第198話ヴァレンタインは重労働、湊が


 周平視点


「こここ、これ手作りなんですけどっ」


 顔を真っ赤にした女子生徒が両手を前に差し出してきた。

 その手には可愛らしくラッピングされた手のひらサイズの箱がのっている。

 今日はヴァレンタイン。

 彼女は気持ちを込めて作ったであろうチョコを手渡そうとしている。


「ありがとう。校内では食べれないから帰ってからいただくね」

「は、はいっ!」


 笑顔で受け取ると、緊張していた女子生徒も笑顔になった。


「これは手伝って貰って作ったんだけど、一応手作りなんだ。貰ってくれるかな?」


 差し出されたままの手に、貰ったチョコよりも小さめのラッピングされた袋を落とす。

 透明なフィルムの中にあるそれは塩ラスクにチョコをコーティングしたものが二枚入っていた。

 受け取った彼女は熱に浮かされたままよろよろと歩き去る。その胸元にはしっかりとチョコラスクを抱きしめたまま。

 そして彼女が去った後方から違う女子生徒が一歩前に出てきて、チョコを両手に持って差し出した。


「ああ、あのごめんなさい手作りじゃないんですっ」

「気持ちはこもっているんだよね?それが嬉しいんだよ」


 笑顔でそのチョコを受け取る。

 話したそうにする彼女に二、三言葉をかけてどけてもらう。

 今は昼休憩の時間で時間はあるがしょうがない。

 なにせ彼女の後ろにも行列の様に女子生徒が並んでいるので相手をしなければならないのだ。


「まあ一昨年は周平の入院中で中止、去年は高校受験で減ったかと思ったら増えてね?なあ?」


 俺の向かいに座っている友人が呆れたような、俺の反応を見るように聞いてくる。


「副会長に就任したから増えたんだろ。入学式から断トツの人気を誇っているからなぁ」

「会長より票が入ってたマジ?」

「マジマジ。九割以上入ってたって本人が言ってたからな」


 少し晴れた場所で女子生徒の行列が目の前に並ばれているのは湊だ。

 いつもより二割増し美人の笑顔で応対してチョコを貰っている。


「おーおー隣に置いてあるバッグがパンパンになっていってるぞ」

「大きめのヤツを買ったんだけどなぁ」


 さすがに貰ったものをビニール袋や古くなったバックには入れられないから、わざわざ買ったんだけど、あと何個入るやら。


「それよりあれいいのか?湊は助かっているみたいだけどさ」

「本人楽しんでいるからいいんじゃね」


 貰ったチョコを入れるバックの反対側には眞子さんが違うバックを持ち、その中からチョコラスクを取り出し湊に渡している。

 ただし眞子さん表情は笑顔なのに、目は獲物を見つめるケモノの様。


「あれは次に描く本の資料が増える~♪と考えているな」

「なら俺達の本はお役御免になるか」


 そしてお前も人の機微がわかる様になったんだな友よ。学校以外では弄ってやるから覚悟しておけ。


「まあ湊なら手頃なところで止めて戻って昼食を食べに来るだろうが……。お前の方は大丈夫なのか?」

「……帰宅時間までには食い終わる」


 湊が女子対女子の戦いをしている間に、こちらでは友人も戦いを繰り広げていた。

 友人は俺が作ってきたお弁当を食べていない。

 たった一人がくれたチョコを先ほどからずっと食べている。

 まあ眞子さんの手作りチョコなんだが。

 朝早くに貰い、帰宅する前までに食べるつもりらしい。

 閑名家に持って帰れば、あの暴君姉がからかうこと間違いないからそれまでに、というらしいのだが。


「それは放課後までに食べきれるのか?」

「……」


 俺の疑問に答えず黙々と食べ続ける友人にからかうことも出来なかった。

 なにせ友人食べているチョコは総重量一キロ越えの鋭角星型チョコなのである。星形なのは周りに見られると恥ずかしいという眞子さんの気持ちの表れらしい。

 そちらは友人本人から聞き出した。

 一キロ越えになったのは、最初眞子さんはオッパイチョコを作ろうと材料を用意したと湊から聞いた。

 まだまだ眞子さんの腐の知識は悪影響を及ぼしているらしく。笑顔でオッパイチョコを作ると言われた上村先輩と湊が、説得してなんとか思いとどめたそうな。

 オッパイチョコを調理部の部員の前でどうやって作るのかは謎のままに消え去った。(湊に問い詰められてないから表情には出ていない)

