第158話後夜祭は二人きりに


 眞子視点

「雑っ!雑よっ」

「もう少し自分に興味を持とうね~」

「は、はい~」


 私は今身動きが取れない状態にされていた。

 事の起こりは少し前、文化祭の後片付け中にクラスメイトの汐戸さんと左当さんに昔の不良漫画みたいに『ちょぉ、こっち来いやぁ』な感じで教室から連れ出された。


 向かった先は女子トイレ。

 なぜか生徒用の机と椅子が置いてあって私はその椅子に座らされた。


「あんた閑名に気があるでしょうっ」

「ひょえっ!?」


 着席した途端に汐戸さんが鼻先に人差し指を突き付けて秘密を暴露断言された。


「しょしょ、しょんはことひゃっ」

「面白いわ坪川・・・」

「ここまでどもると確定だね~」

「はうわっ!」


 ど、どどどうしましょうっ!

 汐戸さんと左当さんにトモヒトと交際しているのがバレています。


「ふっ私の推理は当たったわね」

「女子の何人かは気づいているの聞いてから推理しても当たったとは言えないかな~」


 胸を張る汐戸さんを左当さんが容赦なく落とす。


 汐戸さんと左当さんは六組の男子達から怖がられている二人だ。

 遠慮なくズバズバ言う汐戸さんとほやほやしながら毒舌を吐く左当さんは男子の心をかなり抉るらしい。次の日にはみんなケロッとしているけど。

 女子からは男子に容赦なく言える存在で頼られている面もある。

 二人合わせて『混ぜるな危険塩と砂糖』と言われている。

 本人達の前でそれを言ったある男子は初恋から一つ前までの好きな人を暴露されて土下座していたのは二学期の最初の頃、現在の好きな人を言わないのは武士の情けとか本人には言っていたけど女子には弱みが握れていいじゃないと笑って話していた。

 恋あるところに塩と砂糖と別名もある。

 つまり私とトモヒトのことも。


「あ、あああのおいくら払えば黙っててくれますか」

「・・・どうして脅迫していることになっているの?」

「自分の弱みを握られて自信満々に言われたら脅迫と勘違いされるかな~」


 お金で黙ってもらおうと(冬に本が出せなくなるけど)すると、二人が顔を合わせて首を傾げた。


「あのね~別に脅しているわけじゃないから~」

「あんたが閑名が好きなのかの確認しただけよ。あんだけ閑名ばかり見てて私達の目がごまかせると思ったかっ」

「坪川ちゃんが~怖がっているからシオちゃん~お口ストップ~」

「くひょっ」


 左当さんの脇腹に鋭い手刀が刺さって悶絶する汐戸さん。


「私達は~男子は容赦なくばらしと弱みを握るけど~、女子の恋は応援したいの~」

「ぐっ、ええそうよ。坪川の恋を成就させてやるっていくきょっ」


 汐戸さんの首に手刀が、それは後遺症が出ると思いますよ。


「させてやるんじゃないでしょ~」

「お、応援させてください・・・」


 今までは汐戸さんが引っ張っていると思っていたけど実権は左当さんだったみたい。


「あの、そんなにわかりますか?」

「二学期初日から何となくね~」

「え、球技大会じゃないのっ!?」


 地位の差で情報にも差が出ている塩と砂糖コンビ。


「あんだけ見られて気づかない閑名に私はイラつくわ」


 それはトモヒトの偽装が上手だからです。

 交際していることは気づかれていないホッとする。でも私だけがバレて片思いになっているなんて。


「あの、このことを知っているのは」

「私達の他には女子数名ね」

「ま~よく見てないとこういうのは気づかないから~」


 ホッとは出来る状況ではなかった。

 トモヒトからバレなくても、このままだと私から交際が知られてしまう。もし知られたら六組の事だからたぶん吊し上げですめばましな方、具視が告白されただけで嫉妬まる出しになる男子は何をするかわからない。


