第163話【閑話】あるコンビニの一日


 

 コンビニ店長視点

 深夜のバイト君と交代して今日一日が始まる。

 朝のコンビニはかなり忙しい、出勤する人達が駅に向かう途中の短い時間で購入していこうとするので素早くレジをこなさなければならない。

 それに近くに高校、中学校があるので学生さん達も多い。

 昔みたいに近所個人商店のような文房具店は無くなっているのでウチのコンビニに買いに来るのだ。

 そのために他の店舗よりも文房具類は充実している。そのついでにパンやお菓子類を買っていってくれるので嬉しい事である。

 心無い言葉に理不尽な事も要求されることもあるが、子供たちやいい人達はありがとうと一言言ってくれたり笑顔向けてくれたりされると頑張ろうと気力が湧いてくるものだ。


「すいませんこれお願いします」

「はい、いらっしゃいませ」


 時間的に大人が少なくなってきたころ男子高校生がレジにやって来た。

 中肉中背、普通の少年だ。

 カゴの中身を取り出しバーコードを読み取る。

 ゼリー補助食品リンゴ味、ゼリー補助食品グレープフルーツ味、ゼリー補助食品マスカット味。

 週に数度彼に買われるのは栄養補助食品ばかり、たまにブロック系も買うが彼はいったい何と戦っているのか気になる。毎回朝から肌から艶が無くてカサカサなのだ。


「これもお願いね周平」

「ん」


 カゴに横からスティックのお菓子が入れられる。

 入れた本人は彼といつも一緒にくる女子生徒だ。

 身長が彼よりも少し高く、ショートカットが似合う美人さん。彼女がいると店内の性別関係なく視線を集めている。

 男子のカゴに入れる姿を見てなんであんな奴がと呟く男性が何人がいた。

 二人には聞こえているだろうに彼は完全に無視、彼女の方は清算し終わったあとの彼の腕を取って組んで、店から出るときに後ろの店内を見てニヤリと笑って出ていった。

 見惚れる人に、君達にはしないよと暗に伝えられたことがわかって落ち込む人。経営者側から見ると人の流れが悪くなることになる。


「いつもあの子がくると凄いですよね。時間停止能力者かと疑いますよ」

「僕たちは動いているから違うけどね。ほらお客様くるよ」


 朝出のパートの子に隣のレジを任せる。

 まだあと一時間は忙しいのだ。最近は変な髪型の生徒が来たりして一般人が驚いたりするので気を抜いたりは出来ない。


「いらっしゃいませーっ」


 うん彼を真似てゼリーを飲み始めてから朝からも声が出るようになった。



 昼はそこまで人は多くない。

 住宅街に近い立地なので昼食時は人気が少ないのである。

 それに学校からも休憩時間内で来るには少し掛かり過ぎて、運動部の子達が走ってやって来るぐらいだ。

 今日は十分以内に戻るぞとやる気を出している子もいるが危ないので焦らないようにとは注意する。


「お願いしますです」

「はいいらっしゃいませ先生」


 生徒が完全にいなくなると小学生しかも下の学年に見える女性がやって来た。

 初めてきた時に小学校に連絡を入れないととちょっとした騒ぎになったのだが、免許証を見せられ実年齢に驚き、高校の教師ということにもっと驚いた。

 彼女が来るのは自分の五時間目の授業が無いときやって来る。


「あいかわらず菓子パンとお菓子ですか」

「ご飯は食べましたからデザートと放課後の分もですよ~」


 初めがいろいろとあったので店に余裕があるときは少しは会話するぐらいの付き合いになった。

