第5話帰り道はお砂糖を添えて

3.帰り道はお砂糖を添えて


周平視点


 皆さんお元気でしょうか。俺、時東周平はダメかもしれません。


 あの後、日照り神様・・・ではなく湊様に捕縛された俺は、恋人繋ぎされて多くの嫉妬と生暖かい視線にさらされながら校内を練り歩きました。


 数々の質問が女子生徒から放たれるのを惚気満載で答える湊。男子生徒は女子に追いやられて遠くに見える。男は女に勝てません。

 途中、不躾な質問がきたときに湊が静かに怒っていたので止めたのだが、その後キャーキャー騒がれたのはなんなんだろう?女心は絶対に男にはわかりません。


「ほら周平、そろそろ自分で歩いて」


 正門を出た後、廃人になっていた俺を湊は恋人繋ぎから普通に手を握り引っ張って歩いてくれていた。


 深呼吸をすると体に力が戻る。

それに気づいて湊は繋いでいた手を解く。そして俺の前に回り込んできた。


 俺の身長は169cm、湊は175cm。

 湊は6cmの差を軽くかがむことで釣り合うようにした。


 今日一日で大勢を虜にした綺麗な顔が十数センチ前にある。


「ん、少しだけ顔色良くなったね」

「誰のせいだと思っているんだこの暴走娘が」

「フギャッ」


 容赦なく脳天に手刀を落とした。恨みがこもっているので少し強めである。


「痛いなぁ。可愛い彼女のおつむがどうなってもいいのかい?」


 湊は両手でかばうように自分の頭をさする。


「昔のテレビは映りが悪いとき斜め45度から叩いたら直ったらしい。湊のポンコツな部分が治るといいよな」

「あ、待って。ステイステーイ、周平は待てができる良い子だよね」


 俺は犬か。


 大人しく手刀の形にしていた手を降ろす。

 湊はホッと息をついた。二度目は嫌だったようだ。


「で今日のあれらは何だったんだ?」

「んーあれらってどれのことかな」


 湊は俺の方を向いたまま後ろに歩き出す。軽くかがみこんだままなので視線は同じ高さで釣り合ったままだ。


 釣り合う視線は湊の機嫌がいいときの癖だ。そして俺に聞いてほしいときの合図でもある。


「まず入学式の挨拶」

「普通に挨拶できたと思うけど?」

「友人がなんかすげー人を虜にする技術を幾つか使っていたって言ってた」

「ああ友人くんが隣に座ってたね。周平だけ見てたから忘れていたよ。無駄に知識がある友人くんなら気づくか・・・」


 頭に手をついてあちゃ~と呟く湊。

 え、あの生徒数の中で俺を見つけたの?モブよ俺?


「あれはね、うん、何というか、テンションが上がり過ぎたせいというか、自分でもやらかしたと反省しています」


 いくつか使ってはいけない技術も使用したらしい。多数相手ならかなり効果は薄くなるらしいが、つい使ってしまったと。


 え?俺の彼女って何者?映画に出てくるような女スパイなの?


「大丈夫、周平には絶対に効かないから」


 なんですかその根拠のない信頼は、俺って無効にできる特殊能力でも発動してるの?


「私も普通の人なんだから緊張して、つい念のために使っちゃうときもあるさ」


 本当かな。目を見てもキラキラしているだけで嘘をついているのかわからない。


「というか使っちゃいけない技術を使ったことを後悔しているだけで他の技術を使ったことはよかったわけか」

「?あたりまえじゃない、演説する人は普通に使ってるよ」


 怖えぇー!そういえば友人がありきたりな技術なのに魔法とか言ってたような。使う人次第ってところなのかな。湊が使うとシャレにならないだけか・・・。


 しかし、ずっと一緒にいるが知らないことがまだまだあるな。今後は覚悟しておかないと心臓に悪そうだ。


「まあ私もさ代表に選ばれたからには生徒会とかから勧誘がくるだろうし、まずは同級生を味方につけておこうと思ったわけ」


 湊もいろいろと考えているようだ。


「じゃあ、その後の爆弾発言はいったい何だったんだ。俺はもう恥ずかしくて恥ずかしくて・・・」


 思い出しただけでHPがガリガリ削れていく。


「あれはマウントを取っただけ」


湊はあっさりと答える。


「マウント?」

「そ、私はそれなりにモテる容姿だからさ、普通に告白してくれるなら丁寧にお断りするけど、勘違いする馬鹿がたまに出てくるからね。そんな奴に限って女子にモテたりするし。最初に私には大好きな彼氏がいます、と言っておけば減ってくれるだろうし、女子から身勝手に恨まれることも少なくなるとかんがえたわけ」


 凄いな、あのおかしい発言の中にそんな意味があったとは思いもしなかった。


「まあそれは建前で」

「建前なのっ!?」

「普通に自慢したかったんだよ。私は周平と交際してます。幸せでたまりません。てね」

「・・・」


 そう言って笑顔になる湊の顔は赤く染まっていた。

 たぶん俺の顔も同じくらい赤いだろう。


「いや、まあそう思ってくれるなら俺もうれしいかな」

「んふふふ」


 湊は嬉しそうだ。


「ええいっ!それはもういい。それより最後のアレはなんだ!あまりのショックで軽く失神したんだぞ」

「ああ、処「ピーを入れろ!」

「面倒くさいな。ピー発言ね。少し恥ずかしかったけど周平のために言ったんだよ」

「え、同級生達の前で彼女がピー発言するのが俺のためになるわけ?」


 寸前まで青春風だったのにお下品に変わり果てる。シリアスってどこにいるのかなぁ。

 あと恥ずかしいの少しだけなの?成人まで聖人認定された彼氏の俺は泣くよ?


「帰るときに私たちを見ていた男子生徒の顔を見た?」

「いや、廃人になってたから覚えてない。たぶん嫉妬まみれで凄い顔だろ」


 美人な彼女がいる男は嫉妬される。釣り合ってないと思われたら更にだ。


「違うよ。殆どが同情の顔をしてた」

「はい?」

「周平は大勢の前でピー発言する美人な彼女と交際している彼氏をどう思う?」

「それは苦労してるんだろうなって・・・俺も同情されたのか」

「そ、いくら美人でもピー発言する女はちょっと・・・と私は考えさせたわけ。これでこそこそしないで一緒にいられるよ」


 湊は上げた自分の人気を落としてでも俺を守ってくれたのだ。

 本当にかなわないなこの彼女には。


「ん~その顔はどう思っているのかな周平?」

「うるさい。喉が渇いたからコンビニに寄るぞ」

「は~い」

 

 速足で湊を追い抜く。

 湊がすぐ後ろを楽しそうな顔でついてくるなんて見なくてもわかる。



後書き

「そういえば裏切り者の友人はどうした」

「ナイトメアモードで攻略してくるって言って逃げた」

「日照り神様に村ごと滅ぼされてしまえ・・・」


湊は暴走しているように見えていろいろ考えています。

 ついでに友人のフルネームは閑名友人ヒマナトモヒト

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