「言っとくけど広めることはしないから」

「はへ?」

「先に言わないとダメだったね~。私達は幸せなカップルが出来るのを見るのが楽しいの~」

「敵とみなしたら情報をばら撒くけどね」

「一言多いから~」


 頭が混乱したので少し考える。


「えっと二人はみんなに内緒で私の応援してくれるんですか?」

「私達だけじゃないわ、気づいている子は全面サポートしてくれるわ」

「付き合った後も恋愛相談にはのるよ~」

「なんのメリットが?」

「「はぁ~」」


 手のひらを上に向けて首を振りながら息を吐く二人。


「女子を構成する栄養素に恋愛があるのは知っているわね」

「いえ初耳です」

「六組は他人の幸福に嫉妬する連中~まあ男子なんだけど~」

「そちらはええ・・・」


 それが恐ろしいとトモヒトからお願いされて秘密にしましたから、あと私もみんなに知られるのは恥ずかしいので了承した。

 あれだけ強いトモヒトが恐れる六組の男子はどのくらい嫉妬深いのか。


「馬鹿共が騒いだらじれじれドキドキして見れないじゃない」

「だから六組の一部女子はクラスに恋する女の子がいたら応援する協定を結んでいるの~」

「あんたがその協定に引っかかった最初の女よ」


 嫌なのに引っかかってしまった。

 トモヒトはなぜ気づかれないんだろう。私は二学期の始業式でバレているのに。


「坪川の閑名を見つめる姿はかなり補給されたわ」

「球技大会で不安そうに見つめる姿は最高だった~」


 や、やめてください~恥ずかしくて死にたくなります。


「でもあんたが積極的にいかないからじれじれし過ぎて私達は死にそうなの」

「だから~」

「「後夜祭で告白しちゃいなよユー!」」


 なぜクラスメイトに強制告白を迫られているのだろうか。


「毎日子犬のように閑名を追いかけて」

「球技大会でホームラン打った時はキスでもすかと思ったのに~」

「「文化祭まで何も進展がない」」


 いえお泊りはしましたよ姉同伴ですけど。

 けっこう進展はしていると思いますよ?


「幸いにして穂高さんをメイドにした時に連絡先を交換できたの」

「友人の為なら一肌脱いでくれるって~」


 湊ちゃんーっ!


「だ・か・ら~」

「お色直ししようね」

「アーッ」


 朝にしてもらったメイクを取られて再メイク、髪もおさげを解かれて櫛を入れられる。

 されるがままの私は何をされているかわからずされるがままに。


「出来たわ」

「これで落ちなかったら閑名君は不能だね~」


 ようやく終わったのか、汐戸さんと左当さんが満足そうにしている。


「あの鏡を見せてくれると」

「ダメ~」

「あんた見たら恥ずかしいとか言っておさげに戻すでしょう」

「うっ」

「ほらメイク中にスマホが鳴っていたわよ」


 汐戸さんに言われてスマホを取り出す。


『汐戸さんと左当さんに綺麗にしてもらったかな。

 二人に相談されて私も少しだけお節介を焼きたいと思います。

 秋夜姉さんに関わった場所に来るといいことがあるかも』


 湊ちゃんからだった。

 交際していることには知らないふりして伝えようとしてくれている。


「「お姉さまが関わった場所!?」」


 ただ二人が姉の下僕に成り下がったこと知らなかったのでごまかすのに苦労する羽目になった。


「じゃ、私達は教室に戻って偽装工作するから」

「結果は教えなくていいから~、雰囲気で予想するのが楽しいし~」


 交際オッケーなら秋夜姉さんの写真を送ることで落ち着いてくれた汐戸さんと左当さんは、私とトモヒトがいなくなるのをクラスメイトからごまかしてくれる為に教室に戻って行った。


「汐戸さんと左当さん、ありがとうございます」


 聞こえているかはわからないけど、歩く後ろ姿に嘘を吐いていることといろいろしてくれた謝罪と礼をする。

 六組は油断すると殴り蹴落とす存在しかいないと思っていたけど、頼もしい味方になってくる人もいたのだ。


 昼にむかった部屋に歩き始める。

 その時に羽織っていたコートを頭から被っている。

 汐戸さんと左当さんからの忠告でトモヒトに会うまでは取っては駄目と忠告された。よくわからないけど綺麗になった姿は好きな人に見てもらいたいでしょ、と言われたら従うしかない。


