第6話ラムネのお味は何味?
4.ラムネのお味は何味?
周平視点
コンビニで飲み物を買った後、帰り道の途中にある公園で飲むことになった。
公園からは徒歩十分で帰宅できる距離だが、飲みながら帰るよりは一度休憩したほうがいいという判断からきている。
まあ単純に入学式の日にそのまま帰るのはつまらないというだけだ。
「一緒にこの公園に来るのも久しぶりだよね」
「中学は反対方向だったからな」
今いる公園は中央が小高い芝生の山になっていてその周囲を囲むようにランニングコース、子供用の遊具が設置されている。
湊は運動のためにランニングコースを使っているようだが、あいにくと俺は中学時代には来たことがなかった。三年間帰宅部だった奴がランニングなんてするわけがないのです。
前を歩く湊は上機嫌だ。
最近流行りの曲を口ずさみなら軽くステップを踏んだり、その場で一回転したり、俺の周囲を回ったりとせわしない。
「ほら、あそこの遊具で昔遊んだよね」
「あれか、男の子が絶対に通る恐怖の90度滑り台。滑るのためらってたら友人に蹴り落されて、服がめくれて背中が擦り傷だらけになったな」
思い出したら腹が立ってきた。こんどあいつの家に行った時にゲームのコントローラーのボタンにビニールテープを貼っておこう。剥いだ時にベタベタするだろう。
「それじゃこっち」
「ターザンロープか、友人と二人でロープに掴まれば速くなるんじゃねと考えて実行したら予想以上にスピードがついてゴ-ルしたとき凄い勢いで吹っ飛んだ。よく死ななかっと思う」
「周平達はなにをやってたのかな。私と遊んでいたときはそんなことしてなかったよね」
呆れたため息をつく湊。
「女の子がいて危ないことはしません。あれは男の子限定のデンジャラスなお遊びです。
それに湊とであった頃には二人ともお遊びは卒業してました」
自分もしたかったとプリプリ怒りながら前を歩く湊のスカートが揺れる。
・・・聖人指定されても高校生なので欲はありますよ?
「はい到着」
俺達が着いた場所は芝生の山の頂上にある木製のテーブルと長イスがある所だ。
公園の中で一番高い場所にあるので公園全体を見渡せる良いスポットなのだが、日差しを遮るものがないので来る人は少ない。
今日は晴れているがぽかぽかした春の日差しなのでいいタイミングに来れたかもしれない。
湊が先にイスに座る。
俺はテーブルを挟んだ反対側のイスに座ろうとした。
「周平」
少し咎めるような声で湊が俺の名前を呼ぶ。
「わかってないな、彼氏は彼女の隣に座るのが常識でしょう」
湊は自分の右隣を叩いて座るのを促す。
「マジ?そんな常識あるの?」
「高校生カップルの常識です。今後もいろいろと教えていくから覚えていってね」
そんな常識は知らなかったな。こちらは湊が初めての彼女だ。湊は友達が多いから聞いたことがあるのだろう。
大人しく湊の右横に着席する。
スススと腰を滑らせて近づいてくる湊。
手を繋ごうとするな。腕を絡めようとするな。袋から買ってきたものが出せないだろうが。
「ま、今日はお互い高校入学おめでとう~」
「誰かさんのおかげでなかなか得難い入学式になったがな」
お互いの飲み物を軽くぶつけ合った。
「湊はいつもそれだよな」
湊が飲んでいるのは紙パックのオレンジジュースだ。
コンビニの飲み物の中でも安い部類にはいるソレを湊は好んで飲む。俺はミルクに砂糖入りまくりの缶コーヒーだ。
「もう何年も飲んでたら他のを飲みたいと思わなくなったんだよね。それに周平が初めてくれたうちの一つだから」
おうふ。
いきなり砂糖を突っ込んでくる湊さん。それは今まで知りませんでしたよ。
「ほら、あそこの巨大遊具の中で初めて周平と会ったんだよ。覚えてない?」
「いやそれは覚えている。健康に良いからと聞いてオヤジの日本酒に酢を入れて、しこたま怒られて家出した日だからな」
こちらを見て驚く湊。恥ずかしくて当時は言えなくて今日まで来たのだが、オレンジジュースの情報と交換だ。