 そして消え去った後に現れたのが単独直立型鋭角星チョコだ。


「チョコを見続けて甘い物が駄目になる湊用に弁当はさっぱり系としょっぱい系にしたんだが」

「食えると思うか?」


 だよね~。


「私は食べれますよ!閑名君のチョコも手伝ってあげます!」


 そこに元気に反応したのは幼女科幼女目の異次元生物その一の梅ちゃん先生。

 人気マスコットの梅ちゃんは、朝から大量のチョコを貰って休み時間の度に食べている光景が口内で目撃されていたのに。


「梅ちゃんは俺の代わりに弁当を食べてくれ」

「お弁当も食べますよ?でも今日はメインはチョコなんです。他はデザートですよ」

「「な、なんだとぉっ!?」」


 この生物ナマモノは俺が創った弁当をデザートと申すのか。

 言葉通り梅ちゃんは自分の近くから弁当の中身をバクバクと食べていっている。

 ああ冷めても美味しい塩焼きそばが凄い勢いで梅ちゃんの口の中に吸いこまれていく。


「梅ちゃん梅ちゃん、そんな一気に焼きそばは食べるものじゃないよ」

「?焼きそばは飲み物ですよ」


 なに言ってんだこいつ?みたいに首をコテンと傾げるブラックホールストマッククリーチャー。

 友人を見るとチョコで血糖値が上がり過ぎたのか、顔を上に向けて首の後ろトントンしながら、ありえねぇと横に首を振った。

 異次元の人は姉やその彼氏や幼女科幼女目の異次元生物その二の人だけで充分なんだけど。


「チョコ下さいー。箸休めに甘い物が欲しいんです」

「はいはい。梅ちゃんはこれを食べときな」


 友人にギブミーチョコをする梅ちゃんに見栄えが悪いチョコラスクを渡す。

 処理に困っていたら上村先輩に梅ちゃんに食わせとけと言われていたけど、雨乞い2.14の特技のような無限胃を持っているのは教えて欲しかった。


「あ」


 チョコラスクを貰えて(その横には自分が貰ったチョコを置いてある。午後の分らしい。オェ)喜ぶ梅ちゃんに呆れて、行列消費中の湊を見ると、渡した女の子が興奮し過ぎたのかフラッと倒れる。