 先生はいつもカゴいっぱいに買っていく。一人で食べれる量ではないのでほかの教師の分も買っているのだろう。こんな小さい身体なのにいい子だ。


「ふむ・・・夕方まで持ちますかね。あと数品買いましょうっ」


 本当にいい子だ。


「ちいーす」

「・・・早く入ってくれ」


 最近入ったバイトの青年がようやくやって来た。

 ちゃんと手入れできないで褪せた茶髪にだらしなく締まりのない顔、姿勢も悪く正直接客商売には向かない。

 だが立て続けにパートで来てくれていた主婦の女性達が家庭の事情で辞めることになった。大急ぎで募集したら来たのが茶髪の彼なのである。

 人員がギリギリいるのなら絶対に雇わないタイプなのだが、自分の業務時間を限界に入れてもどうしても無理で入れるしかなかった。


「三十分遅刻だよ」

「なんすかー店長そのくらいで給料から引きませんよね?そのくらいは大人なんだからおおらかにいきましょうよ~」


 キリキリと胃が痛む。他のパートやバイトの子は茶髪君が入って一週間で一緒にやりたくないと全員からの苦情が出た。

 それから茶髪君が入るときは僕が一緒になることになった。連続勤務の時でなくてもキツイ。


「店長あれ辞めさせたほうがいいわよっ」

「あれはないわ~ナンパしてくるんだよ~」


 たれ目なのにきつめに言ってくる子とツリ目なのにおっとり口調の女の子二人がレジ中に僕に訴えてきた。

 よく来てくれる高校生の子で、僕にもよく話しかけてきてくれる明るくていい子達だ。

 その二人が怒りと呆れて茶髪君の行動を伝えてきてくれた。


「本当にごめんね。後で注意しておくから、あれでもいないと店員の人数が足りなくてね。誰かちゃんとした人が入ってくれればいいんだけど」


 茶髪君がダラダラし過ぎなので外の掃除を任せたら彼女達をナンパしてきたらしい。

 もう本当に頭と胃が痛くなる。


「店長可哀そう~」

「地方のコンビニ店長の苦悩ね」


 憐みの目で見て頑張れと励ましてから彼女達は店を出てナンパさせないためか小走りで歩道に向かった。

 そのあと長い掃除が終わって戻ってきた茶髪君を注意するけど、そのくらいで怒るなんてウケるーとか言ってまともに受け取らない。


 夕方の高校生が多い時間帯は監視を兼ねて僕もレジに立つことに、他にもしなきゃならないことがバックヤードにいっぱいあるというのに残業は確定だ。

 最近は寝るだけでしか家に帰れず家族には寂しい思いをさせているというのにため息が漏れる。

 なるべく茶髪くんをお客にかかわらせないようにして夕方の混雑を乗り切る。二人でレジに入ってもお客は僕の方に多く並んでいた。レジのスピードと態度で茶髪君の方に客があまりいかなかった。


「ふうっ、このままじゃ胃に大きな穴が出来るよ」


 混雑する時間帯をなんとか切り抜け、どうしてもバックヤードででしかできない仕事をするために裏にこもった。今の時間は仕事帰りの大人か学生は部活で集団で来るので茶髪君もそう変な事はしないだろうと判断したのだ。

 ドアは開けておいて何か起きたときにはすぐに出れるようにしておく。


 本部への連絡に、パソコンの資料作成に書き物が大量にあってまたため息をついた。

 処理している間もバイト募集をエリアマネージャーにも相談しようかなと考えていた。僕の評価は下がってもいい、店の運営がスムーズに出来ることが店員の皆とお客のためになるから。