「だから頬に大きなモミジの痕があったんだね。長年の疑問が解けたよ」
カラカラと大声で笑う湊。
今の穂高湊は美人で優秀、そしてお金持ちの娘であるが、昔は違っていた。
俺も親と湊から聞いたので細かなとこは知らないのだが、当時の穂高家は経営している会社があまりよくない状態だったらしく。穂高ママも手伝って深夜遅くまで働いていたらしい。
穂高両親は娘の湊のことをちゃんと愛しているが、当時は放置気味にはなっていたようだ。
ここからは湊から聞いた話になる。
俺達が小学四年の時、小学校から帰って来ていつものようにテーブルに夕食を買うためのお金を見たとき、どうしようもなく両親に会いたくなったらしい。
湊自身、あの時は会いたいしか考えられなかったと言っていたから、一人で家で待つことに小学四年の湊の心が耐えられなかったのだろう。それが決壊しただけの事だ。
当時の穂高家は別の場所にあり、仕事場まで数キロはあったらしい。しかも、湊は車で数回行っただけで道もあやふやで歩きで行くのはほぼ無理だった。
案の定、迷子になり周りも暗くなり近くにあった公園、今現在俺たちがいる公園にある巨大遊具の建物の中に逃げ込んだらしい。湊もただ怖くてたまらなくでの行動だったようだ。
そしてこれからが俺が知っていることだ。
当時、オヤジにしこたま怒られた俺は家出を決行する。好きな食糧をリュックに詰めて家出した先は湊がいた巨大遊具の建物だ。秘密基地にしていたので逃げ込みやすかったのだろう。
建物に入ったらびっくり、女の子が体育座りで泣いていたのである。よく幽霊と間違わないで逃げなかったと思う。
女の子には優しくしないといかん、というオヤジの言葉におれは一緒に並んで持っていた食料を出して、二人で食べた。
泣いている子供の言っていることだ。当時の俺は理解できなかったが、親に助けを乞うべきだと考えて湊を時東家に連れて帰った。
そこからは時東家始まって以来の大騒動。なんとか湊から情報を聞き出した俺の両親は穂高両親を呼び出すことに成功。
その間に俺と湊はご飯を食べ風呂に入り、一緒に寝ていた。
次の日の朝、頬が何倍も腫れあがった湊パパと髪はボサボサ化粧は崩れまくりの湊ママが湊を抱きしめて三人で大号泣した。
俺は家出したことでげんこつをくらったが、湊を連れて来た事は褒められた。
その後はなんだかんだあって、穂高家は時東家の隣に引っ越してきて、湊は俺のいた小学校に転校してきた。
「おじさんには感謝しないとね。怒ってくれたから周平が家出して出会えたんだから」
「あ~ビンタは納得いかんが、確かに感謝だな。なにかプレゼントでもするか?湊からなら神棚に祭ると思うぞ」
オヤジは湊にはかなり甘い。実の息子は結構適当なこの差はなんだろう。
あ、昔の事を話してたら思い出した。
コンビニの袋からあるものを取り出す。
「ほら、あの時の食糧にこれあったろう」
取り出したのはお菓子のラムネだ。安い味がいまだに癖になる。
「・・・!」
ラムネを見て驚いた顔になる湊。
小さい声でありがとと言って、そろそろ手を伸ばし受け取る。
蓋を開けて湊は開け口を口に含んで顎を上げて中のラムネを口の中に数個、転がし落とした。
その食べ方は俺が湊に教えた方法だ。手に出して食べるより美味しい感じするからと。
高校生の湊がすると艶めかしく見えて俺は思わず目をそらした。
「周平」
呼ばれたので振り向く。
「ムグッ!」
いきなりキスをされた。それもディープキスだ。
口内を舌で蹂躙される。
時間にして数秒だっただろうが倍以上に感じた。
湊の顔が離れていく。味わうように舌で唇を舐めている。
俺の口内には数個のラムネがあった。口移しされたらしい。
「ああ!今日は本当に良い日だっ!」
俺の目の前には満面の笑顔の湊がいた。
「清い交際とは?」
「キスまではノーカンです」
「ディープは違うと思う・・・」
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