したエレウノーラは、敵軍40名程の軍勢に突っ込むとひたすらに暴れまくった。初手に馬上の騎士目掛けて斬りかかり右太腿を切り落とし落馬させるとそのまま御付きの従兵を3人切り伏せる。
動揺する徴収兵達が右往左往する所にエレウノーラに続けと突撃した男達が鍬や鎌で背中から切りつけると、落馬した騎士の首を掲げたエレウノーラの絶叫で農民の集まりである徴収兵は逃げ出し残った貴族家所縁の兵は討ち取られた。
カミタフィーラ領でも少なくない数の負傷者や死者は出た物の、攻め込んだ騎士爵家と比べれば微々たる物である。向こうは当主とその弟が討ち取られ、学園を卒業したばかりの後継ぎの息子は被害の大きさにショックを受け倒れた。
ジョン達と顔を合わせたのもこの時だ、それ以来狩りをするにも賊を討つにも着いてきている。
「御嬢、埋め終わりやしたぜ」
「ご苦労さん、帰るか」
エレウノーラ・ディ・カミタフィーラ、彼女は異世界転生と信じており弟が成人するまでの繋ぎ領主として過ごして成人後は貴族籍を抜けて平民として生きる予定を立てているが、実際には乙女ゲーム【閃嵐の君達へ】と言う名前も内容も全く知らないゲーム世界へと転生し、なんなら割とすぐに隣国の大国と戦争が起こるという事も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます