第47話 乙女ゲーム世界、原作に突入する
(なんで私、普段は行かない大通りに行こうとしてるんだろう?)
銀の髪を流しながら1人の少女が走っていた。
少女の名はシルヴィア、とある貴族の屋敷に住み込みで働くメイドの娘である。
───そのまま大通りに向え
いつの頃からだろう、彼女の頭に妙な声が響くようになった。
あれをしろ、これをしろ、どこそこへ行け、このことを覚えろ……。
そんなことばかり響き、無視すれば強烈な痛みが襲ってくる。
今年に入ってからはずっと声の言う事に従う日々で、自分のしたいことすら出来ていなかった。
───大通りで馬車の事故が起きて人が死ぬからそれまで待ちなさい
(え!?)
突然投げ入れられた爆弾発言に驚愕しながら大通りを見渡すと、速度を出している馬車とそれに気付かず通りを渡ろうとする子供が居た。
「あぶな───」
警告をしようとした瞬間、壮絶な痛みがシルヴィアを声も上げることが出来ないようにする。
今までの【御仕置】が手加減していたのだと判るレベルだ。
───余計な事すんなよ、アンタを幸せにしてやるから黙って言う事聞きな
ズキズキと鈍痛が残る中、見えたのは子供が跳ね飛ばされ頭から石畳に落ちる瞬間であった。
(知っていたのに、分かっていたのに)
痛みとは別の悔しさで涙が溢れ出てくる、止まった馬車の御者と主人に引かれた子供の親が遺体に駆け寄るのが見えた。
───ほら、アンタの出番よ。さっさと生き返らせな
(は?)
生き返らせる?自分が?
そんなことが出来るのかと疑問に思っていると、またあの痛みが走った。
───やれ
もはやシルヴィアに選択の余地など残っては居なかった、彼女が出来たのは野次馬を掻き分け遺体に縋り付く両親を突き飛ばし子供の頭に手を当てることだけだった。
この日、死者の蘇生を成し遂げた少女は聖十字教より聖者認定を受け聖女シルヴィアと呼称されることとなり父親である子爵が認知し正式な貴族として登録。
それに伴い、ポリナ聖光学園へと入学することとなる。
即ち、閃嵐の君達へのオープニングが始まったのである。
───なんで転生だと思ってたら意識だけなのよ
聖女の中に、もう1人居ることはシルヴィアのみがなんとなく知っているだけであり、その人物の心根が卑しい物であるとはシルヴィアすら知らなかった。
───まあ、生センキミを特等席で見れるって言うのも良いわね。後はこの
しかし……、そんな半転生者も知らないことが起きていた。
もう既に攻略対象者の半分はフラグが立たないようになっているということを。
───どっかでコイツの体乗っ取れたらなあ、そしたら私が全部頂きってやれるのに
これを人は悪霊付きと呼ぶ、げに恐ろしきは全てゲームの延長線上と思っているところであろう。
もっとも、意識だけが鮮明で体がないというのが既に罰となっているか。
───戦争になったら取り敢えず、後ろに下がってて最後の美味しいところだけ持ってけば良いのよね
タイリア半島を揺るがす、アシリチ・ロリアンギタ戦争或いはタイリア再編戦争まで後1年3ヶ月の事であった。
「聖女?」
「ええ、今年入学なんだけどね。カミタフィーラ卿には出来るだけ会わないで居てほしいの」
「そりゃ、下級生なんで会う機会も無いでしょうが……」
「絶対、顔を見ようとか、思わないで」
区切りながら釘を刺すヴィットーリアに違和感を覚えながらもエレウノーラは頷いた。
(良し、これでカードは確保。主人公に共感されて持ってかれたら大損だわ)
ヴィットーリアは断罪イベント、その後の戦争イベントへの対抗カード足り得るとエレウノーラがトーナメントを優勝することで確信した。
(12宝剣の内の4人誰が来るか分かんないけど、次席のゴドフロワが来た時の対抗馬が彼女しか居ない。女性騎士相手ならニコデモも行けるかもしれないけど……)
ロリアンギタ帝国12宝剣次席ゴドフロワ・ド・ニュルブーゴ、異名は無敗。
数々の戦争・決闘・トーナメントにおいて敗北無し、使う剣は湖の精霊から授けられたと言われる魔剣トットノック。
決して折れること無く、相応しき騎士が手にしたならばどんなに離れていたとて手をかざせばその手の中に収まるという。
(勝って貰わないとヤバい!)
最低限、ゴドフロワが出てきたら殺してくれればそれでも良いと考える。
グスターヴォが参戦するならどの程度かがによるが、数に劣る以上個の力量に頼るしか無い。
「信じていますから」
「はぁ……、光栄です」
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