第7話穂高湊は優等生のようで暴走娘のようでヤンデレのようで恋する女の子なのである
湊視点
ボスン
飛び込むようにベッドに倒れた。
「ふふふ」
どうしても笑いが零れる。
本当に今日は良い日だった。
朝の時点では最悪だったが。
朝はママと周平ママが私の制服姿の写真を撮りたいとお願いしてくるから満足するまで撮ってもらった。
その光景をソファーに座って見ていた周平はいつの間にかいなくなっていた。
先に行くから母達と一緒に来るように、と書き置きを残して。
正直、そのときはかなり混乱した。ママと周平ママの前では取り繕うこともできない。叫び、暴れ、泣いた。
大事な入学初日に周平と一緒に登校出来ないだけで私の心は簡単に壊れる。
その後、周平ママが周平にメールしてくれて、≪楽しそうだったから止めるのが忍びなかった。学校で待ってる≫と書いてある返信のメールを見せてくれた。
待ってる、その一言だけで少し落ち着く。
周平には絶対に見せられない姿。ママ達しか知らない情けない姿だ。
その後は大変だった。髪はぼさぼさで泣いたせいで目元は腫れるし制服もよれよれだ。ママ達も準備しないといけないので、学校に着いたのはHRが始まる五分前。
一応、外見だけは完璧に間に合わせた。ママ達、ありがとう。
周平とはクラスも違った。
成績順でクラス作成されたなら別々になることは予想出来てた。
ただ朝の出来事で私の心は千々に乱れている。
最悪なことに周平と連絡がつかなかった。学校にいることは中学の時の友達に聞いているから事故にあったとかではないからそこは安心している。
ならスマホが壊れたのだろうか?心配だ。
仕方ない。もの凄く不本意だが友人君に連絡を取ろう。周平と同じクラスなのは確認済みだ。
・・・何度送っても返信がない。机の中でスマホを打つのは中々に面倒なのだ。
周平の為に早く返信してほしい。
「・・・であるから優等生のクラスに入れた君達にはもっと上を目指してほしい。その為には成績の振るわない連中などと付き合わず。有意義な時間を過ごしてくれ」
さっきから担任になる男の馬鹿な演説がうるさい。
「それとこのクラスにはいないだろうが学校は学ぶ場所だ。恋愛なんてものに現を抜かす間抜けはいないだろう。勉強に恋愛は害悪だ」
・・・は?
こいつは今なんて言った?勉強に恋愛は害悪だと?
この時点でクラスの担任は私の敵になった。
HRが終わった後に友人君のスマホ越しに連絡がついた。
一緒に帰ることは当然の事だったが、改めて周平から伝えられると喜んでしまう。
その後は体育館で入学式だ。
一応、私は新入生代表なので真面目に式に出ている。
校長先生の式辞は興味深かった。端々に生徒を大切にする気持ちが表れている。
この校長先生なら予定よりやらかしてもいいかもしれない。
少しだけ楽しかった。
持てる技術の全てを使用するのは滅多に出来ないことだ。演壇から周平が見えるのも最高だった。まさかその隣に友人君がいて私が技術を使っているのを周平にバラしたのは予定外だったけど。
私が横紙破りしたのを担任の男が止めようとしている。
この時点で私の予定の一つが終わった。
体育館にいる人の殆どが私の味方になっている。自分が一番正しいと思っている男の愚行はみんなにどう映るかな?