「ぎゃあっ!」


 意識がパソコンに集中し始めたとき、茶髪君の悲鳴が聞こえた。


「どうしたっ!?」


 慌ててカウンターに続くドアをくぐると店内には高校生男女二人に茶髪君だけがいた。


「いてててっ、お前手を離しやがれよっ!」

「何するかわかんねえ奴を無条件に離すバカはいねえよ」


 カウンターを挟んで茶髪君の腕を掴んでいる男子高校生、その男子の背中に隠れるようにメガネの女の子が不安そうな目でいた。


「あ、店長ぉ!暴力です暴力ぅ!警察呼んいだだだだっ!」

「客をナンパして断られたら買った品物を投げつけようとしたのを止めたのが暴力かよ」


 男子高校生の言葉にどうにかしようもう少し頑張ろうという気持ちが崩れていく。


「ウチの店員が申し訳ございませんでしたっ」


 それでも店の責任者としてしないといけないことは高校生二人に謝罪することだ。


「なに謝ってんすかっ、こいつが先にいでででっ」

「君は黙っていろ」


 誰だろうと思うくらいに自分の口から冷たい声が出た。


「カメラで録画されているのを見ればすぐにわかるんだ。なんなら今までの君の勤務態度も出してあげようか?警察が見たらお客様の正当防衛か君の主張のどちらが通るか」


 自分の都合のいい事しか考えない頭でも警察にこれまでの事を全て知られたら分が悪いと考えたのだろう。痛がってはいるけど大人しくなった。


「裏でドリンクの補充でもしていてくれ、あとは僕がするから」


 離してもらえますかと言うと男子高校生は茶髪から手を離した。

 舌打ちをしてバックヤードに入った後にガンッと何かを蹴る音がする。


「この度は誠に申し訳ありませんでした」

「・・・」

「あう、その」


 もう一度高校生二人に頭を下げる。

 男子は無言、女の子はあたふたしているようだ。


「お詫びに今回買われたもののお支払いはいりません」


 そういう権限はないので僕の自腹になる。

 カゴの中には文房具類にお菓子やドリンクも入っている。

 あぁ、お小遣いが減っちゃうなぁ。


「い、いえっ、トモヒトが庇ってくれたので大丈夫ですからっ」

「そういわけにはいきません」

「だ、大丈夫ですからっ」

「いえこちらが悪いので・・・」


 男子の背中に隠れていた女の子が慌てて出てきて手を横に振って断ろうとしてくる。


「眞子、買う物はちゃんと払う。店長さんその代わりにそこの唐揚げBOXを一つおまけしてくれ」


 僕と女の子のお互い譲らない戦いは男子の一言で片付いた。

 女の子の顔がパアァァとそれぐらいならいいですと喜びの表情になったので僕の負けだった。


「店長さんもキツイっすね」

「あはは、まあしょうがないですよ責任者が責任を取らないと」


 バーコードを読み取っていると男の子が憐れんで苦笑してくれた。


「それでも僕はここでいろんなお客さんを見るのが好きですから。このくらいではへこたれないよ」


 彼はそっすかと言って支払いを済ませたあと、たぶん彼女の女の子と手を繋いで店を出ていった。

 彼の背中に隠れていた時は違って女の子も嬉しそうな顔で彼を見ながら歩いていた。


 さてあと一時間ほどで夜のバイトが来るから一人で頑張らないと、その後は茶髪をクビにすることを伝えて出勤表を考えないといけない。

 あ~さらに子供に起きている時に会えなくなると落ち込む。


「ん?」


 何か感じてガラス窓の方を見る。

 先ほどの高校生と同じくらいの男の子が外からこちらを見ていた。

 見られたのに気付いたのかペコリと頭を下げて走り去っていく。


「誰かと待ち合わせでもしてたのかな?」


 それなら中で待ってればいいのにと思うが去ったから違うのかなと考えをあらためる。

 今はお客がいないのでカウンターでも出来る仕事をしようと頭を切り替えた。


「いらっしゃいませー」


 三十分ほど経った頃かドアの開く音と客が来るのを知らせるメロディーに反射的に挨拶をする。

 顔を上げると五名のお客だ。

 真っ赤な髪の女性を先頭にがっしりとした男性二人、その後ろに二人見えにくいが女性が二人いる。


「おう、お前が店長か?」

「え、あ、はいそうですが」


 赤髪の女性は真っすぐ僕の所に来て店長か聞いてきた。

 その後ろに残りの四人が来て、僕はたじろいで一歩下がってしまう。


「さっき問題を起こしたバカがいるだろう?おい連れてこい」

「「うっす」」

「あ、ちょっと!」


 問題を起こしたというのは茶髪の事だろう。

 それを把握する前に赤い髪の女性に指示された男性二人がバックヤードに入っていく。事態が動くのが早すぎて静止が遅かった。


「邪魔すんなよ。どうせクビにするつもりだったんだろう?」


 その言葉に動けなくなった。


「聞いた限りじゃ絶対に逆恨みしてくるクズだ。俺がきっちりと教育して逆恨みも出来ないようにしてやるからこの場は見て見ぬふりしとけ」


 彼女の魅力的な内容の言葉に何もできなくなる。


「何だよこれっ!?おいクソ店長がやらせてんのかっ。止めさせろやコラァっ」


 男性二人に拘束されてバックヤードから出てくる茶髪の言葉に助けようとする心は一欠けらも無くなった。


「お前が眞子に手を出そうとしたバカか」

「あ、なんだてめえ?こんなことして俺の仲間が黙ってねえぞっ」

「おおそうかそうか、ならその仲間全部呼べよ。こっちは次期当主からの命令でな、このコンビニの邪魔になるお前を徹底的に潰せと言われてんだ」


 茶髪の挑発にニイイィと口を笑みに変えていく女性。


「楽しみだなあ。俺らとあいつのところ、お前と仲間達はどっち行きになるのかなぁ」


 意味はわからない、だけど二度と茶髪とは会うことは無いと感じた。


「代わりにこの二人が入るから好きに使ってくれ」


 そう言って赤い髪の女性は茶髪と男性二人を連れて出ていく。

 残ったのは二人の女性。

 履歴書持参で日中はいつでも仕事に入ってくれると言ってくれる凄く良い人達だった。この時点で僕の頭の中から茶髪への後ろめたさは消え去る。経営者はこういうところはシビアなんです。