「おっと」


 それを湊が腕で攫う様に抱きかかえた。


「大丈夫?」

「ひゃ、ひゃいぃぃ~」


 至近距離で湊に心配された女子生徒の顔はリンゴの様に真っ赤なる。


「……やったな」

「やっちゃったな。湊ちゃんしまったあぁぁあっ!て表情に出てるし」


 殆どの人にはわからないだろうが、長年一緒にいる俺達にはわかる。

 今の湊の心中はウキャーと騒いでいるだろう。

 列に並んでいる女子生徒達の目が変わった。

 これから湊は倒れようとする彼女達を抱き留めなければならないようだ。

 不幸中の幸いなのは昼休憩のチョコの受け渡しはある程度終了しているところか。


「おい眞子さんがいそいそと列に並ぼうとしているぞ」

「実体験したいんだろ。お茶くれお茶」


 チラチラと食べているのを確認していた眞子さんの視線が無くなったから、お茶を要求する友人。

 わかるぞ。

 期待して見られると、それ以外の行動が出来なくなるんだよな。


 そしてヘルプの目を向けられても俺は助けに行けないぞ湊よ。

 お前の目の前にいるのは飢えた野獣達で、俺と友人なんてワンパンで倒すぐらいまで戦闘力が増大しているんだ。

「モグモグふうっ。食中のデザートを食べ終わりましたし、時間も少ないですからラストスパートをかけますよっ!」

「食中ってなに?食前食後の他にあったの?」

「てかチョコ食ってまだ弁当を食べるつもりかよ。ウプ」


 俺は友人の胃に精神的ダメージを与えるブラックホールティーチャーから、湊と眞子さん分のミニお弁当を食べられている中から選んでまとめないといけないんだ。



 数時間後



「酷いよ。あれだけ助けを求める私を見捨てるなんて」

「悪かったって。でもおにぎりミニセット弁当の分を作る為だからしょうがないだろう」


 時東家のリビングでお怒り心頭の湊さん。


「う~確かにあれが無かったら、私も眞子ちゃんも午後の授業がきつかったけどさ。腕がパンパンになったの、私女の子だよ?あんな人数目の前で倒れるフリをするなって」

「うんうん」


 放課後も続くチョコ受け渡し会。さすがにわざと倒れようとする生徒はお断りにしたけど、家に帰りつくころには湊はボロボロだった。

 疲れた湊は理性が麻痺して甘えん坊になってしまう。


「周平聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。ほら濃い目に淹れたお茶を飲め」

「ングング」


 で、今は俺の膝の上にお姫様抱っこで座り、俺の手から餌付けされていた。

 湊は不満たらたらな口調なのに、構われると嬉しそうにする。


 夕食を食べ、入浴をして湊が貰ったチョコで市販のものを湊は俺から食べさせてもらっている。


「うんお高いのは値段相応に美味しいね」


 だらけた湊は一番高そうなチョコから食べている。


「俺も食べたいんだけど」

「周平は私のチョコを食べるまでダメー」


 流石に湊一人では食べきれないチョコの量なので俺も食べるし、家族も食べる。

 ただし俺は湊から貰ったチョコを食べきってからでないと食えない。

 嫉妬塗れの彼女が。自分の心に折り合いをつけた方法であった。

 以前からしていることだから別に不満はないんだけど。


「なあ湊。お前の手作りチョコえらく濃くて苦くて酸味があるんだけど」

「カカオ95%で作ったからね」

「だけど中は甘いのといろんな固形のものが入っているし」

「蜂蜜と潰したバナナでいろんなものを混ぜて入れたから」

「果物はわかるけど、なぜ少し辛い」

「トウガラシを入れたし、あとはイチジク、松の実、マカ、あとは閑名家から貰ってきた乾燥トリュフを」

「……なあ湊さん」

「なんでしょうか周平君」

「その材料は大罪シリーズの一つ、色欲のトリュフチョコの強壮バージョンの材料に近いんだけど」

「うん。周平がキッチンの棚の奥に隠していたレシピを見つけていたから、上村先輩にわかりにくいように、違うチョコにレシピを変えてもらって作りました」


 中学の全盛期の頃になんてものを創り出したんだと封印したのを……。

 いつか槍ジジイに食べさせてエキサイティング猿踊りを見ようと残したのが悪かったようだ。


「興奮する?」


 あ~そんなすぐには効果は出ない。

 だが首を傾げて可愛らしくこちらを見てくる湊。風呂上りでパジャマ姿で密着されると興奮はする。


「キャ~♪」


 そのままお姫様抱っこで自室に向かった。



 放課後のあるファミレス



「美味しかったですか?」

「美味かったです」

「本当に?」

「本当デス」


 これで聞かれるのは三十二回目……。たまにならいいが、あいつらいつもこんなことやってんの?



 あるマンション



「もう無理っ!中抜きしてもオッパイチョコは凄い量なのっ!」

「貴光貴光、はいあげる」

「わーいっ♪チロルチョコ一個貰ったよ!お返しは何がいい?」

「ん~雨乞いの3?」

「……それは時間が足りないなぁ」



 とある一室



「「「「「ぬうぅぅっ!」」」」」

「チョコなぞ惰弱っ!」

「「「「そうだぁっ!」」」」

「貰った男は明日去勢するぞ!」

「「「「やるぞぉっ!」」」」

「この身死しても嫉妬の炎は永久に髷に灯されるのだ!」

「「「「おおーっ!!!!」」」」

「あんたら変な髪型して何やってんの?ほら余ったチョコあげるから大人しくしときな」

「「「「お姉様ありがとうございます!」」」」

「姉貴入ってくんなよっ!あとお前ら大袋入りのチョコ貰って喜ぶんじゃねぇっ!」


ーーーーーーーーーーー

湊「バレンタインは無いほうがいいです」

周平「お返しと一人一人対応だからなぁ」

眞子「バレンタインは楽しいです!」

友人「わかったから、チョコの大きさは普通サイズにしような」

湊「あ、それもったいないから全部使えばって、私と上村先輩で勧めたよ」

周平「ほとんど学校に来ないですむから、大きいチョコを見たかったな上村先輩」

友人「グギギギ」


はい、年も半分終わっているのにまだまだ2月なバカップルです(*´∀`*)ノ

湊にとってある意味苦行な日ですね。

眞子が一番楽しんでいます。

友人はまだまだ未熟な彼氏です。

周平は箱消費で満足ヽ(´▽`*)


後半の二組は…、ここまでバカップルを読んでいる読者様(中毒者)はわかっていますよね?(ΦωΦ)


そろそろ日にちを一気に進めないとな~(;´Д`)

二百話超えてようやく一年が経ちそうです(・∀・)

まともに書くか、上村先輩の最後を華々しく書くか…脇役の男をメインで書くのはおかしい?(;・д・)


オマケ

「チョコをあげましょう」

「……」

「女の子に貰って少し喜んでいますね?」

「板チョコを貰って、どう反応すればいいか困ってたの!」

「おかえしは三十倍返しの現金お願いします」

「ぼったくりバレンタインっ!?」

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