ここで止められても担任の教師生活が終わるのでよかった。
残念ながら校長先生のおかげで担任は生き延びれた。自分がどれだけやばかったか反省しなければ潰そう。
校長先生のおかげで予定の続きが続行できた。
正直、このあとはあまり考えていなかった。続行できる可能性は少ないと思っていたからだ。
なら、周平と友人君がノリでするみたいにやってみようか。
大成功だった。成功しすぎて周平に迷惑がかかるので最後に少し恥ずかしいことを言ったが誤差の範囲だと思う。
教師数人とママに校長室に連れ出された。
担任の男は怒りに怒っていたが、ほかの先生たちは苦笑いしてるし、校長先生にいたっては大爆笑だ。
やり過ぎというありがたい言葉を貰って終了。ママは人気者の母で目立つわ~と笑っていた。さすが今では大会社の社長の奥さんをしているだけあって大物だ。
LHRはまともに進行できなかった。自分が正しいと思っている担任の言葉は場をしらけさせるだけだった。
グダグダなまま終わり、ママは周平ママとランチに行くとサッと出ていった。
私はすぐに同級生の女子達に囲まれたがそのまま玄関のほうに移動する。
移動しているとスマホが鳴った。友人君からだ。耳を当てると周平と友人君の会話が聞こえる。
ああ、気分がよくて調子に乗り過ぎていたようだ。周平だったら今の状況なら逃亡する。近くのコンビニで待つとか連絡してくるだろう。
女の子達に断りを入れて周平のいる教室に向かった。そのまま入ると騒ぎになるので人差し指を口の前に置いて静かにしてもらうようにお願いする。入学式の影響が残っているなら難しいことではない。
周平は友人君への説明で後ろがお留守だ。
近づき肩に手を置いた。
少し煤けた周平と恋人繋ぎで帰る。
周囲を女子達が囲み、男子達は遠巻きだ。男子の顔は・・・うん大丈夫。周平を憐れんでいるのは気にくわないけど、勘違いのくせに嫉妬して嫌がらせするよりマシだ。
途中、もっと良い人の方がいいんじゃないかというバカな女がいて潰そうとしたが、周平が止めろと頭をコツンと叩いてきた。女子達が騒ぐ。やっぱり周平はかっこいい。これは私のものだから手を出さないでほしい。潰すのが面倒だから。
帰りの道中、入学式のことを説明する。本命の部分は気づかれていない。周平なら知っても仕方ないで済むだろう。それより照れる周平は可愛い。
照れる周平に付き合って公園で休息することになる。
公園は周平と出会えた大切な場所だ。
子供だったあの日、学校でいじめられ、誰もいない家に帰宅した私はどうしようなくわからない感情に押し潰れた。
ただ両親に会いたい。それしか浮かばなかった。
でも、会社には車でしか行ったことがなく、距離があった。
迷子になり疲れ果てた私は公園の巨大遊具の建物の中に入った。もしこの時、誰にも会わなかったら死んでいたと思う。誰に言っても信じないだろう、でも信じればいつもより力が出せるときがあるように、絶望すれば体が生きることを拒否するかもしれないのだ。子供の思いを馬鹿にしてはいけない。
そんな絶望の淵にいた私を救ってくれたのが子供の周平。
薄暗い建物の中に通じる入り口に、外の街灯に照らされてリュックを背負って、頬に真っ赤なモミジをつけた少年が現れた。
その時、何を言ったのか、何を言われたのか覚えていない。ただ一緒に食べたラムネとオレンジジュースの味は今でも覚えている。
その後は時間があっという間に過ぎ去った。時東家に連れていかれご飯を食べ、お風呂に入り、眠ったら、顔を腫らしたパパとボサボサのママがいた。抱き合って一緒に泣いた。
イジメられたことを話し、転校して、時東家の横に引っ越してきた。
周平をいつ好きになったか?助けてくれたヒーローを好きになっていくのはおかしいかな?
昔を懐かしんでいたら、周平がラムネをだしてきた。
思い出してくれた!嬉しい!
つい、襲ってしまった。キスだけだからまだセーフだよね。
周平とのキスはラムネの味がして大変おいしゅうございました。
「大切に仕舞っておかないと」
ベッドから起き上がり、机の引き出しを開ける。
そこには初めて会った時のラムネの容器があった。
その横に今日食べたラムネの容器を置く。
「今日は本当に良い日だね」
筆者「ヤンデレ?う~んストーカーのような・・・」
湊「恋する女の子に酷い、潰そうかな」
筆者「ひぃっ!Σ( ̄□ ̄;)」
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