 昼間でも人気が少なかった部屋までの廊下は冬が近くなったことで夜の帳が早まり薄暗くなっていた。

 昼の活気に満ちた声は聞こえず、やり切った感のざわめきが歩く私の背中から離れていく。


 昼にトモヒトと屋台のものを食べた部屋の前に着いた。

 ドアの小さな窓からは中が暗いのがわかる。

 私は鍵を持っていないのでこのまま待とうと背中を壁に預けようして。


「眞子ちゃんかな?入っていいよ」


 部屋の中から親友の声が聞こえた。

 壁に背を預けようとするのをやめて、ゆっくりドアを開けていった。

 室内は薄暗く、窓から入る他の教室の光で窓際に置いてあったソファーに人の形の影が二つ。

 一つは座っていて、もう一つはソファーに横になって頭部を座っている影の太ももの上に預けている。


「湊ちゃん?」

「うん、少し静かにしてもらえるかな?」


 膝枕しているのはメイドの湊ちゃん。

 長い指を口元に当ててシーとジェスチャーをする。


「さすがに疲れたみたいだからね、少しここで休憩中」


 シーとした手で膝枕されている執事姿の周平君の髪を梳く。

 腕を組んで寝息を立てている周平君を宝物の様に扱う姿は、いつもの愛しているを前面に出して湊ちゃんじゃなく、ただただ愛おしいと見守っている。


「ありがとうね、周平と文化祭を楽しんだよ」

「うんよかったね」


 周平君が六組で一番動いていた。準備期間中も今日なんて一番早くに来てからずっと休まずに。

 六組の誰かから周平君を休ませないかと話が上がった。それは彼に知られないようにクラスメイト全員に広まり、湊ちゃんが来たときに決行された。


「六組のみんなには感謝しかできないけど、眞子ちゃんと友人君にはちょっとだけお返しするね」


 そう言って湊ちゃんはソファーの前にある長机の上に置いてあったものを、近寄ってきた私に渡す。


「それねぶらぶら歩いていた校長先生から預かった屋上の鍵」

「え?」


 屋上は生徒が入れないように施錠されていて行くことは出来ない。


「文化祭で毎年頑張っているなと思う生徒に後夜祭が終わるまで貸し切りにしてくれるんだって。お茶目な校長先生だよね」

「それじゃ湊ちゃん達が」

「ん~、私達は満足したから眞子ちゃんに権利は譲るよ。一緒にいたいでしょ?」


 優しい笑みを浮かべる湊ちゃん。

 応援してくれるクラスメイトに、優しい親友。

 自分は恵まれているなぁと思う。


「あとは一緒にいてくれる人は」

「適当に買ってきたぞ周へ?」

「うん丁度来たね」


 一緒に後夜祭を楽しみたかった彼が私が閉めたドアから入って来た。



 ???視点


 後夜祭はいろんなところで生徒が騒いでいた。

 体育館はビンゴ大会で数字が読まれるたびに歓声があがり、廊下や教室では出店で買ったものを食べたり飲んだりしてくつろいでいた。

 楽しかった祭りの余韻の後夜祭をみんながそれぞれにあじわっている。


 そんな中、普段は点検ぐらいでしか開かない屋上へ出られる扉が開いた。

 屋上に現れたのは二人の男女の生徒。


 お互いの手を握り締めて最初は慣れない場所を慎重に歩き、慣れてくると小走りでフェンスの傍に小走りでむかった。


 女子が被っていたコートを取る。

 いつもはまとめられていた髪がふわりと広がり校内の光に照らされた。


 どこからかゆったりとしたピアノの旋律が聞こえてくる。

 二人はその音に合わせてゆっくり動く。

 ぎこちないが二人は楽し気。

 ようやく慣れてきてテンポも合ってくる。


 二人の影がより近づき、徐々にスローになり

 旋律の中で二人動きを止めて。

 少しだけ重なった。



 湊視点

 親友はたまに凄い行動力を起こすなと思う。


「行ったか?」

「うん、眞子ちゃんが戸惑っている友人君を引っ張って行ったよ」


 目を瞑っていた周平が薄目を開ける。

 彼は眠ってはいなかった。

 ちょっと理由付けの為に眠ったふりをしていただけ。


 汐戸さんと左当さんから連絡が来て、眞子ちゃんに友人君へ告白させるのに協力して欲しいというものだった。

 二人が付き合っているのを知っているので少し困ったけど、文化祭で周平と一緒に楽しんだ恩を眞子ちゃんに返していいかなと考えたのである。

 ちょうど校長先生から鍵を預かったからのもあった。


 周平に相談したら即オッケー、さすが私の彼氏。


 私は今いる部屋に眞子ちゃんを呼び出し、周平は友人君に出店で買い物して部屋で四人で食べようと連絡した。


「ま、成功したようでなによりだ」


 くぁ、と欠伸をする周平。


「眠い?」

「ん、ちょっと疲れたかな」

「寝てていいよ」

「ん」


 すぐに眠りに入る周平。

 その髪を梳くっているとどこからかピアノ旋律が聞こえてきた。

 最近出た人気のある曲を疲れたみんなをいたわるような曲調に変えている。


「~♪」


 よく眠れるように、周平のためだけに私は歌うのだ。



ーーーーーーー

看板『良い雰囲気なのでおやすみです』

汐戸「はんっ!私にはそんなの関係ないくきょっ!?」

左当「は~い、お邪魔虫は後夜祭に行くよ~」


文化祭編はこれにて終了~♪\(^o^)/

あ~、頭を使う話でした(; ̄ー ̄A

今話の最後はどちらを最後に持ってくるか悩みました。

サブタイの二人きりは二組の二人きりです。

校長グッジョブッ(゜∇^d)!!


次は何を書こうかな~(;・ω・)

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