「いらっ、夜は久しぶりだね」

「どうも」


 やって来たバイトの子に茶髪がしていなかったドリンクの補充を頼んでレジにいると男の子が一人来店してきた。

 男の子は朝、ゼリー補助食品を大量購入していった子だ。


「ちょくちょく最近は来てたんですけど店長はこの時間にいなかったですよね」

「そうだね~人事でいろいろあって今の時間帯は裏にいたね」


 ゼリーの男の子、時東君とは数年前からの知り合いだ。


「今日は何を買うんだい?」

「いや栄養ドリンクをちょっと・・・」

「まさかまた」

「いやいや、もうあんなバカなことはしてませんよっ」


 時東君の言葉に眉をひそめると慌てて否定してきた。


 出会ったのは彼が中学生の時だ。

 夜になると筆記用具や包帯、消毒液など治療系のを頻繁に買いに来ている男の子がいた。日が経つにつれて増えていく購入量に心配して声を掛けたのが最初の会話だ。

 彼、時東君は好きな女の子に並び立つために勉強に運動も頑張っているというものだった。

 文房具類のコーナーが増えたのは彼の要望に応えていたせいだ。


 まさか時東君が身体を壊すまで追い詰められているとは当時は思いもしなかった。

 彼が公園の見えない場所に倒れていたのを発見したのは僕だ。

 夜の勤務が終わっての帰り道、ふと教えてもらっていた時東君が鍛えているという場所を見に行った。

 虫の知らせだったんだろう。

 そこにはうつ伏せで倒れている彼がいた。

 救急車を呼んで一緒に乗って病院まで行き、知っている時東君の情報を全て出して家族が来るまでいた。

 僕が知っているのはそこまで、あとは彼の家族にたくした。

 僕にも家族と仕事がある。薄情だが客と店長でしかない関係だ。


 それでも退院した時東君が助けたお礼をしに来たときには店内で号泣して店の中にいる全員を困惑させてしまった。


「無理はしちゃ駄目だよ?」

「だからしませんって、俺より店長の方が無理しているでしょう。朝もいたのに今も働いているなんてブラックじゃないですか」

「ははは、明日から大丈夫だよ。安定して子供の起きているときには帰れるようになるから」

「一緒に遊ぶ時間は?」

「当分先・・・」

「超ブラックだ」


 遠くを見るようなことを言わないでくれ。

 僕はコンビニの経営者兼店長だ。

 いろんな理不尽もあるけどお客の喜ぶ顔は嬉しいし、こういう年の離れた話す相手もできるからこれからも頑張っていこうと思う。


 でも休日ぐらいは家族サービスをしたいなぁ。



ーーーーーー

周平「超恩人です」

店長「いやいやそれほどのことは」

周平「あと一時間遅かったら死んでた可能性大で、生きてても重大な障害が残ってたそうです」

店長「・・・本当?」


いつもとは違う方向から書いてみました(^_^)

はいこの店長がいなかったらこの物語はなかったという超重要人物でした\(^o^)/

いつか周平を助けてくれた人を書きたいなと思っていての登場です。

店長は時東両親が病院に到着したときに説明だけして帰ってます。心配はしていたけど家庭があれば余程親しくなければこのくらいかなと(^_^;)

湊も閑名家も知らないのは時東家だけで情報が止まっているからです。もし知ったらコンビニが大型スーパーぐらいになるので、平穏な暮らしを店長にはしてほしい時東家の配慮がありました( ̄▽ ̄;)


あとコンビニを覗いていたのは分家ズの一人です。

友人がコンビニを出て眞子と唐揚げを食べながら次期当主命令を出しましたが、分家ズはすでに動き始めていました。秋夜が家を出る頃には準備万端になっています。超ストーカー集団・・・(;´д`)

店長が周平の命の恩人ということも知っている分家ズですが時東家の配慮のために何もしていません。他のコンビニより売り上げがいいくらいです(^_^;)


さて茶髪は閑名と彼氏どちらに行くことになったのやら・・・(;・ω・)

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