第32話湊の天才たる所以


周平視点


 玄関で唖然とした眞子さんをみてドッキリは大成功だったようだ。

 ただし、食事にする、お風呂、それとも私を言わなかったことは悔しい。普通に出迎えてしまった。


 まあ瞬時にデジカメを出して撮影した眞子さんにはなかなかのつわものだ。


「え、普通に割烹着脱ぐんですか?」

「いや、ジョークだからジョーク」


 鍋も何も入ってませんよ。


「さあさあ、玄関で話してないでリビングに行こうか」


 湊が眞子さんの背中を押す。

 俺は眞子さんのキャリーケースを持って後を付いていく。


「・・・」

「・・・ねえ周平、もう少しマシなのなかったの」

「俺にはあの馬鹿を操ることは出来ん」


 リビングの中央にあるテーブルの上に馬鹿がいた。


 ぴっちりのタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツ、大きめのグラサンにマリモのようなアフロを被った友人がテーブルの上に立っていた。

 テレビではムキムキの黒人のおっさんが後ろに美人たちを引き連れてハードなエクササイズしているのが流れている。友人はそれに合わせて動いていた。


「どうも俺達が眞子さんを出迎えるのにいろいろしていたのに焦ってあんなことになってしまったようだ」

「冷静だったらビキニパンツで裸エプロンでいれば周平の割烹着からのコンボで笑わせられたのにね。ほら眞子ちゃんが無表情だから、焦って友人君の動きが雑になってきた」


 全く一人でオチを考えるから失敗するのだ。おかげで俺と湊も被害を被ったではないか。


 眞子さんが無言で友人に近づく、馬鹿が更に焦る。動きがこの前動画で見せてもらったパラパラという踊りになっている。


「フロント ダブルバイセップス」


 眞子さんがボソリと呟くと友人が両腕を頭の位置までまで上げポージングした。


 すかさず眞子さんはデジカメで撮影し始める、連写で。


「サイドチェスト」


 次々と注文をつける眞子さんに応える馬鹿。

 なんだあの馬鹿、どうしてボディビルのポージングが出来るんだ?


「そいえば昼食の時に友人君が最近はボディビルの動画を見てるって言ってたね。眞子ちゃんはそれを覚えてたのかな」


 冷静な言葉をありがとう湊。

 でも細身マッチョの親友がアフロでポージングしているのを見るのは俺の正気度が失われていくのだ。


「最後はモストマスキュラー!」

『フィニッシュ!』


 テレビの方も丁度終わったようだ。

 崩れ落ちる友人。

 最後まで容赦なくデジカメで撮影する眞子さん。地獄だここには地獄がある。

 お婿に行けないと友人が顔を両手で覆いながら呟いた。


「さあ、勉強会をしましょうか!」


 こちらに振り返った眞子さんは大変満足な顔でした。


「友人君、テーブルは綺麗に拭いてね。拭いたのはそのまま捨てていいから」


 追い打ちとは容赦ないですね湊さん。

 俺はあまりも無残な友人の為に布巾を用意してやることにした。



「さあ改めて勉強会をしようか。各々で始めてわからなかったら誰かに聞くということで進めるよ」

「はい」

「おう」

「うぃーす」


 湊が音頭を取る。

 先ほど馬鹿がポージングしていたテーブルには勉強するためのものが置かれていた。


 馬鹿もおとなしく勉強をする。アフロのままで眞子さんに聞きっぱなしだが。


「いろいろあって忘れてましたけど、湊ちゃんに教わるのは勉強にならないと言ってましたよね」

「ああそういえばそれが目的で勉強会をすることになったんだっけ」


 俺も眞子さんに聞かれるまで忘れていた。だってアフロが強制ポージングされている光景を見たら忘れるだろう。


「湊、湊」

「ん?何かな」

「これを教えてくれ」


 見せたのは数学の公式を使った問題だ。

 そこまで難しくもないが暗算では解くには少し時間がかかる。


「a=24でb=8」


 湊は見た瞬間に答えを言った。


「こっちは?」

「a=3、b=13、c=7」


 その後、数学の問題集を数ページ越しに問題を出すが湊は瞬時に答えを出した。

 それが問題集の最後まで続く。

それを聞いている眞子さんは少し青ざめている。


「じゃあ、最初の問題の解き方を教えてくれ」

「え、う~ん問題を見たら答えが出ない?」

「無理、その途中経過が知りたい」

「・・・じゃあ書くからそれを見て」


 湊は最初にこたえた数問の答えまでの経過だけをノートに書いていった。

 問題集を見ずに。


「わかった?友人が湊の天才を思い知らされるって言ったの」

「ええ」


 眞子さんは書いている湊を見ている。


「湊は教科書は一度読んだらほぼ理解できるって、二度目は完璧に」


 そう湊は本物の天才なのだ。

 高校一年生の勉強くらいでは説明も出来ないくらいに、おそらく1たす1は2を説明しろと無理な事を言われているような感覚なのだろう。


 俺は中学生時代に、この湊に釣り合おうとして無理して壊れた。

 湊が平凡な俺がいいと言ってくれなかったら廃人か死んでいたかもしれない。まあ過去の話だ。


「湊は天才だけど中身は結構ポンコツだからさ見捨てないで親しくしてくれる。眞子さん」

「何をいっているんですか?」


 俺の言葉が不思議だったようで眞子さんは首を傾げる。


「友達に天才とか関係あるんですか?」


 おうこちらが驚かされた。

 今まで湊の天才さに落ち込んだり嫉妬して離れていった人が多かったので、つい無意識に眞子さんにもあまり期待していなかったようだ。

 よかったよかった。湊の高校生初の友達が出来たようだ。


「じゃあ湊の彼氏として友達としてもよろしく」


 眞子さんに握手を求める。


「こちらこそよろしくお願いします」


 眞子さんは力強く握手を返してくれた。


 さて、俺は唸っている友人でも助けてやるか。眞子さんが離れたとたんに一問も解けてないからなこの馬鹿は。



ーーーーーーー

湊「う~んう~ん、どう書けばわかるんだろう」

友人「う~んう~ん、全然わかんねぇ」

周平「これが馬鹿と天才は紙一重というのか」

眞子「違いますよ」


湊は本当の天才です。

テレビでなんか凄い公式を解いた天才の人の番組を見てこのレベルの天才決定しました。

公式の賞金を拒否したそうです。天才の考えはわからない(;・∀・)


湊自身は天才はあまり必要と思っていないんですよね。

できるけどそれにかける情熱はない、だって情熱は周平一択ですからー!



周平と湊が少し書かれた短編を書きました。

短編 その人は図書室で小説を書いていた


https://kakuyomu.jp/works/16817139556982836636/episodes/16817139556982860175

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